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第38話 それってまるで私みたいね


赤い海老の切り身亭にいくと、半分くらい席が埋まってた。

ちらりと眺めて、端のテーブルにつく。


カイルがいつものように、テーブルを挟んで向かいの椅子に座る。

従業員のチルダが、陽気に注文を取りに来た。


普段と違うわたしのゴスロリを見て、「可愛いねえ、お人形さんみたいだねっ」て()めてくれた。

わたしは笑顔で返して、ホットワインと軽めの料理を幾つか注文する。

カイルは、麦を使った蒸留酒を注文してた。


飲み物と料理が来て、わたしとカイルはいつものようにお喋り。

お喋りと言っても、わたしが学園であった出来事とかを話して、カイルが聞いてくれるって感じだった。

カイルは落ち着いた雰囲気で、わたしの話を聞いてくれる。

けれど――


いつもは頼まない蒸留酒。

素焼きのコップが、ふたくちでカラになっているわ。

あれは、60度近くあるお酒なはず。

少し飲むペースが早い気がする。


あ、2杯目を注文した。

また蒸留酒……なぜ大好きなエールじゃなくて、蒸留酒なの?


こちらからは見えないけれど、親指の腹でカラのコップの側面を()でてる。

親指の付け根の動きで分かる。

あれは隠しているけれど、落ち着かない様子の表れだわ。


わたしはそう考える。

そんなわたしの中に、ユリエラな「私」がふっと立ち現れた。


さすが軍人と言ったところかしら?

心の乱れを表に出さないよう、頑張っているわね。


でも見て、「私」を見つめるカイルの瞳を。

瞳孔が思い切り開いているわ。

「私」に、強く興味がある証拠。


いつものように振る舞っているけれど、「私」から眼が離せないのよ。

その興味を、強いお酒で紛らわそうとしている。

でもできない。

あの落ち着きのなさは、多分――


(ちょっと、勝手に分析しないでっ)


あら? あなただって「私」の(つちか)った、メイドいびりの観察眼で分析しているくせに。

わたしの中の「私」はそう(つぶや)いて、ぷいっとまたわたしの中に消えていった。


(まったくもう)


時々自分が「わたし」なのか「私」なのか、分からなくなる。

心細くなったとき、すっと心の隙間から「私」が立ち現れてくるようだった。

ここへ来る馬車の中でも、後ろの方から、ずっと「私」がわたしを見つめていた気がする。


そして確かに「私」が言ったように、あの落ち着きのなさは――

そこからわたしは、一つの答えを導き出す。


効いてる、効いてるー!(魅了のドレスが!)


これは何かが、起こるかもしれない。

起こる気がする。

起きるんじゃないかな。

起こったらどうしよう。


わたしは起こったら、どうする気なんだろう?

わたしはもっとカイルと、仲良くなりたかった。

もっと心を開いて欲しかった。


もっと「ららら~でも良いから歌って」みたいな、無茶ぶりして欲しかった。

そんな事を、言い合える仲になりたかった。

じゃれ合いたかった。


そんな想いを「魔法の道具で何とかしようとするのは、どうなの?」って思う自分もいる。

けれどカイルは言っていた。

わたしと取り巻きの子たちは、友達になれないと。

主従関係のままだって。


ねえそれって、わたしとカイルの間にも、当て()まるんじゃないかな?

同じ主従関係だもの、当て嵌まるよね?

だとしたら、わたしとカイルは、これ以上仲良くなれないの?


そんなのは嫌だっ。

取り巻きの子たちの時は諦められたことが、諦められなかった。

そう言うものだって納得できない。

納得したくない。


魅了のドレスを着て鏡の前に立ったとき、わたしは強く誓った。

この想いを実現させるためなら、何でも使おうって。


わたしの中の「私」が微笑んでいる。

それってまるで「私」みたいねって。


本当にそう――

わたしは自らの意思で、「わたし」の一部を「私」と置き換える。






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