第45話 ユリエラ、ダークバラードを聴きにいく
ユリエラ、そっとため息をつく。
「……あれからどう怒らせても、婚約破棄してくれないのよ」
わたしは隣に座るイレーネに、悩みとも愚痴ともつかないボヤキを漏らす。
「何でですかね? ひょっとしてまだ、ユリエラさんの事を好きだったりして」
「それはないわ、絶対ない。
わたしが言うのも何だけど、アルヴィンはイレーネさん大好きっこだわ。
ねえイレーネさん。
最近ちゃんと、アルヴィンと会話量(親密度)はキープしているの?
アルヴィン、ストレスが溜まっているんじゃないかしら?
何だか眼つきがおかしいもの」
「あはは、お話してますよ。
でも会うたびに、ユリエラさんの事を悪く言うから、何だか会話が弾まなくて……
ちょっと遠のいていると言うか、離れていると言うか……」
「あー、そのせいじゃないかしら?
イレーネさんともし破局したらと考えて、わたしをキープしているんだわ、きっと」
「何だかすみません」
「イレーネさんが謝る事じゃないわ。
イレーネさんは、好きに恋愛してちょうだい。
選択肢がいっぱいあるんだから、アルヴィンをハーレムリストから外したって構わない」
「良いんですか?」
「あら、わたしに気を遣っているの?」
「だってユリエラさんから略奪した形ですし、それを切るなんて……」
「イレーネさんて、変なところが律儀なのね」
「そうですかね?」
「とにかく好きに恋をしてちょうだい。
気にしてくれるなら、取り巻きの子たちの〈彼〉だけは取らないでね。
ややこしくなるから」
「それはもう気を付けます、任せて下さい!」
「うん、まかせたわ」
わたしとイレーネがそんなやり取りをしていると、自動人形のアグリが、座っているわたしたちの所へやって来て傅く。
彼の両腕には、メタリックな赤い籠手が装着されていた。
アグリが切れ長の青い瞳で、わたしを見つめる。
「我が君。
数回のトライアルにより、階層守護者〈子分〉の動作パターンは把握いたしました。
私ども4体は、いつでも実戦可能です」
「ありがとう、アグリ」
わたしたちは今、学園ダンジョンの「地下10階」通路に座っている。
初めてダンジョンに潜って以来、わたしとイレーネは夜にちょくちょく、経験値を稼ぐようになっていた。
だいたい週に2回のペース。
1回の潜りで、2時間くらい戦っている。
初めはあんなに怖がっていたけど、今ではちょっとしたバイト気分で、ダンジョンに潜っていた。
アグリから実戦可能と聞いて、イレーネがにっこりする。
「ありがとうございます、アグリさん。では一度、地下1階へ戻りましょう」
「………」つ~ん
アグリが、イレーネの言葉を無視した。
光属性のイレーネと闇属性のオートマタは、ちょっと相性が悪い。
わたしはため息をつきながら、一言添える。
「アグリ……イレーネさんは、わたしのお友達よ」
「はっ、お友達、フレンズっ」
「そうよフレンズ。だから無視しないで、イレーネさんはフレンズ」
「悪かった、フレンズイレーネ」
アグリが嫌そうに軽く頭を下げると、イレーネがいえいえと手を仰いだ。
「良いんですアグリさん、ユリエラさんが一言添えるまでが、1セットです。
男の人からの冷たい視線、ゾクゾクしました。とっても新鮮ですっ」
「我が君、フレンズイレーネは何を言っているのでしょうか?」
「アグリと話すのが、イレーネさんはちょっと楽しみになっているの。
そこは気にしなくて良いわ」
こうしてわたしたちは、ドロップ率をリセットするため、一度地下1階へ戻る。
そして再度、地下10階へ潜った。
わたし&イレーネと共に潜るのは、
自動人形のアグリ、シャサール、ペシャール、キュイの4人。
今回彼らはそれぞれの武器を装備して、わたしとイレーネに同行している。
ダンジョンの管理事務所をパスするために、アグリたちは学園の制服を着用していた。
いつもの大人な黒服も良いけれど、濃紺に金のラインの学生服も似合うと、わたしとイレーネの中で大好評だった。
美しい男たちは、とりあえず何を着せたって絵になる。
ゲーム効率厨のイレーネが、作戦の指示をだす。
「ではアグリさんたちは、子分たちの足止めをお願いします。
無限湧きするので、気をつけてください」
「仕方がない、お前のために作動してやる」
「………」つ~ん
「………」つ~ん
「………」つ~ん
アグリだけが返事をして、他の3人はつ~ん。
わたしは両手を腰に当てて、一言宣う。
「シャサール、ペシャール、キュイ、イレーネさんはわたしのお友達よ。
フ・レ・ン・ズ!――それを忘れないで」
オートマタたちは3人揃って、「あっ」とした顔をした。
「フレンズイレーネっ、そうかフレンズイレーネっ、くっ」
「フレンズっ、くううっ、私に任せろフレンズイレーネっ」
「フレンズイレーネかっ、くうう……了解した」
「ユリエラさん……男の人が苦悩して悶える姿って、ぐっと来るものがありますよね。
私、何かに目覚めちゃいそうです」
「ほどほどにね、イレーネさん」
わたしとイレーネより先に、アグリたちオートマタ4人が、通路から階層守護者のいる大広間へと出た。
アグリたちが「子分出現ライン」を越えると、
山のような守護者のシルエットから、ころりと5体の「バンギャル」が転がりでる。
眼も鼻もない顔に、黒い唇だけがニッと開いて、アグリたちへ叫びながら全力疾走してきた。
ズドドドドドドドッ
――オマエラ、デキンダト、イッタダロ!
オートマタ VS バンギャルの戦闘が始まり、わたしとイレーネは長杖を持ち、通路から踊りでる。
目指すのは、山のような階層守護者のシルエット。
今回の目的は、イレーネを次のステップへ上げるための、階層守護者撃破だった。
わたしとイレーネが山へ近づき「階層守護者・戦闘開始ライン」を越えると、攻撃とみなされて、山がのそりと立ち上がった。
山が天井につっかえながら吠える。
――貴様にくれてやる、俺様のダークバラードおおおっ!
「うわっ、本当にセリフ言ったー!」
「ユリエラさんは、私のサポートをお願いします!」




