バジル
「はぁ…はぁ…はぁ…ッ!!」
街から出た愛梨は、草原でプレイヤー達がモンスターを狩る中を走り抜くと、ニコラス達がいる森へと入っていった。
森の中でもプレイヤー達はモンスターをひたすら狩り続けていた。
「はぁ…はぁ…はぁ…ッ!!」
ひたすら走る愛梨は森の中腹まで来たのかどうなのかさえ分からない森が暗闇を創るところまで来てしまった。
「はぁ…はぁ…ッ!!」
走り疲れ足を止めた愛梨は辺りを見渡すが暗闇に包まれて何も見えなくなっていた。かすかに聞こえる木々の葉が揺れ動く音、雑草なのか何なのかさえ分からない地から生える草の揺れ動く音、たまに聞こえる生き物達の奇妙な鳴き声に愛梨は身を震わせしゃがみ込んだ。
「どうしよう……ここ…どこなんだろ…ッ。暗くて何にも見えないし…ッ、怖いよ…ッ!!」
ガサガサ… ガサガサ…
「……ッ!?」
周りに生える草達が揺れ動く度、愛梨は身をビクビクッと震わせ怯えた。
ガサガサ… ガサガサ…
ガサガサッ!!
「きゃあッ!!」
「グエッ!!」
ドカッ!!
突如草陰から何かが愛梨に衝突し愛梨は倒れ込み、衝突してきた何かは愛梨の身体の上に乗っかった。
「いやッ!! 何ッ!? 何ッ!? きゃあッ!!」
バシンッ!!
「グエッ!!」
怯え慌てふためいた愛梨は腕をぶん回し身体の上に乗っかった何かを叩き飛ばした。
ガサガサッ!!
何かは草の向こう側に吹っ飛び戻された。
「な、な、な、何なの…ッ!! もう嫌ッ!! 嫌嫌嫌嫌嫌ぁーッ!! うわぁーん!!」
愛梨は恐怖に耐えきれず泣き出してしまった。
ガサガサ… ガサガサ…
「あんたは…ッ!! ほんっとにバカだね…ッ!! こんな暗闇であんな怯えてる子に飛びついたら余計怯えちゃうじゃないか…ッ!!」
「ゴメンナサイ…。」
暗闇の中、草の向こう側で聞こえる老婆のような声と、かすれて聞き取りずらい声で謝る、恐らく先程愛梨に衝突してきた何かであろう。
「…ッ!? だ…誰ッ!?」
ガサガサッ!!
「いやッ!!」
「お嬢ちゃん、怯えなくても大丈夫だよ、私も人間みたいなもんだ、怯えないでおくれ。」
「…ッ!? お婆ちゃん…? は人間じゃない…の…?」
「人間…ではないが、人間みたいなもんだから、気にしないどくれ。」
「えッ!? えッ!? え…ッ!?」
「キニシナイドクレ! キニシナイドクレ!」
「あんたは黙っときな!!」
ポカンッ!
「グエッ!!」
「えッ!? な、何ッ!?」
「ああ、すまないね、あんた、暗闇で目が利かないんだったね、ほれ、これで見えるはずじゃ!」
老婆が愛梨の目に向け手を煽り風を吹きつけると今まで老婆の腰辺りを見ていた愛梨の目は、老婆の顔を直視できるようになった。
「お婆…ちゃん…?」
「そうじゃ。」
「ち、違う……ッ。」
老婆の顔を見ると愛梨は気を失ってしまった。
「あらま、失礼だね、人の顔見て気を失うなんて、ほんっとに失礼な子だね。」
「ババア! ヘビ! ヘビ!」
「…? ああ、顔はヘビだけど身体は人間みたいだし、日本語はインプットされてるから人間と変わらないじゃないか…? それよりあんたね、『ババア!』は失礼じゃないか、私ゃこう見えてまだ……まぁ、年の話は後ででいいか、それより、この子をどうにかしないとね…。」
「マチ!カエス?」
「…いや、家に連れて帰るよ…。」
「ナンデ? ナンデ?」
「この子の着ている服が気になるからね…。」
「…タシカニ。」
「さ、行くよ! あんたはさっさとその弱々しい身体、元の姿に戻して、その子を運ぶんだよ!」
「ワカッタヨ、ババア!」
「チッ…!! もうその喋り口調止めなッ!!」
「ハハッ、悪かったよ、バジル。」
「たく…。あんたみたいな、ろくでなし!が最終地点なんて…だーれも信じないだろうね…。」
「ハハッ…勘弁してよ…俺だって好きでこの役やってるワケじゃないんだからさ…ね?」
「はいはい…。もういいから、黙って運びなッ!!」
「はいよッ!」