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第44話 僕の婚約者、ユリエラ・ソルナイン・S・ミラージュ


分かっているのか?

僕はこの国の王太子。

フェデレアス王国の 、アルヴィン・レイ・A・レクトニクスだぞ!


気づいたら学園中が、僕の(うわさ)で持ち切りだった。

その噂はもう止められないほどに、猛威を奮っていた。


(いわ)く――

婚約者のユリエラ・ソルナインに、愛想をつかされて捨てられた男だと。

王族のこの僕が、ユリエラから逆に「婚約破棄」を叩きつけられたと。


なんだそれ!?

僕は聞いていないぞ!?


それがまことしやかに(ささや)かれ、皆が僕を好奇の眼で見ている。

僕の誇りと尊厳が、ごりごりと削れていく。


体面を重んじる貴族社会において、それは劇薬だった。

この僕を、この王太子を――

捨てられた宮廷道化を見るかのように、皆が見ているっ。


何たる屈辱っ。

なぜ僕がそのような眼で、見られなければいけないんだ!?


怒りで体が震えた。

視界が真っ赤になるような憤怒を押し殺し、僕は噂の出元、ユリエラのいる教室へと向かう。

僕が前に立つと、ユリエラはそこら辺の石ころを見るような眼つきで、僕を見上げた。


暗い紫色の瞳。

ゆるくウェーブのかかった、長い銀髪。


ユリエラは、常に硬質な冷気を(たた)えた女だった。

ただ静かに座っているだけなのに、暗がりから獲物を狙うような妖気を(かも)し出している。


僕は怒鳴り散らしたいのを(こら)えて、ユリエラを見据えた。

怒りが身の内にこもっていると、罵倒(ばとう)の言葉ばかりが浮かんで、喉につかえてなかなか出てこない。


そんな僕にユリエラが、からかうように尋ねた。


「どうしたのですか、アルヴィン様?

わたしを素敵なランチにでも、お誘い頂けるのですか?」


ランチだと!?

ユリエラめ、僕が来た意味が分かっていないのか。

いや、分かっているっ。

ユリエラは分かっていながら、そういう事を言う女だ。


ユリエラは、「婚約破棄」など宣言していないと言う。

けれど「そんなに私が嫌なら、あなたの方から婚約破棄をすれば良いでしょう?」と、言外に僕へ伝えていた。


そのように、僕を誘導しているように思えた。

ユリエラは僕を、わざと怒らせようとしているようだった。


何という女かと、僕は打ち震える。

その手には乗らないぞと、僕は自分を奮い立たせた。


ユリエラからの「婚約破棄宣言」が、これほど学園に広まった今。

このタイミングで、婚約破棄したらどうなるのか?


学園の者たちは、こぞってこう考えるはずだ。

アルヴィン・レイは、王家の歴史上「初めて女から婚約破棄された王族」だと。


たとえそれが事実でなく、僕から破棄したとしてもだ。

一度、張られたレッテルは消えない。


史上初の「逆」婚約破棄された男として、噂はさらに広まり続けるだろう。

皆が陰で嘲笑(あざわら)うだろう。


貴族に生まれた者ならば、噂の恐ろしさは誰もが知っている。

僕が「それはでまかせだ!」と、幾ら声高に叫んでも無駄だ。

返って「それほどムキになるのは怪しい」と、裏で(ささや)き合う。


ユリエラに「あれはデマだった」と、改めて言わせても無駄だ。

ユリエラがその証言中、少しでも(うれ)いを帯びた顔で(うつむ)けば、あれはアルヴィンに言わされているのだと決めつける。


このタイミングで婚約破棄すれば、僕に屈辱を(ぬぐ)い去る手立てはない。

それを分かって、ユリエラは僕を激昂(げきこう)させようとしている。

何という、恐ろしい女だろうか。


いつもこうだ。

ユリエラと話すと、いつもこの女のペースに(おちい)る。

僕は泥濘(ぬかるみ)にはまったような、錯誤を覚えた。


その手には乗らないぞ、ユリエラ。

僕は絶対に、僕から婚約破棄はしない!


するなら、しっかりと準備をしてからだ。

見ていろ。

必ずこの屈辱は、何倍にもして返してやる。


今のユリエラに引導を渡し「婚約破棄」するからには、ユリエラに充分な「(せき)」が無ければならない。

それ相応の「罪」が、無ければならない。


必ずその罪を暴き出し、ユリエラの前に突き付けてやる。

たとえ罪が無かったとしても、無から罪をひねり出してやる。


覚えていろ、僕の婚約者。

ユリエラ・ソルナイン・S・ミラージュ。





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