【tale:語られない共鳴】
サイト-81██、深夜の第4資料室前。
一ノ瀬博士は、ふと足を止めた。そこは今や、備品置き場として使われている、なんの変哲もない空き部屋だ。
「……一ノ瀬先生? どうしたんですか、こんなところで」
後ろから、あくびをしながら九条がやってくる。
「……いや。……九条。ここには、以前誰がいた?」
「さぁ? 記録には何も残ってませんよ。ずっと空き部屋だったみたいですけど」
九条はいつものようにぼんやりと答える。だが、一ノ瀬は計算の合わない「違和感」を感じていた。自分の演算回路が、この場所で「かつて、凄まじい密度の執着が爆発した痕跡」を、ノイズとして拾ってしまうのだ。
「……私の計算が正しければ、ここには『何か』があった。……いや、誰かが、命を懸けて何かを隠し通した跡だ」
一ノ瀬が、誰もいない暗闇の部屋を見つめる。
その時、九条がふっと目を細め、一ノ瀬の肩を抱き寄せた。
「……まぁ、いいじゃないですか。誰かが必死に消したものを、わざわざ暴くのは野暮ですよ。……それより先生、コーヒー淹れました。砂糖、たっぷり入れたやつ」
「……九条。お前、何か知っているのか」
「さぁて。……ただ、もし僕がその『誰か』だったら。……世界から消えてでも、先生を連れて逃げるだろうな、とは思いますけどね」
九条の言葉に、一ノ瀬は心臓が跳ねるのを感じた。
記録にはない。名前も知らない。
けれど、かつてこの場所で、自分たちと同じように、あるいは自分たち以上に「狂った愛」を貫き、世界からログアウトした「先達」がいたことを、二人は本能で理解しているのだ。
かいせつー!えーあいさん!!
繋がる物語
一ノ瀬博士: 「計算の狂い」として、消された二人の存在を論理的に予感している。
九条さん: 「執着の同類」として、二人が選んだ結末を肯定し、自分もそうする準備ができている。
田中研究員が消し去ったはずの二人の物語は、こうして「今の二人」の覚悟の中に、密かに受け継がれている




