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夜天余話  作者: 宵宮 詠
3/3

焼きたてパンにバターを塗って食べるお話



「アスランアスラン!焼きたてパンだよ!」


キナはまだ湯気の立つパンをどっさり籠に入れて

居間のテーブルへと運んできた。

小脇にバターとジャムも携えて、

「キナちゃんお手製焼きたて丸パン試食会」

の準備は万端である。


読書中だったアスランが渋々本を置く。


「まだ昼には早いだろう……」


「焼きたては正義です!」


この魔女が世界の次の秩序を「焼きたて」にしない事を、賢者は心から祈った。


キナはそんな祈りを知る由もなく

「あちあちあちち」と言いながらパンをパカっと半分に割った。

これでもかとバターを塗りたくり、アスランへと差し出す。


「ちょっとバターが多いんじゃないか……」


「乳脂肪分も正義です!」


アスランは最早何も言わず、パンを受け取った。向かいではすでに「はふはふ、あちち!」と言いながらもぐもぐと口を動かしている。




 まだ中天へ向かう途中の低い日差しが窓から注ぐ。

その煌めきの中、アスランは手の平に感じる熱に、

僅かに眉を顰めた。伏せた睫毛が光の中で揺蕩たゆたう。


熱はじんわりと、その白く長い指先からアスランを侵食していく。侵食に抗うが如く、その熱を帯びた丸い膨らみが薄く開いた唇に捧げられる。

膨らみは最早、手指の檻に囚われ、思うがままに蹂躙されるのを待つばかりの存在だ。


やがて、やわやわとした小麦色に、そっと真珠の歯が沈む。真珠は、そのか弱い抵抗を物ともせずに、ぷつりと小麦色の肌を破り、白く柔らかな聖域へと深く深く潜っていく。


膨らみがその容赦のない圧に屈服すると、未だ熱を湛えた内側から、じゅわりと神々の美酒の如き、濃厚で芳醇な黄金が溢れ出す。黄金の雫は、まるでその高潔さを奪うかのように、つややかな唇を汚していった。


赤い舌が、そっと唇のあわいから覗く。

そして、あたかも罪深き誘惑に屈したかのように、

その甘美な雫をちろりと舐め取った。




 向かいからの物音はいつしか途絶えていた。

両手でパンを持ち、かぶりつこうとした姿勢のまま、

キナはフリーズしていた。


私は今、何を見せられていたんだろう……


呆然とするキナにアスランが言う。


「冷めない内に食べなさい」


キナはパチパチと目を瞬き、パンに齧り付いた。


(美人怖っ!)


と思いながら。

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