汚ブタちゃん…
愛梨は朝になっても帰らなかった。
愛梨の母親は、愛梨が行方知らずになった日の夜中に警察に通報した。
学校では愛梨の話題で持ちきりだった。
「ねぇねぇ、いなくなったのって、愛梨だけじゃないんでしょ?」
「サッカー部の斉藤先輩も行方不明らしいよ…!」
「もしかして……二人一緒なのかな?」
生徒達は好き勝手に想像を膨らませ話していた、周りで話すクラスメイトをよそに、自分の席でそれをただ黙って聞いていたのは、愛梨の親友でもあり、斉藤先輩を慕う優花と、愛梨に気があるのかいつも愛梨を見ていた柚希だった。
ガラガラガラ
「授業始めんぞー」
いつもと変わらず授業は進みゆき、気付けばその日の授業はすべて終わっていた。
クラスメイトが帰宅し教室に残ったのは、優花と、柚希だけだった。
二人は黙ったまま自分の席に座っていた。
生徒達はほぼ皆校舎から出ていったのか、廊下からは話し声や笑い声は消え、二人が残った教室内には校庭で部活をする生徒達の声やボールを蹴る音、打つ音、部活の顧問教師の声、校庭周囲で黄色い声援を送る女子生徒達の声が、教室内へとこぼれ入ってきていた。
「優花さん…!」
沈黙する優花に柚希はついに話しかけた。
「愛梨さんは……」
コンコン…ッ!!
半開きになっていた教室のドアをノックする音が優花と柚希を呼び、二人はドアの方へ視線を送ると一人の女子生徒が立っていた。
「あのー、優花さんて…アナタ?」
「…? そうですけど…なんで私の名前を…?」
「え? いや、今そっちの男の子がアナタの名前呼んでたの聞こえたから…。」
そう言うとその女子生徒は教室内へと入ってきて優花のそばまで近付くと手に持っていた物を優花の机の上にそっと置いた。
「これ、アナタのでしょ?」
「え…ッ? なんで…ッ?」
「昨日の放課後、何か校内を走り回ってた…確か…高梨さん? て子が落としていったのを拾ったんだけど…。」
「…!! 愛梨と会ったんですか…ッ!?」
「うん、なんか斉藤君を探してたみたいだったけど…。」
「それで…ッ!? 愛梨は…ッ!?」
「斉藤君は屋上にいるって教えたから、屋上に向かったんだと思うけど…私が行った時には誰もいなかったわよ。」
「そうですか……。」
「でも…私が屋上に着いた時、女の子の悲鳴が聞こえたの。」
「え……ッ!?」
「でも屋上には誰もいなかったわ…まさか飛び降り自殺したんじゃないかと思って、外側もぐるりと見たけど、誰をいなかったわ。多分あの悲鳴は空耳だったのね。」
「そうですか…。」
「じゃ、私これから用事あるから、じゃあね。」
「あ…これ、ありがとうございました…。」
「いーのいーの、気にしないで、じゃ。」
そう言い残し女子生徒は教室から出ていった。
「愛梨…どこ行っちゃったのよ…。」
優花は机の上に置かれた斉藤先輩へのラブレターを見つめ涙を流した。
「……ッ。」
ラブレターを握りしめ机に顔を伏せ泣く優花を見て、柚希はとっさに教室から飛び出していった。
「愛梨さん…ッ!!」
柚希は廊下を駆け走り、階段を駆け上がり屋上への扉を荒々しく開き出た。
誰もいない屋上には風が吹き荒み、柚希を吹き飛ばそうとしているようだった。
柚希は屋上に愛梨が来たという痕跡が何かないか、目を凝らしくまなく探し回った。
「何も…無い…か……。」
くまなく探し回ったが愛梨の痕跡は見当たらず、柚希は教室へ戻ろうと屋上扉へ向かうと、開いた扉の裏に何かキーホルダーのような物が落ちていた。柚希はそれを拾い、教室へ戻り、机で伏せ泣く優花に見せた。
「優花さん…ッ!! これ…ッ!!」
泣き伏せていた顔を上げ柚希が持つキーホルダーを見ると優花は目の色を変えた。
「それ……私が愛梨にあげた『汚ブタちゃん』のキーホルダー…ッ!! ホントは…後で渡そうと思ってたんだけど…愛梨ったら…物欲しそうによだれ垂らしてたから…先にあげちゃったんだ……でも…これ、何処にあったの?」
「屋上だよ…ッ!! 愛梨さんは、さっき来た女子が屋上に向かった時、屋上にいたんだよ…ッ!! あの女子が聞いた悲鳴は愛梨さんだったんだよ…ッ!!」
「…でも、愛梨の姿は見あたらなかったんじゃ……?」
「…斉藤先輩もいなくなってるんだ…斉藤先輩が愛梨さんに何かしたのかも…ッ!!」
「斉藤先輩はそんな事…ッ!!」
「斉藤先輩の事調べてみる…ッ!!」
「やめて…ッ!! 斉藤先輩はそんな事しない…ッ!!」
「斉藤先輩が愛梨さんに何かしてないとしても、何かしら手掛かりは掴めるはず……僕一人で調べるから…優花さんは…何もしないでいればいい……。じゃあね。」
「……ッ。」
柚希は机の脇に掛けたカバンを取り上げると、教室から駆けでていった。
読んでくださりありがとうございます(^^)
更新遅くてすみません…σ(^_^;