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第29話 ユリエラ、悪役の性質が抑えきれない


イレーネがころんと寝て、わたしの(ひざ)を枕にする。


ちょっと驚いたけれど、身を(ゆだ)ねてくれているようで、悪い気はしない。

自動人形たちの眼が険しくなったけど、イレーネはそれを面白がっているように見えた。


それにしてもイレーネって、相手との距離を詰めるのが上手いなと思った。

医務室でベッドに入って来たときも驚いたけど、何だかイレーネって猫みたい。

イレーネは、頭の位置を調整しながら考えてる。


「そうですねえ……気が付いた時には、目隠しされて縛られていたんで……

私の前ではできるだけ、喋らないようにしていたみたいです。

でも気配で、結構人がいた気がします。

あとタルに入れられてから、転がされてたんですけど、そんなに距離は転がってない気がします。

5分位かなあ。

私、タルの中ですっごい酔っちゃって、そこら辺が曖昧(あいまい)ですけど」


「イレーネさんは、何で非常階段に行ったの?」


学園寮、3号棟の非常階段。

そこでイレーネは(さら)われた。

実際のゲームでも、同じ場所で誘拐されてる。


「ああ……ほら、ユリエラさんと意見が分かれたじゃないですか。

2号棟の見える角度から考えて、ゲーム画面の聖地は何階の非常階段かって。

それで私、気になっちゃってもう一度行ったら……」


「捕まっちゃったのね」


「そうなんです。

まさか外国へ売られるイベントが、始まるなんて思ってなかったから、全然警戒してませんでした。

このイベント起きるのが早過ぎですよっ」


「そう、5ヶ月くらい早いと思う。

だからイレーネさんのレベル上げが足りなくて、自力で脱出できなかった」


「そうなんですよっ、何この無理ゲーって思いました。

ユリエラさん、本当にありがとうございます。

ユリエラさんが居なかったら、私どうなっていたかっ」


そこでイレーネは体を起こして、ちょこんと座る。

周りで(かしず)く自動人形たちへ、ぺこりと頭を下げた。


「オートマタの皆さんも、ありがとうございました」


そんな感謝につ~んとする、精巧に造られた美麗男子たち。

わたしは、ああ……これはちゃんと言っておかないと、駄目だと思った。

オートマタたちは、ハッキリと言葉で伝えないと分からない所がある。


「みんなちょっと聞いて。

イレーネさんは光属性だけど、わたしのお友達なの。

これからはわたしのお友達として、接して頂戴」


「我が(きみ)よ、光の者を御友人に設定したのですか!?」

「我が君は、なんと度量が広大な御方だ!」

「我が君の、こ……こと、づて……ならばっ」


「うん、よろしくね」


これで(しばら)くは大丈夫かな?

でも再起動するとき、勝手にデリートしそうだから、「イレーネさんは友達」を定期的に言って行こうと思う。


イレーネが改めて自己紹介すると、オートマタの子たちも、ぎこちなく自己紹介していた。


「さーてと……じゃあイレーネさんは、ここで休息していてね。

アグリ、シャサール、ペシャール、ジャルディ、わたしに付いて来て。

他の皆は、イレーネさんの警護をお願い」


皆が言伝(ことづて)のままにと頭を下げる中、イレーネがわたしを見つめる。


「ユリエラさん、どこへ行くんですか?」

「ちょっとね、他に手がかりが無いか見てくるわ」

「私も行きますっ」


「大丈夫、直ぐ戻ってくるから。

キュイ。あなたのスキルで、イレーネさんに何か温かい食事を作ってあげて」

(かしこ)まりました、我が君」


「イレーネさん、昨日から何も食べてないでしょ?

お腹すいてない?」

「すいてます!」


わたしはイレーネに手を振ると、散歩でも行くような足取りで倉庫を出た。

出た瞬間、わたしの雰囲気がガラリと変わる。


わたしは、思い切り腹を立てていた。

イレーネを(さら)った者たちを、どうしても許せない。


自分で上手く、怒気がコントロールできない。

わたしの中で、悪役令嬢ユリエラの部分が暴れている。


わたしの中には悪役(ヴィラン)としての性質も、しっかりと息づいていた。

復讐に強く()かれている。

わたしの変化を感じ取って、オートマタたちも思考を戦闘状態に切り替えていた。


巨大な触手騒動で、無人の倉庫街。

誰も聞き耳を立てていないのに、アグリが(ささや)くように耳打ちする。


「我が君……まずはタルを発見した、現場へ行きますか?」

「そうねお願い」


発見した現場へ到着すると、わたしたちは直ぐに倉庫の屋根へと登る。


「わたしたちは、全ての倉庫を調べ上げた。

でもイレーネさんは居なかった……

イレーネさんは言っていたわ。

あまり距離は、転がされていないと。

ここから5分ほどの範囲内で、倉庫ではない建物ってどれかしら?」



    *



「バカヤロウ、タルが消えただとお!

てめえら見つけるまで、帰ってくんじゃねえ!」

「しかしお(かしら)、港にはでけえタコが!」

「そんなもんに、ビビってんじゃねえぞ、コラア!」


お頭と呼ばれた男が、部下たちへ殴る蹴るの暴行を加え始めた。

情け容赦なく打ちのめし、板張りの床に血が広がっていく。

わたしはそんなモノ見たくないので、こほんと咳払いして声をかける。


「タコじゃないわよ」


そこで(ようや)く部屋の入り口に立つ、わたしとアグリに気付いてくれる。


「なんだテメエらあ!」


わたしは今、「デニスン港福祉協会」という看板を掲げている事務所にいた。

デニスン港福祉協会は、気性の荒い荷役(にやく)たちと、船荷の所有者である商人の間を取り持つ仲介業者だった。


結構、有名な協会だと思う。悪い意味で。

気の荒い荷役たちを相手にするので、だいたい仲介業者も、それに輪をかけて気が荒く凶暴なのが常だった。


お頭と呼ばれる男は、興奮してわたしの声がよく聞こえなかったみたい。

わたしはもう一度、言ってあげる。


「あれはわたしの召喚獣で、タコじゃなくてイカよ。

間違えないでくれる?」


「なにい!」





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