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第40話 ユリエラ、のちに「赤えび亭のららら姫」と呼ばれる


ステージに立つわたしの足元に、イヌ2匹とネコ1匹が、当然の事のように寄ってくる。


ネコがわたしの(すね)に、ぐりぐりと頭を(こす)りつけた。

イヌはお供しますと言った感じで、脇にお座りした。

もう1匹のイヌはわたしの前で、()でろと言わんばかりにお腹を見せた。


にゃ~ん

ばふっ

はっ、はっ、はっ、はっ


そんな中、カイルの演奏が始まる。

静かに流れるリュートの音色。


音色に耳を傾けて、観客たちの眼がキラキラし出す。

きっとわたしが初めて聞いた夜のように、そこからどうメロディが変化していくのか、ワクワクテカテカしているのだろう。

皆の前に立っていると、場の空気に()まれて体が強張ってしまう。

だからわたしは眼を閉じて、あの日の夜を思い浮かべながら歌い始める。


ららら~


歌詞はまだ無いけれど、イメージはあった。

それはわたしを支えてくれる人たちへの、ありがとう。

悪役令嬢になって分かったことは、当たり前の事が、全然当たり前じゃない事だった。


ららら~


ユリエラを取り巻く環境は普通じゃなくて、

恐怖で周りを支配して、皆が作り笑いを浮かべていた。

転生したわたしは、悪行を平気で行う罪悪感に耐えられなかった。

そこから逃げ出したけれど、逃げれなかった。


ららら~


そんなわたしに手を差し伸べてくれたのが、赤えび亭の人たち。

そして今、リュートを弾いてくれるカイルだった。

わたしは、皆に支えられている。

だから皆にありがとう。


ららら~るるるる~らら~


そしてカイルには、取り巻きの子たちを守る「勇気」も貰ったなあ。

本当にありがとう。


るるる~


カイルの奏でるメロディは、(きら)めくような高音を響かせて、後半パートへと入る。

バランスを崩しそうになりながらも、お構いなくずんずん前へ行く感じ。


るるる~


主人公のイレーネにも、勇気づけられた。

様々な悪意をぶつけられても気にせず、ずんずん行く感じは、何だか後半のメロディパートみたい。


るるる~


少しくらいバランスを崩したって前へ進むその勢いは、呆れちゃう所もあるけれど、やっぱり勇気づけられる。

わたしも、ああなりたいって思える。


るるる~


頑張ってね主人公さん。

わたしも全力で支えるから。


るるる~ららら~


赤えび亭の皆やカイルに、わたしが支えられて、わたしがイレーネを支えていく。

縁と縁が繋がって行くような、大きな流れを感じていた。

ねえ……夢見て良いのかな?


ららら~


この流れの先で、わたしはわたしの破滅を乗り越えて、いつかカイルと――


ららら~るるる、ら~ら~ら~ら~♪


ポロリン……カイルが最後の一弦をつま弾き、曲の終わりを告げた。

最初は歌うなんて無理って思ったけれど、終わってみたら凄く楽しかった。

わたしが閉じていた眼を開けると、皆が大歓声でわたしを迎え入れてくれる。


「きゃああっ、すてきー!」

「おおおっ、声がカワイイっ、萌える!」

「ワシの孫の嫁になってくれい!」


割れんばかりの拍手がホールに響き渡って、わたしはこんなにウケるとは思わなかったから、ポカンとした。

ネコが歓声にびっくりして、わたしの体を登ってくる。


皆からもう一回、もう一回のコールが上がって、わたしはネコを抱きながら、もう一回歌う事になった。

その後は、カイルがまた陽気な春祭りの曲を奏でて、ステージが皆のダンス広場に変わっていった。


わたしもチルダと一緒に、笑いながら踊った。

何だか最初の目的は達成できなかったけれど、まあ良いやと思う。

だってこんなに楽しいんだもの。



夜の11時。

わたしは馬車に揺られて、帰途につく。


馬車の中で、わたしはうとうとしていた。

今日は朝からダンジョンに潜り、経験値稼ぎをして、夜は歌って踊りまくった。


流石にもう、くったくた。

うとうとしてたら、あっと言う間に学園寮に着いて、馬車が止まる。


「ユリエラさま、到着致しました」

「あれ……もう着いたんだ、むにゃむにゃ」


カイルが扉を開けてくれたので、わたしは寝ぼけまなこで、ステップを降りる。

と思ったら、1歩目から踏み外してコケた。

倒れ込むわたしを、カイルが支えてくれる。


「ありがと、カイルさん」


ぎゅうっ


「え?」


支えられたわたしの体が、そのまま抱きしめられていた。

初め何が起きたのか、わたしには分からない。


あれ? 抱きしめられてる?

わたし、抱きしめられているの!?

闇の中で、カイルはそのまま動かない。

わたしの耳はカイルの胸に押し当てられて、カイルの鼓動が聞こえた。


わたしはカイルの匂いに包まれる。

ほんのり甘いようで、どこか陽の光を思わせる匂い。


カイルの心音は早鐘のようだった。

それに身体も熱くて、触れているわたしの頬がやけどしそう。


どれだけ抱かれていたのだろう。

時間にしたら、(わず)かだった気がする。


2秒? 3秒? ううん……実際の時間なんか分からない。

気が付いたら、カイルの体はわたしから離れていたから。


「ユリエラさま、どこかお怪我はありませんか?」

「あ……はい……」


「それではお休みなさいませ、ユリエラさま」

「はい……」


わたしは頭が真っ白になって、返事もぼんやりしたものだったと思う。

メイドのアイナが自室に戻ったわたしを見て、怪訝(けげん)な顔をしていた気がする。


わたしは思い返す……

はっとしたら、もうカイルの体が離れていた。

あれは勘違い? あれは夢だったの?

でもっ……


わたしはさっきまで、うとうとしていたけど、全然眠れなくなった。

ベッドの中で、カイルの鼓動と匂いを思い出しちゃうから。

抱きしめられた腕の強さを、ずっと思い返してしまうから。






面白いと思って頂けたら嬉しいです。

そしてご感想、ブックマーク、下の☆で評価して頂けたら嬉しすぎて作者が泣きます。

よろしくお願いいたします。

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