ヴェルオス
「愛梨、おはよう。」
「お…おはようございます…。」
気を失い眠りについてしまった愛梨が目を覚ますと、脇には美しい姿のバジルが立っていた。
「こっちの姿の方がいいらしいね。」
「すみません……私…蛇だけはどーしても苦手で……。」
「…本来の姿はそっちなんだけどね…。」
「ごめんなさい…ッ。」
「まぁいいさ、で、あんた、どーしてこの世界に来たんだい?」
「分かりません…気が付いたら…。あ…そういえば…ッ!! 斉藤先輩…ッ!!」
「何か思い出したのかい?」
「はい…ッ!! 私…落ちたんです! 学校の屋上から…ッ!! 斉藤先輩らしき人が屋上から飛び降りようとしてたのを助けようとしたら腕を引っ張られて一緒に…ッ!!」
「…巻き沿いくらったんだね…。あんたついてないねぇ。」
「は、はぁ…。」
「で、あんたが今着てるその服はどっから手に入れてきたんだい?」
「……貰いました。」
「誰から?」
「ニコラス…です。」
「ニコラス? そんなやつ聞いたこと無いね、あんたが着てるその服は、イノタロスしか装備できない代物だよ、まぁ、人間達はイノタロスの素材を使って新しく作り上げ装備してるみたいだが…。」
「そ…そうなんですか…? よく分からないですが…。」
「とりあえず、あんたが今着てるイノタロスの服は人間が手に入れるのは不可能に近い、そんな代物をあんたは何故手に入れ着てるんだい?」
「え…? いや…なんか…気が付いたらニコラスの家のベッドにいて…。」
「イノタロスの家に!? あんたみたいな泣き虫がどうやって入り込んだんだい…!?」
「いや…気が付いたら…。」
「あんた…一体…何者なんだい…?」
「え……? いや…あの…。」
「イノタロスは凶暴な獣人族の一種なんだよ、そんなイノタロスがあんたのような人間を家に入れ、ましてやベッドにまで運び入れるなんて…有り得ないね…。」
「…ニコラスは優しかったです…。」
「有り得ない…何故あのイノタロスが…。」
「バジルさんは…何者なんですか…?」
「…さぁね。愛梨、あんたこれからどうするんだい?」
「え…? んんん……、ニコラスの家に帰ろうかと思ってたんですが……その先までは何も考えてませんでした……。自分の家に帰る方法は無いみたいだし……私…どしたらいいのやら……。」
「…これからあんたがどうしていくのかは私らが決める事じゃない、あんたが決めるんだ、まぁ…とりあえずイノタロスの家に帰ったらいいさ、おい! ヴェルオス! 聞いてたんだろ! 愛梨をイノタロスの家までお届けしてやんな!」
「はいよ。」
バジルは木製ドアを開けると愛梨を手招きした。愛梨はベッドから降りバジルに誘導され木製ドアから外へ出ようとした、するとバジルは愛梨の背中に手を当て、呪文を唱えた。バジルの体から湧き出てきた緑色のもやは愛梨の体にまとわりつき、体内へ吸収されていった。
「私からのプレゼントだ、また何かあったら訪ねてきな。」
「はい…!? あ、ありがとうございます…。」
バジルは愛梨の背中を押すと、愛梨は暗闇の外へと突き出たされ、何者かに抱かれるようにすくい拾われ足は宙に浮き愛梨は足をバタつかせた。
「ほえ…!? あ…足が…ッ!?」
「大丈夫、飛んでるだけだから、俺はヴェルオス、よろしく。」
「はい…ッ!! 私は愛梨… 」
「知ってるよ、で、イノタロスんとこまで行きゃいーのかな?」
「は…はい…。」
「じゃ、じっとしててね。」
「はい…ッ。」
ヴェルオスは愛梨を優しく抱きしめると羽根を勢いよく動かし上空へ飛び上がり森を抜け出た。
「わぁ…す…すごい…ッ!!」
森の中とは違い外は明るく、見渡す限り広がる森、草原、遠くには街、街の向こう側には大きな山、それに…
「え…ッ!? お城…ッ!?」
大きなお城に、さらに上空には…
「何…ッ!? 何か…浮いてる…ッ!?」
「ああ、あの城は、バスタ城、で、あっちは偽龍の島。」
「信じられない…ッ。」
「ははッ、愛梨のその反応は新鮮に思えて楽しいよ、久々に人間らしい人間に会えた。さ、もう着く。目をつぶるんだ。」
「はい…ッ!!」
ヴェルオスは勢いよく飛び進むと森の中へ入り込み、愛梨を地に起くと、
「着いたよ、目を開けてごらん。」
愛梨はゆっくりと目を開いた。
「あれ…? ヴェルオス…さん…?」
ヴェルオスは愛梨の目の前から姿を消した。