第27話 ユリエラの悪魔魔法(ヴィランマジック)
ユリエラ、港で朝を迎える。
東の稜線から、朝日が顔を覗かせ始めた。
紺色の空が西へ追いやられて、空が白んでいく。
わたしは倉庫の屋根上で、膝を抱えて座っていた。
朝霧が漂う沖を眺めてた。
惑星の曲面に合わせて、なだらかに湾曲した海原。
その向こうから、続々と船がやってくる。
気のせいかも知れないけれど、お腹に荷物をいっぱい詰め込んでいるから、船がのったりのったり重そうだ。
倉庫街が慌ただしくなってくる。
もう荷を運ぶ、荷役の人たちがいっぱい来てた。
あちこちからギギギギーと、搬出入用の大扉の開く音が聞こえてくる。
その音に「おい、勝手口の鍵が開いてんぞ?」とか、
「なんだおい、こっちも開いてんじゃねえか?」とかの、困惑した声が混じっていた。
倉庫の大扉には、人が出入りする用の小さな扉が付いている。
それが倉庫51棟すべて開いていたら、それは驚くよね。(わたしたちが開けた)
荷役たちは不思議がるけど、もう仕事が始まっているので「まあ、良いか」って感じだった。
気の荒い荷役の人たちは、あんまり細かい事は気にしない。
わたしは荷を積んだ船たちが、ゆっくり港へ近づいて来るのを見つめた。
接岸して、荷を降ろしていくのを眺めてた。
降ろし終わると、今度は新しい荷を船のお腹に詰め込んでいく。
こんな時だけど、樽を横倒しにしてコロコロ転がす姿は、見ていて面白かった。
タルはわたしが思ってる以上に小回りが効いて、器用に方向を変えたり、スイッチターンとかしてる。
タルの側面ってぷっくり湾曲してるから、それを横倒しにすると、タル自体がタイヤみたいになるんだなあと思った。
「良くできてるなあ……」
荷を降ろし、新しい荷を積んだ船が、1隻、2隻と港から離れていく。
わたしはそれを黙って見つめていた。
3隻目が出港する。
4隻目も出る。
5隻目も。
6隻目が荷を積み終えたとき、わたしは自動人形たちに思念を送る。
(今よ、襲撃して)
思念を送ったと同時に、6隻目に異変が起きた。
甲板の中央に立つ太いメイン帆掛け柱が、ベキリと折れて海側へ倒れ込んだ。
マストは海面で盛大な水飛沫を上げて、6隻目の船が大きく揺れる。
荷役たちが、眼の前で起きたことを把握できずに、ポカンとしていた。
その理解できない出来事は立て続けに起きて、港から離れたばかりの5隻目、4隻目のマストもベキベキと折れた。
港から出かかっていた3隻目のマストも折れて、広げた帆をはためかせながら海へ倒れる。
沖へ出かかっていた2隻目、1隻目も、マストがベキンと逝って水飛沫が上がった。
船は全て、風を帆に受けて進む帆船だったから、マストが折れちゃうと航行ができなくなる。
「おい、どうなってんだコリャ!?」
「なんかヤベエぞっ、ただ事じゃねえ!」
「組の出入りか!?」
荷役の男たちが、ポカンを通り越して大騒ぎしていた。
わたしはそれを眺めながら思う。
ゲームイベントの大きな流れは、変わってないはずなんだ。
ゲームだとイレーネは、早朝にタルへ詰め込まれて、船に積み込まれる。
倉庫街にはイレーネの姿が見えなかったけれど、この流れは変わらないと思う(思いたい)。
倉庫に居なかったから、他のどこかでタルに詰め込まれて、今はきっとこの港のどこかに居るはず(いて下さい)。
そのタルはもう船に積み込まれたか、まだ港で転がされているタルのどれかだと思う。
わたしはそう考えていた。
それともう一つ。
イレーネだって、乙女ゲーム4周目の立派な「廃人」なんだ。
脱出の方法は知っているし、たった今も、タルを爆発させようと頑張っていると思う。
たとえレベルが足りなくて拘束具が外せず爆破できなくても、そこに魔力が集中して、外へ魔力が微かに漏れているはず。
すでに出港している帆船には、オートマタが1体ずつ忍び込んでいた。
彼らが、船のマストをへし折った犯人。
わたしは残りのオートマタ10体と共に、港に残るタル全てを洗い出す。
「魔力が漏れてる、タルを探して!」
わたしの命令を受けて、黒い仮面を被った美麗男子たちが、屋根から飛び降りていく。
「我が君の、言伝のままに!」
「我が君に、グッドニュースを!」
「我が君、行ってきます!」
「いってらっしゃい!」
わたしも顔を隠すためのデスマスクを被って、屋根から立ち上がる。
わたしはイレーネのタルが見つかるまで、この騒乱が収まらないよう、盛り上げ役に徹しようと思う。
「海だから、イカにしようかな?
三重効果、悪魔魔法、深遠なる闇っ!」
その時、港にいる者は全て見ただろう。
湾内の海面が大きく盛り上がり、
吸盤のびっしり生えた巨大触手が、くねりながら立ち現れるのを――
わたしは、サービスで3本出した。




