第20話 ユリエラの前で、5対5のお茶会が始まる
わたしの見ている前で、5対5の「お茶会?」が始まった。
土属性の子に作ってもらった階段状の観客席ブロックに座り、わたしはゲームをちょっと上から観戦してる。
始まったばかりで、両チームの動きがまだぎこちなかった。
けれどブレスレットの効果で、チームメイトの位置が正確に分かるせいか、次第に5人一組の息が合い始める。
魔法学園では「魔物退治の授業」が必修科目なので、みんなお嬢様だけれど動きはサマになっていた。
むやみに光弾を撃っても当たらないので、両チームはチョコケーキの遮蔽物に隠れながら、じりじりと距離を詰めていった。
最初に動いたのは、ナターシャのチーム。
1人がチームから離れていく。
上から見ているわたしは、その動きがよく分かる。
「あれって、回り込んで横から攻撃するつもりかな?」
ナターシャチームの残りの4人は、その1人の動きを援護するように、激しく光弾を打ち始めた。
ウルのチームはそれに釣られて、激しく打ち返している。
回り込んでくる1人に、全然気づいてない。
回り込み作戦は見事に成功して、横から攻撃されたウルチームは一気に4人リタイヤ。
残ったのはリーダーの「ウル」だけだった。
ウルは回り込んできた1人を倒すと、姿勢を低くして駆け出し、場所を移動した。
ナターシャチームの4人は陽動のために、杖を持つ手だけを遮蔽物から出して、むやみに激しく撃っていただけだった。
なのでウルチームが4人リタイヤしたことも、ウルが移動したことも、まだ気づいていない。
まだ前方に、がんがん光弾を撃ってる。
けれどウルチームが撃ち返してこない違和感に、直ぐ気づくと思う。
ナターシャチームが、気づくまでの僅かなタイムラグ。
ウルはそれを無駄にしなかった。
一気に大外から回り込んで、逆に横から攻撃する。
その攻撃でナターシャチーム3人がリタイヤし、2対1となった。
その後ウルがまた1人を倒し、お茶会フィールドには、ナターシャとウルだけになる。
リーダー同士の1対1ですよ。
2人とも息を切らして、チョコケーキブロックに隠れて、互いの様子を伺っていた。
場がしーんと静まり返って、見ているわたしの方が緊張してくる。
「うわっ、1対1かっこいいっ!」
リタイヤした子たちは「お茶会フィールド」から離脱して、わたしと一緒に観客席ブロックに座り、2人の様子を見守ってた。
最初は黙って見ていたけれど、ウルとナターシャの攻防を見て、どうしても声が出てしまう。
口を抑えて、「んーっ、んーっ」て唸ってる。
「んーっ、ウルさん、んーっ」
「んーんーっ、ナターシャさ、んーっ」
わたしも興奮して、一緒に「んーんーっ」言ってた。
これがお茶会かどうかは怪しいけれど、少なくともいつもよりは断然いい。
「お茶会」は接戦の末に、ウルがナターシャを撃破して、ウルチームの勝利になった。
勝った瞬間、観客席の子たちがきゃーきゃー言いだす。
「きゃーっ、ウルさん凄いですわ!」
「ナターシャさんも、頑張りましたわ!」
「どっちも、素敵ですわー!」
ウルとナターシャがこちらへ来ると、自然と拍手が沸き上がった。
わたしも一緒に拍手して、2人を労う。
「ウルさん良くやったわ、おめでとうっ。
ナターシャさんも負けて無かったわ、惜しかった。
最後の2人の一騎打ちは、とっても素敵。
見ていて、ハラハラしてしまったものっ」
わたしが興奮気味にそう言うと、ウルとナターシャが畏まって、体がピーンとなってしまう。
「ユリエラ様にそう言って頂けるなんてっ、身に余る光栄ですわ!」
「負けた私にもお褒めの言葉を下さり、天上の喜びですわ!」
声はすっごい喜んでいるけれど、体がカチンコチンだった。
リラックスしてと言っても無駄だろうから、わたしは構わずに言葉を続ける。
「皆ゲームは初めてなのに、見ごたえがあったわ。
上から見ていると良く分かるの。
初めはぎこちない両チームの動きが、段々フィールドに慣れて息が合っていくのが分かるの。
それを見るのは凄く面白かったわ」
普段のお茶会のような駄目出しではなく、プレイを褒める。
いえ、褒めるのとはちょっと違うかも。
わたしがどこを、面白く感じたかを伝えた。
「中盤でナターシャチームのテシーさんが、一人で別行動したでしょう?
わたしそれを見て、あっ、テシーさん迂回して横から攻撃するつもりだって思ったの。
その動きを、言葉を交わしていないのに、ナターシャさんたち残りの4人が瞬時に理解してた。
テシーさんをカバーするため、激しく援護射撃をしてた。
わたしそこで興奮しちゃったわ、息ぴったりなんですもの。
そこから一気に4人撃破、テシーさん見事だったわっ」
そう言ってわたしがテシーへにっこりすると、テシーもピーンとなった。
「ユリエラ様に喜んで頂いて、生きていて良かったですわ!」
うんうん、凄いこと言うなあ。
わたしは頷きながら、更に続ける。
「そこからまた凄いのよね。
ウルさんがすかさず、ブロックに隠れながら走るでしょう?
その判断に痺れちゃったわ。
まだナターシャさんのチームが、自体を把握していない僅かな時間を使って、逆に奇襲を仕掛けるなんて。
あそこの判断は凄かったっ」
「いえ、私はただ夢中で」
「ゲームに、夢中になってくれて嬉しいわ。
そして、夢中になったからこその勝利ねっ」
わたしがにっこりそう言うと、ウルの眼がウルウルしだした。
「ううう……ありがとうございます、ユリエラ様っ」
うんうん。
「そして最後の、ウルさんとナターシャさんの1対1。
あそこは、本当にクライマックスって感じだったわ。
皆さんはどう思ったかしら?」
わたしはそこで、皆に水を向ける。
皆の顔が自分も感想を言いたいと、うずうずしているように見えたから。
想像通り堰を切ったように、8つの口から、ウルとナターシャへの賛辞が飛び出す。
あそこが良かった、あの時がカッコ良かったと皆で言い合う。
その中心で頬を上気させたナターシャが、わたしにおずおずとお伺いを立てた。
「あのユリエラ様、もう一度ゲームをさせて頂けないでしょうか?」
ナターシャは負けて、ちょっと悔しかったんだと思う。
だからわたしに、再戦を申し込んだ。
わたしとしては願ってもない言葉だった。
通常のお茶会をやりたくないので、こちらから提案するつもりだったから。
わたしはナターシャに頷き、皆へ眼を向ける。
すると皆も、是非にとやりたがった。
テシー以外の子たちは、まだまだ不完全燃焼なんだと思う。
「じゃあ引き続きリーダーは、ウルとナターシャで。
他のメンバーは、ランダムで入れ替えましょう」
こうして始まった熱い2回戦は、激戦の末に、今度はナターシャチームの勝利となった。
春先でまだ肌寒いけれど、皆いい汗をかいている。
2回戦が終わる頃合いを見計らって、わたしのメイドのアイナと、ウルとナターシャの専属メイドたちの3人で、本当のお茶会の用意をしていた。
野外という事もあり、ゲームフィールドの隣にカラフルなシートを広げて、ピクニックな感じで。
飲み物はお茶も出すけれど、最初の一杯は、温めた魔力回復ホットポーション。
おやつは甘い物のほかに、ポテチとかサンドイッチとか、しょっぱい系も用意した。
運動して汗をかいたあとは、こっちの方が良いと思う。
お茶会ピクニックでは将棋の人がやるような、感想戦を皆でやった。
振り返ってあそこが良かったとか、あの時はもっとこうすれば良かったとか。
いつものお茶会ならユリエラが駄目出しをして、それを皆で拝聴する時間なんだけど――
今日は違う。
ぜんぜん違った。
皆の口から、自然と朗らかな言葉が出てくる。
わたしはにこにこしながら、それを聞いていた。
うん……始めはどうかなって思ったけど、こんなお茶会もいいな。
今日は洗脳の涙を流す代わりに、皆でいい汗を流した。
こんなお茶会もありだと思う。
わたしは今夜の、「赤い海老の切り身亭」が楽しみだった。
カイルに、今日のことを何て話そうかな。
わたしは半分こっちの理由で、ニコニコしていたかもしれない。




