焼きたてパンにバターを塗って食べるお話
「アスランアスラン!焼きたてパンだよ!」
キナはまだ湯気の立つパンをどっさり籠に入れて
居間のテーブルへと運んできた。
小脇にバターとジャムも携えて、
「キナちゃんお手製焼きたて丸パン試食会」
の準備は万端である。
読書中だったアスランが渋々本を置く。
「まだ昼には早いだろう……」
「焼きたては正義です!」
この魔女が世界の次の秩序を「焼きたて」にしない事を、賢者は心から祈った。
キナはそんな祈りを知る由もなく
「あちあちあちち」と言いながらパンをパカっと半分に割った。
これでもかとバターを塗りたくり、アスランへと差し出す。
「ちょっとバターが多いんじゃないか……」
「乳脂肪分も正義です!」
アスランは最早何も言わず、パンを受け取った。向かいではすでに「はふはふ、あちち!」と言いながらもぐもぐと口を動かしている。
まだ中天へ向かう途中の低い日差しが窓から注ぐ。
その煌めきの中、アスランは手の平に感じる熱に、
僅かに眉を顰めた。伏せた睫毛が光の中で揺蕩う。
熱はじんわりと、その白く長い指先からアスランを侵食していく。侵食に抗うが如く、その熱を帯びた丸い膨らみが薄く開いた唇に捧げられる。
膨らみは最早、手指の檻に囚われ、思うがままに蹂躙されるのを待つばかりの存在だ。
やがて、やわやわとした小麦色に、そっと真珠の歯が沈む。真珠は、そのか弱い抵抗を物ともせずに、ぷつりと小麦色の肌を破り、白く柔らかな聖域へと深く深く潜っていく。
膨らみがその容赦のない圧に屈服すると、未だ熱を湛えた内側から、じゅわりと神々の美酒の如き、濃厚で芳醇な黄金が溢れ出す。黄金の雫は、まるでその高潔さを奪うかのように、艶やかな唇を汚していった。
赤い舌が、そっと唇の間から覗く。
そして、あたかも罪深き誘惑に屈したかのように、
その甘美な雫をちろりと舐め取った。
向かいからの物音はいつしか途絶えていた。
両手でパンを持ち、かぶりつこうとした姿勢のまま、
キナはフリーズしていた。
私は今、何を見せられていたんだろう……
呆然とするキナにアスランが言う。
「冷めない内に食べなさい」
キナはパチパチと目を瞬き、パンに齧り付いた。
(美人怖っ!)
と思いながら。




