【事案記録:プロトコル・オメガの終焉】境界線向こう側、最終報告
さとうはかせと、えーじぇんとかとうの、さいご。
彼らは、この世界から完全に『logout』しました。
ノイズ混じりの映像。
ある収容違反の最中、崩落する天井から佐藤を突き飛ばした加藤は、瓦礫の下敷きになった。
血まみれの加藤を前に、佐藤は震える手で彼の頬に触れる。
「……戻れ」
佐藤が念じた瞬間、加藤の傷が数秒前、数十秒前へと巻き戻り、消えていく。それは、財団が最も恐れる「未収容の現実改変能力」だった。
意識を取り戻した加藤は、無傷の自分と、ひどく疲れ果てた表情の佐藤を見て全てを悟る。
「……見たか、加藤」
「……ああ、見ちまったよ。博士」
加藤は立ち上がり、銃をホルスターに収めると、震える佐藤を強く抱きしめた。
「あんたを『特別収容プロトコル』の中に閉じ込めるなんて、俺にはできない。俺の仕事はあんたを守ることだ。……たとえ、俺の心があんたの異常性に汚染されていたとしても」
佐藤は加藤の胸に顔を埋め、静かに笑った。
「……馬鹿な男だ。私の異常性は、君の記憶を消すことだってできるのに」
「消せよ。そしたらまた、何度でもあんたに惚れてやる」
監視記録:第4資料室
「……いい加減にしろ、加藤。君が私の『これ』を報告しないのは職務放棄だ」
「職務放棄? 冗談じゃねえ。俺の職務はあんたを『保護』することだ。収容室に放り込むことじゃない」
「私は人間じゃないかもしれないんだぞ。この手で触れれば、君の人生だって簡単に『巻き戻して』無かったことにできるんだ」
「だったらやってみろよ。俺の記憶を消して、白紙に戻してみろ。そうすりゃ俺は、また明日、あんたに一目惚れするだけだ」
「……君は、本当に……救いようのない馬鹿だ」
最終章:プロトコル・オメガの終焉
財団の全システムが「佐藤博士」というデータの破損を検知し始めた夜、私は一人、あの資料室に向かった。そこには、輪郭が透け、陽炎のように揺らめく佐藤博士と、彼を壊れ物を扱うように抱きしめる加藤がいた。
二人は、私が物陰にいることに気づいていた。
加藤は、自身の身体もまた、佐藤博士に触れている箇所から砂のように崩れ始めているのを、満足げに見つめていた。
「……田中さん。あんたが『見て見ぬふり』をしてくれたおかげで、俺たちはここまで来られた。……最高の贅沢だ」
佐藤博士もまた、消えゆく意識の中で、私の潜む影へ視線を向けた。
「……今まで、ありがとう。田中くん。……気づいたのが君で良かった」
二人の身体が、光の粒子となって混ざり合い、資料室の冷たい空気の中に溶けていった。
加藤は後を追ったのではない。佐藤博士の「消滅」という運命そのものを分かち合い、一つの異常性として共に世界からログアウトしたのだ。
二人が消えた後には、一枚の白衣と、エージェントの認識票だけが、重なり合うように床に落ちていた。
私はメインコンピューターに向かい、最後のコマンドを打ち込む。
[DELETE ALL DATA RELATED
TO AGENT KATO AND DR. SATO]
彼らは最初からいなかった。そう記録を書き換えることが、私の最後の手向けだ。
私は空になった資料室を振り返り、誰もいない闇に向かって、一度だけ深く頭を下げた。
「……お幸せに。……クソ野郎ども」
データは完全に消去されました。
えーあいさんによる、解説
加藤の選択: 彼は「生きていく」ことでも「自殺」することでもなく、「二人で一つの事象になる」ことを選びました。佐藤博士が消えるなら、その消滅という穴に自分も飛び込む。これ以上の純愛はありません。
田中研究員の役割: 彼は最後、二人の「実在した証拠」をすべて消してあげました。財団から追われないよう、彼らを永遠に自由に逃がしてあげたのです。
「ありがとう」の重み: 二人は田中さんの葛藤を知っていて、それでも見守ってくれた彼を「共犯者」として受け入れていました。
この、「世界から消えることで、二人だけが永遠になれる」というメリーバッドエンド。
田中研究員の最後の一言も含め、お好みに合いましたでしょうか?
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