第23話 ユリエラ、聖地巡礼の旅をする
授業が終わったある日の放課後。
わたしは取り巻きの子たちと分かれて、いったん寮へ戻る。
その後イレーネと待ち合わせして、夕刻の学園内を散策した。
イレーネがわたしに、夕暮れの散歩に適した「光魔法」をかけてくれる。
「集光」ぺかりん
「うわー凄いのねっ。はっきり周りが見えるわ」
イレーネのかけてくれた魔法は、周囲の光を集めて眼球内で増幅する魔法だった。
僅かな光でも、周りが昼間のように見える。
「えっへん、さあユリエラさん行きましょう」
「そうね、じゃあ第1回、聖地巡礼の旅ー!」
「わーっ」ぱちぱち
わたしたちが、これから何をするかというとー。
そのまま言葉通り、聖地巡礼だった。
乙女ゲーム「ダークバラード」は、超美麗なグラフィックも売りの一つだった。
美しいキャラたちが、生き生きとボイス付きで会話していると、そっちばっかり眼が行っちゃう。
けれどそのバックに書き込まれた背景も、超美麗だった。
今日の散策はそんなゲーム画面に映った背景を、実際に見に行こうと言うわけ。
前からちょっとやってみたくて、イレーネに声をかけたら、すっごい乗り気で「行きましょうっ」と言ってくれた。
まずは待ち合わせした、学園寮の棟が並ぶ一角から。
「イレーネさん、この角度じゃないかしら、学園寮の背景で見る角度」
「あーほんとだ。もうちょっと右寄りですかね、ほら」
「そうねっ、5号棟の向こうに4号棟がちらっと見える感じ、ここだわ」
「ゲーム背景だとパースが強調されてますから、少し視点を下げてアオリな感じで」
そう言ってイレーネが、地面に両手を付いてしゃがみ込む。
わたしも一緒にしゃがみ込んで、下から覗くように学園寮を見た。
「イレーネさん、ここ!」
「うわっ、ここですね、ユリエラさん!」
「わたしカメラが欲しいわ、イレーネさん」
「私頑張って、念写を覚えようかな」
由緒ある学園に通う女子生徒が、カエルみたいにしゃがんで、テンションを上げていった。
寮を背景としたシーンは幾つかあって、わたしとイレーネは、学園寮の背景コンプを目指して聖地巡礼する。
「イレーネさん次は、3号棟の非常階段いきましょ♪」
「いいですね、階段の後ろに見える2号棟の角度で、何階の階段か分かると思います。
ユリエラさん一通り回ったあと、私の部屋も見ますか?
私の部屋も、ゲームシーンで良く出てきますから」
「行きたいっ、主人公の部屋行きたいわっ」
夕暮れの中を、5棟ある学園寮をあちこち歩き回る。
その間、まばらにすれ違う他の生徒たちが、わたしたちを見てギョッとしていた。
銀髪のわたしは目立つし、イレーネなんか微弱発光していた。
ぱっと見て3年生のユリエラと、1年生のイレーネだって分かる。
わたしたちは結構、学園で有名人だった。
そしてこの組み合わせの有り得なさも、第一王子を取り巻く噂を知っているなら、すぐ分かる。
だからギョッとしてる。
あとカエルみたいにしゃがんで、テンション上げてるせいかもしれない。
イレーネが、周りの視線をちょっと気にしていた。
「やっぱり私たちが一緒にいると、みんな吃驚しますね」
「良いじゃない、吃驚させておけば。
わたしたちの仲が、知れ渡るのは良いことだわ。
イレーネさんのバックにわたしが付いているって知れば、イレーネさんに良からぬ事をしようとは思わないでしょ」
「ユリエラさんの得体の知れない怖さは、知れ渡ってますもんね」
「こういう時は悪役令嬢って便利よね。
あんまり使いたくないけど、これで野良イベントが劇的に減ると思う」
「野良イベントって、正規のゲームイベントじゃない、イベントの事ですよね」
「そうそう」
「それすっごい助かります。
正規のイベントだって発生パターンが変わってるんですから、野良までは勘弁して欲しいです」
「正規イベントも変化してるんだ。主人公は大変よね」
「悪役令嬢だって、すっごい大変じゃないですか」
「ありがと、そう言ってくれるのはイレーネさんだけだわ。
ねえイレーネさん。
今度の日曜日に、街にある聖地を探しに行かない?」
「あ、行きたいっ、行きたいです!」
わたしはその後、イレーネの部屋に行って、最大限にテンションを上げまくった。
「うわっ、本物の主人公の部屋だわっ。
見て! ゲームじゃ綺麗に片付けてあったけど、すっごい散らかってるー!」
「あはは、生活感って言ってください」
「パンくずが机にいっぱい!」
「あはは」
「見て! 下着も落ちてるわ!」
「すみませんユリエラさん、ゆるしてください」
わたしたちは「日曜日絶対よっ、楽しみねっ」て言って分かれた。
わたしは楽しみ過ぎて、カレンダーの日曜日に2人の似顔絵を書いた。
そうしてワクワクしてたんだけど、その日は来なかった。
なぜかと言うと――
その日の前日にイレーネ・フェルルが、行方不明になったから。




