第42話 ユリエラ、騎士団を立ち上げる
ユリエラ、放課後ティータイムする。
貴族や大商人の子が通う、レクトニクス魔法学園。
学園には食堂の他に、民間業者が出店するカフェも併設されていた。
放課後、そのお洒落カフェにて――
わたしは取り巻きの子たち(10人)と共に、4人掛けの丸テーブルを3つ占拠して、テラス席にいた。
陽は充分に高くてあったかい。
テラスから望める学園の敷地には、木々が植えられていて、その枝先にちらほらと青い花が見えた。
あと一週間もすれば、満開の青い花が楽しめるかもしれない。
わたしが座るテーブルには、取り巻きで最古参のウルとナターシャ。
そして取り巻きメンバーではない、ゲストが座っていた。
皆わたしに召集されて、緊張した顔をしてる。
これは早く今日の趣旨を説明しようと思い、わたしは立ち上がった。
すると3つのテーブルに座る、全ての子が立ち上がる。
「あーちょっと待って、皆は立たなくて良いの。
座ってちょうだい。
立った方が説明しやすいかなって思って、立っただけなの。
皆は座って聞いててね」
「ですがユリエラ様が立っているのに、私たちが座っているなどっ」
誰かがそう言って、皆が頷いている。
本当にすごいなあ、良く訓練されている。
それが、わたしの素直な気持ちだった。
で、一体誰がこんな訓練をしたかと言えば、悪役令嬢ユリエラ。
つまりわたしだった。
わたしは、心の中で凹む。
わたしは戸惑う10人を座らせて、ただ1人わたしの隣でポカンとして座っていたゲストを、逆に立ち上がらせた。
「イレーネさん、改めて皆に紹介するわ。立ってくれる?」
「あ、はい」
わたしは悪役らしく背が高い方なので、わたしの隣に立つイレーネが余計に小さく見える。
横を見れば、薄桃色の髪のイレーネのつむじが見えた。
それほどの身長差がある。
取り巻きの子たちは、わたしとイレーネが立ち並ぶ姿を、前にも見ているのでそれほど驚かない。
けれど他の学園生徒たちは、そうじゃなかった。
カフェに座る他の生徒たち。
それからテラス席なので、外を歩いている生徒たち。
その多くが、わたしとイレーネの組み合わせに驚いていた。
第一王子を横取りされた女と、その王子を横取りした女。
その2人が並んでいるから、好奇の眼が集中する。
中には、怒り心頭の公爵令嬢ユリエラが、庶民の子イレーネを公開処刑する気かとか、思っているかもしれない。
まあでも……公開処刑ではないけれど、少し似たようなものかも。
わたしは予め首に装着していた、黒いチョーカーに触れる。
チョーカーはちょっとした魔道具で、小さな声でも、周囲の者が聞き取れるように調整してくれた。
「さて、皆さんは知らない人がほとんどだと思いますが、
つい数日前ここにいるイレーネさんは、何者かによって誘拐されました」
ここで一旦区切る。
ゆうかい? ゆうかいって!? と、皆がざわついている。
一体どういうことなのって、皆が次の言葉を待っているだろう。
わたしは興味を煽ってから、説明を続けた。
「誘拐された場所は、学園寮3号棟の非常階段だったそうよ。
イレーネさんは勇敢にも魔法を駆使して、自力で脱出しました。
閉じ込められていた樽から出てみると、そこはデニスン港の倉庫街だったそうです」
イレーネを見ると、横でうんうん頷いていた。
「港の倉庫街……
学園から、随分と離れた場所よね。
それでね、わたしはこう思っているの。
学園から港まで運ぶ。
それは外部の者にもできる事でしょう。
けれど3号棟の非常階段なんて、マニアックな場所で攫うのは、外部者には無理。
学園内に土地勘があって、学園にいても怪しまれない者じゃないと、無理だと思うの。
外部に、協力者はいるとは思う。
けれど誘拐の実行犯は、イレーネさんに恨みを持つ学園内の者だと、わたしは思っているわ」
ざわざわ、ざわざわ……
学園内の者? どういうこと? って皆がざわついている。
わたしは構わずに続けた。
「イレーネさんの噂(恋関係)は、皆も色々と耳にしている事でしょう。
けれどそんな恋絡みの個人的な恨みで、将来わたしたちの国を守護してくれる“聖女”を、失う訳にはいかないわ」
「聖女」と言うワードを出して、また皆がざわめく。
「わたしは断言します。
イレーネさんこそ、次世代の聖女に相応しい人よ。
わたしの直感(初めから知ってる)が、そう告げているの。
光属性の人は他にもいるわ。
けれど次期聖女は、イレーネさんだとわたしは確信している(知ってる)。
わたしは、そんなイレーネさんを守りたい。
わたしは以前、階段から落ちて死にかけました。
そこをイレーネさんに助けられました。
イレーネさんは、わたしの命の恩人です。
だから今度は、わたしが助けるターン」
そこでわたしは取り巻きの子たちだけじゃなく、ここに居て、わたしの声が届く全ての者を見回した。
「皆さんは、わたしとイレーネさんの事を誤解しているようね。
だからこの場で、わたしとイレーネさんの関係性を、ハッキリさせておきます。
わたしはもう“婚約”の事なんて、どうでも良いの。
誰が誰を好きになろうと、勝手にすれば良いわ。
わたしの熱は、とっくに冷めているから……
お好きにどうぞ。
そんな事よりも、命の恩人であり将来の聖女に、身をもって恩を返す。
それがミラージュ氏族に生まれた者としての、わたしの矜持です」
わたしはそこでたっぷり間をとって、声を張り上げる。
「ここに宣言します。
このわたし、ユリエラ・ソルナイン・S・ミラージュは、不埒者から、イレーネ・フェルルを守る盾になると。
それを承知で、まだイレーネさんに手を出そうとする者があれば、このわたしが相手になると!」
これは宣戦布告だった。
まだ見ぬ者への、公開処刑予告。
わたしは眼の前に座る、取り巻きの子たちの顔を一人一人見つめていく。
この時のために、ちゃんと皆の名前を覚えてきた。
ちゃんと10人目もっ。
「ウルさん。
ナターシャさん。
アドリアナさん。
イナミさん。
ヴァネッサさん。
エレオノーレさん。
オリヴィアさん。
カーラさん。
クロエさん。
ツクモさん。
わたしは、イレーネさんの盾になると決めました。
こんなわたしに、力を貸してくれるかしら?
どうか一緒に、聖女を守って欲しいの。
あなたたちが手を貸してくれると、わたしはとても心強いわ」
わたしがそう言ってにっこり笑うと、取り巻きの子たち全員が、頬を赤らめ立ち上がった。
今度は立つことを止めなかった。
皆が興奮して、口々に「お役に立てるならば」と協力を誓ってくれる。
わたしが「男」よりも、「恩義」を重んじる方だと称賛してくれる。
その湧きあがりを見て、わたしの中のユリエラな「私」が微笑んでいた。
ふふふ……これでこの子たちの「嫉妬心」は、回避成功といったところかしら?
あなた=「私」の言葉は、勿論まだ見ぬ者への宣戦布告でもある。
けれど、こっちの理由も大切だものね。
これであなたがちょくちょくイレーネといても、彼女たちは自分が「捨てられた」なんて思わないわ。
(捨てられたなんて、言わないで!)
怒らないで分かっているわ。
けれどあなたにその気がなくても、彼女たちはどうしても感じてしまう。
ぽっと出のイレーネに、ユリエラ様を奪われたってね。
それを軽減するための、大切な「理由付け」ですものね。
見て……
あなたに頼られて、彼女たち生き生きとしているわ。
10人に尊厳と誇りを与える。
これで10人は、あなたと共に聖女イレーネを守る立派な騎士よ。
全くこんな心のケアまでやるなんて、「私」も随分と真面目になったものだわ。
(余計なこと言わないで)
はいはい。
わたしは、自分のしている小細工に凹みつつ、
その日は取り巻きの子たちに、スイーツをおごりまくった。




