黒い猫
この子…起きないねぇ…。
仕方ないだろ…ババアの顔見た……痛ッ!!
私のこの醜い顔のせいだって言いたいのかい?
い…いえ…。
無駄口ほざいてないでさっさとその子起こしてやんな…。
ババア…口悪すぎ……痛ッ!!
はーやーくッ!!
…たく。いちいち叩くなよ…つか、そんな姿じゃこの子また気失っちまうぞ?
分かってるよ…いいから早く起こしてやんな。
はいはい…、おっと、俺もこんな姿じゃマズいよな……カワイイカワイイ姿にならねーとな。
ボワッ
それがカワイイカワイイ姿なのかい?
ああ、そうさ!
あんたのセンスはよく分からないよ…
うるせーな…蛇面のババアにああだのこうだの…痛ッ!!
ほれッ!! さっさとしろッ!!
……。
「オイ! オキロ! オキロ!」
「…んッ。」
「オーキーロー!」
「ひゃあッ…!! ね…猫…ッ!? えッ!?」
「ニャーオ! ニャーオ!」
「か…可愛い…ッ!! けど……猫っぽくない…。」
「ニャーオ?」
フカフカのベッドの上で仰向けになり寝ていた愛梨の腹の上には見慣れぬ黒い猫。
「顔がちょっと怖い…それに……羽根がッ!?」
「トベルネコダニャー!」
「な…なるほど……ッ! ……やっぱり…私夢見てたんじゃなかったんだ……これは…現実なんだね……。」
「…ニャ?」
黒い猫は首を傾げた。
「もう家には帰れないんだね……。」
愛梨は布団を頭の先までかぶった。
「ニャニャニャ…ッ!」
勢いよく動いた布団に足を取られ黒い猫は羽根を使い宙に飛び浮き、少し離れた場所に置いてある一人掛けの赤いソファに着地し、寂しげな顔をしながら身を伏せた。
「あんた、人間だろ? 何故あんたみたいな弱虫者がこんな世界に来ちまったんだい?」
愛梨はゆっくりと布団から顔を出すと声のする方へ視線を送るとそこには綺麗で美しくだがどこか陰のある若いであろう女性を目にした。愛梨はゆっくりと上体を起こすと、その女性の方に顔を向けた。
「あなたは……?」
その美しくも陰のある女性の冷たく鋭い眼差しに少し怯えながらも愛梨は一瞬目を合わせすぐ視線をそらしながら言った。
「…私はバジルだよ、あんたは?」
バジルは自分が先に質問をしたのにも関わらず愛梨からは答えではなく質問で返ってきたため少し苛立ちを覚えながらも愛梨の心境をすぐに汲み取ってやると大人しくそれに従ってやった。
「私は…愛梨です…。」
「そうかい、で、あんたは何でこんな場所に来ちまったんだい?」
「あの…! 蛇の顔したお婆ちゃんはッ!?」
「コレかいッ!?」
短気なバジルは怒りをあらわにし、蛇の顔をした老婆の姿に戻り愛梨に見せつけてやった。
「はわわわわ……ッ!!」
バタン…ッ!!
愛梨は気を失い、起こした上体をベッドに倒した。
「あらま。」
バジルは冷たく鋭い眼差しで気を失ってしまった愛梨を見ると溜め息混じり言った。
「ほんっとに……ッ。この子はなんでこんな場所に来ちまったんだろね…。」
一人掛けの赤いソファで寂しげな顔をし寝伏せる黒い猫が溜め息混じりに返事した。
「さぁな…。ただ…こんな子がこの世界に一人はいてもいいんじゃねーか…?」
「…こんな子、この世界じゃやってけないよ…?」
「なんで…?」
「優しさだけじゃ生きてけないのはあんただって身をもって知ってきただろ?」
「確かにな…この世界には友情も愛情も何にもない…全て見せかけ…作り物…皆自分が一番になりたいのさ。その為にこの世界に来たんだからな。」
「呆れちゃうね…。私も目が腐るほどプレイヤー達を見てきたけど、どいつもこいつもゴミだったね。だが、この子は違う。」
「だろうね…。」
黒い猫は静かに笑った。
「何が可笑しいんだいッ!?」
バジルは殺気立った目で黒い猫を睨みつけた。
「……。」
黒い猫は目を閉じ狸寝入りした。
「にしても……この子はほんっとによく寝る子だね…。」
愛梨の間抜けな寝顔を見ながらバジルは冷たく鋭かった目を緩ませた。
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