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第21話 ユリエラ、鼻歌をひろうする


赤い海老の切り身亭は、今夜も賑やか。

わたしは向かいに座るカイルに、機嫌よく話しかける。


「始めは、これって本当にお茶会?って思ったけど、ぜんぜんお茶会だった。

あれは健全なお茶会だったわ」


「上手くいったようですね」


「すっごく良かったの。

わたしが駄目出しするんじゃないの。

自分たちで、あの時こうすれば良かったなあとか、皆で進んでゲームの感想を言い合っていたわ。

むしろわたしが、聞く側っ」


「なるほど」


「でね、わたしも話すんだけど、()めるばっかりじゃ、わたしって怪しまれて警戒されるでしょ?」

「答えづらい事を、聞きますね」


「いいの聞いて。

だからちょっと、あの時のプレイはああしたら良いかもって、駄目出しを言ったんだけど、わたしの心が痛くないの。

罪悪感とかで苦しくならないの」


「それは駄目出しと言うより、アドバイスですね。

その方の性格をつつくのではなく、その時のプレイに区切って指摘する。

それは普通のことですよ」


「そっか普通かあ。

わたし普通のアドバイスが言えたんだあっ」


わたしは、それだけで嬉しくなった。

ニコニコするわたしに、カイルが海老と菜の花の炒め物を取り分けてくれる。


「お茶会の話を(うかが)ったとき、じっとし過ぎているなと感じました。

男の私だからでしょうが、一つの場所に座り続けて話だけで間を持たせるのは、なかなか神経が()り減るものです。

このように酒があれば別ですが」


そう言ってカイルは、エールのジョッキをぐいっと傾けた。


「それで、あんなゲームを進めてくれたのね」


「体を動かして何かを共同で行うのも、立派な会話の一つです。

むしろ人は、こっちの方が自然な気がします」


「うん、それ凄く感じたの。

ゲームをした後、自然とその話題で盛り上がったの。

ネタ帳とか引っ張り出さずに、ついさっきした事を皆で話して」


「話題の鮮度が違う」

「そう鮮度っ、それが違うのっ」


「誰かがふった話しを、広げるのではなく。

今、全員で見たもの感じたものを、今話す」


「うわーっ、そうなの!」

わたしは椅子の上で、ぴょんと跳ねた。


「ユリエラさまも、一緒にゲームをやられたのですか?」

「わたし?」


わたしはそう聞かれて、手元のホットワインを見つめた。

「ううん……わたしは見てるだけ」


木のコップを指の腹で撫でながら、カイルに聞いてもらう。


「わたしがさあ……一緒にやると、皆が緊張するでしょ?

それじゃせっかくの雰囲気が、台無しだもの。

だからわたしは、観客として見ているぐらいが丁度いいの。

わたしはそういう役だもの」


「ユリエラさま……」


「皆とできたら嬉しいけど、しょうがないよね。

それがわたしの、()いたタネなんだから」


あれー?

今夜は楽しく飲むつもりだったのに、しんみりしちゃったな。

これじゃ駄目だと思って、顔を上げる。

するとカイルが、わたしの事をじっと見つめていた。


「ご立派です、ユリエラさま」

「わたしが?」


「ユリエラさまは、御自身の立ち位置をしっかりと理解し、実行していらっしゃる。

ユリエラさまは、その御年齢で孤独に向き合われている。

それは、言うは(やす)く行うは(かた)しで、なかなか出来るものではありません」


カイルがすっごい優しい眼で、わたしを見つめてくる。

その瞳は深い赤色で、とても綺麗だった。


ああ、これだーっ、と思った。

今の状況は苦しいけれど、こうしてそれを理解してくれる人がいる。


何て心がほっこりするんだろう。

ホットワインなんかよりも、ずっとわたしを暖めてくれる。


「……ありがとう、カイルさん」


なんか色々と胸に詰まって、ありがとうって言うだけで精一杯だった。

わたしは昼間の、取り巻きの子たちを思い出す。

今は無理でも、いつか主従関係とかじゃなくて、一緒にこんな風にホットワインを飲めたら……


そんな事を思っていると、頭の中で取り巻きの子たちを()き分けて、イレーネがひょっこり顔をだした。


「あっ」

イレーネが、わたしの中でにっこりしている。


「カイルさん。

そう言えばわたし、学園で一人お友達ができたの」


「えっ!?」

カイルさんが優しい眼差しから、驚いた顔に切り替わった。


「あー、カイルさん。

その反応は、ちょっと酷くないですかー」


いつもならそういう反応には慣れたし、スルーしてるけど、なぜかカイルには絡みたくなる。


「いえあの……失礼いたしました。

その……お友達とは、通常の手順を踏んだお友達という意味で?」


カイルも、なかなかストレートに聞いてくる。


「うわー、また酷いこと言ってる」


わたしが頬を膨らませていると、カイルがコホンと咳払いして、壁に掛けられたリュートをチラ見した。


「ユリエラさま、一曲いかがです?」

「お願いします」ぷくー


カイルが壁からリュートを持って来て、わたしの前で調弦(チューニング)を始める。

わたしはそれを見つめながら……


「まあ、良いんですけどね。

そういう反応には慣れてますし。

でも本当なんですよ。

学園でお友達ができたんです」


「どんな方なのですか?」

「イ……いじわるなカイルさんには、教えてあげません」


わたしは名前を出しかけて、途中でやめた。

イレーネの名前は有名過ぎるから。


カイルも監視役として、わたしの周りを調べているのなら、知っているはず。

イレーネが、わたしの婚約者を奪った子だって事を――


そんな子とわたしが、どうして仲良くなったのか?

ちょっと説明しづらい部分が多すぎた。


わたしは、そんなイレーネの事で思い出す。

医務室のベッドで、カイルが書いてくれた図面を見せたとき、イレーネは言ってた。


「へー、野外での模擬戦闘ですか。おもしろそー。

さすが軍人さんですね、こんなこと思いつくなんて。

もうお茶会とか、どこ行ったのって感じ」


わたしはその時、口を尖らせたはず。


「言ってないの」

「何がですか?」


首をかしげるイレーネに、わたしはこう言った。


「カイルさんがお父様の命令で、わたしを監視しているのを知ってるよって……

まだ言ってないの」


「ん?」


イレーネはちょっと考えてから、わたしに質問した。


「えっとそれじゃ……

このアイデアは、カイルさんが“()()”として出したってことですか?

それ無理とは言いませんけど、かなり不自然な気がしませんか?

これって普通の御者さんが、思いつくような案じゃないですよ。

思い切り、軍人っぽいんですけど」


「う~ん……」


「これカイルさん。

ユリエラさんがカイルさんの役目に気付いているのを、気付いてないですか?」

「えっ、わたし何も言ってないのに?」


わたしが気付いている事を、カイルは気付いている。

そんな状況で、軍人っぽい案を出すのはなぜ?


もう気づかれても、構わないって思ってるの?

構わないから隠さずに、模擬戦闘の案を出してくれたの?


模擬戦闘のことだけじゃない。

「取り巻きの子たちとのこれから」についてのアドバイスも、御者とは思えない、妙に冷静なものだった。


――今、尋ねてみようか?


カイルさんは、特殊な部隊の軍人なんでしょって。

お父様の命令で、わたしの(そば)に居るんでしょって。


「あの……」


わたしは言いかけて、途中でやめた。

なんか怖い。

知ってるって言ったら、どうなるのか分からなくて怖い。


ひょっとして役目がバレて、さっさと御者の任を解かれて、更迭(こうてつ)されたいのかな?

わたしから離れたいのかな?


「なにか、言いましたか?」

わたしの掛けた声に、チューニング中のカイルが顔を上げる。


「あの……えっと……」

わたしは言葉の接ぎ穂に迷って、思わず無茶ぶりをした。


「あの……今から鼻歌をしますから、曲にしてもらえますか」

「え?」


わたしはその晩、ずっとふんふん♪言ってた。





面白いと思って頂けたら嬉しいです。

そしてご感想、ブックマーク、下の☆で評価して頂けたら嬉しすぎて作者が泣きます。

よろしくお願いいたします。

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