第33話 ユリエラ、イレーネにダンジョンへ誘われる
ちゃんと寝たお陰で、1限目を無駄にしなかったユリエラ。
「ふう……」
わたしは学校から帰ってくると、アイナの淹れてくれた紅茶を飲みながら、机に向かっていた。
最近色々とあって、勉強が疎かになっている気がする。
仮にもわたしは公爵令嬢なので、「勉強ができる女」でなくてはならない空気がある。
だから今日学んだ範囲は、しっかりと復習して――
と言いたいけれど、わたしは昨晩できたばかりの曲の歌詞を考えていた。
「ららら~でも、良いんだろうけどなあ」
やっぱり、歌詞があった方がカッコイイよね。
こうして詩を考えているわたしって、アーティストみたいだよね。
とっても素敵っ。
だから歌詞なのです。
元々あった曲の歌詞は良く分かんないから、一から作らないといけない。
「世界観を大切にしなきゃ」
なんてアーティスト気分で呟いて、ニヤニヤしてたら、扉がこんこんこんとノックされた。
「はい、どうぞ」
声をかけると扉が開いて、メイドのアイナが会釈する。
何だか表情が硬い。
いつもすまし顔だけど、ちょっと眉毛あたりに困惑の色が混じってる気がする。
「お嬢様、御学友のイレーネ・フェルル様がお見えになりました。
お部屋にご案内しても、宜しいでしょうか」
非常階段から連れ去られたのは、つい先日のこと。
わたしは何かあったのかと緊張する。
「ええどうぞ、通して頂戴」
入ってきたイレーネは、わたしに深々と頭を下げる。
それはご挨拶と言うよりも、先日助けられた事への、感謝という意味が含まれていると思う。
けれど言葉には出さない。
すぐ後ろに、アイナが立っているから。
アイナが、はっきりと困惑している。
それはそうだろうなと思った。
だって土曜日の夜遅くにアルヴィン王子たちが、
「イレーネが消えた! どこにいる!」なんて言って、この部屋に押し込んで来たのだから。
その消えたはずのイレーネが、月曜日の夕方に訪ねてきて、わたしに頭を下げている。
きっとアイナの中では、?マークが飛び交っていると思う。
土曜の深夜から日曜の朝にかけて、わたしはこの部屋に居なかった。
そのことは、アイナも多分気付いているはず。
日曜日の朝にイレーネを救出して、わたしとイレーネは学園に戻ってきた。
一応、時間差をつけて戻ってきたけれど、あんまり意味は無かったかもしれない。
この世界にはネットとかテレビはないから、港での「巨大イカ騒動」は口コミで広がっていく。
情報は拡散されるほど不確かになるから、「何か港に出たらしい」とか、「巨大なエビが出たらしい」とか、あやふやになって行く。
港から、遠く離れた学園にいたアイナ。
彼女がこの月曜日の夕方までに、どれだけ確かな情報を耳にしているか、分からないけど……
土曜の夜から日曜の朝まで、わたしは部屋に居なかった。
日曜の朝に、港で何か大事件が起きた、
消えたはずのイレーネが、たった今ここに居る。
わたしを監視するために送り込まれたアイナが、この3つを繋げて考えないはずがない。
て言うか3つ知ってたら、誰だって繋げると思う。
色々とアイナの頭の中で、回っているんだろうなあ。
「……イレーネさん、少し散歩でもしない?」
「はい、行きます」
わたしはイレーネを連れて外へ出た。
ここでは壁越しに、アイナが聞き耳を立てるだろうから。
ちょっと前まで5時頃になると真っ暗だったけど、今は西の空がまだ明るかった。
わたしとイレーネは夕焼けを眺めながら、学園の敷地を散策する。
「イレーネさん、あのあと大丈夫だった?」
「大丈夫じゃないです。
あのあとアルヴィン様、カイギス様、ジェイル様に取り囲まれて、質問責めにされました。
全然開放してくれなくて、私また監禁されてる気分になりましたよっ」
「あはは、おつかれさま」
「ちゃんと打ち合わせ通りに、タルから自力で脱出した事にしました。
自分で爆発させて逃げて来たって」
「信じてくれた?」
「多分そこは信じてくれたんですけど、
その後に何でユリエラさんと2人きりで、学園寮をウロウロしていたんだとか、
なんで非常階段に2人で行ったんだとか、もうしつこいくらい聞いてきて……
だから私、言ってやったんですっ」
「何て言ったの?」
「私とユリエラさんは、すっごく仲の良いお友達だって。
2人でいると色々変な眼で見られるから、誰もいない2人きりになれる場所を探していたって。
だから、非常階段に登りましたって」
「あー」
誰もいない、2人きりになれる場所かあ。
何だかそこを強調すると、「友達とは違う情熱」を聞き手に感じさせる気が、しない訳でもないけど……
ゲームの聖地巡礼してたなんて言えないから、まあいっか。
イレーネがぷりぷり怒ってる。
「アルヴィン様たち、ユリエラさんの悪口すっごい言うんですよ。
友達になるなとか言ってきて、あーもうっ」
「悪口、言ってたんだ……」
分かってはいたけれど、はっきりと悪口を言ってたと知ると、結構胃にくるものがあった。
それが悪役令嬢としての役回りとは分かっているけれど、胃がきゅうってなって痛い。
でもゲーム通り敵対していたら分かるんだけど、イレーネと仲良くなっているのに、まだ悪口を言われるのって、何なんだろう?
何だか頭も痛くなってくる。
しょげるわたしを、イレーネが励ましてくれる。
「ユリエラさん気にしないで、私が付いていますから!」
「うん、なんかありがと」
「で、ユリエラさん。
今日はその……ちょっとお願いがあって来たんです」
あ、状況を報告しに来ただけじゃ、なかったんだ。
わたしは、気持ちを切り替えて尋ねる。
「お願いって何かしら?」
「私と一緒に、ダンジョンへ潜ってもらえませんか?」
「え?」
「私は自力で脱出したって、アルヴィン様たちに言いましたけど、本当は違うじゃないですか。
自力じゃ無理でした。
これじゃまずいなって思って……
もしこれからもイベントが、早期アクセスみたいに始まったら、今の私じゃ対応できないと思います。
だから積極的に、レベル上げがしたいんですっ」
「お~」(感心)




