第19話 ユリエラ、お茶会に突入する
あれから2日後――お茶会の日。
わたしと取り巻きの子たちは、応接間ではなく学園内にある草原にいた。
そこは寮から、学園校舎までの道すがらにある野原だった。
手入れが行き届いていて、ゴルフ場みたいな草原が広がっている。
わたしに連れてこられた10人は、何をするのか知らされておらず、辺りをきょろきょろしていた。
ここでお茶会をするのかしら?
ピクニックかしら?
そんな小声が聞こえてくる。
あー、普通にピクニックでも良いなあ。
なんて、わたしも思っちゃう。
でも今日は、ちょっと違うことを――
わたしは取り巻きの子たちの中から、土属性の魔法を操れる2人を呼んだ。
その子たちに、4つ折りにした紙を手渡す。
「悪いのだけれど2人で手分けして、これを野原に設置してくれるかしら」
土属性の子たちは紙を開き、手元を覗き込む。
2人は書かれているモノを見て、首をかしげた。
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「ん?」
「えっと、これは……」
「これは真上から見た図面よ。
この通りに、地面を隆起させて欲しいの。
■一つの大きさは、縦と横が5m。
高さは全て1mに合わせて。
出来るかしら?」
「はいできます」
「お任せください」
2人は訳も分からず、図面を見ながら野原に触れる。
すると地面が隆起して、大きな土のブロックが生まれた。
真上に草がそのまま乗っているので、土のブロックが抹茶を振りかけたチョコレートケーキみたいだった。
2人はサクサクと、土のブロックを生成していく。
シュコンと地面から飛び出してくる土のブロックは、何だかゲームのギミックのようで面白い。
15分ほどかけて設置し終わり、2人が駆け足で戻ってくる。
「お疲れ様。
はいこれ、魔力回復のポーション」
わたしは部活のマネージャーみたいに、2人へポカリ――じゃなくてポーションを手渡す。
2人は吃驚して卒業証書みたいに、両手で恭しく、わたしからポーションを受け取った。
「ユリエラ様っ」
「ああ、何てお優しいっ」
周りもその光景に感激して、湧き立ってる。
ポーションを渡したぐらいで、いちいちイベントになる状況に、わたしは改めて眩暈がした。
ポーションなんて、隙あれば魔法医が差し出して来るようなモノなのに。
わたしは気を取り直して、皆に声をかける。
「えっと、それではこれから、ちょっとしたゲームをしようと思うの。
アイナお願い」
「かしこまりました、お嬢様」
メイドのアイナは腕に下げている、何でも収納できる魔法のバスケットから、短い杖を取り出す。
木製で長さは30㎝ほど。
握りやすいよう、持ち手に布が巻かれているだけの、簡易な魔法の杖だった。
アイナはそれを取り巻きの子たちに、一本ずつ手渡していく。
次にバスケットから銀色のブレスレットを取り出し、そちらも皆へ手渡す。
「皆に行き渡ったかしら?
ブレスレットは、手首に嵌めてね。
ではルール説明の前に、ゲームを行う趣旨を説明するわ。
特に理由はないわ、ただの思いつき。
構わないわね?」
皆がこの理由で納得する。
取り巻きグループが生まれて、2年半。
悪役令嬢ユリエラはずっとこんな感じで、皆を振り回してきた。
今回もそれだと思って、誰も不思議に思わない。
わたしは、ああ便利だなと思いながら、心で皆に謝った。
みんなごめんっ、こういう時にちょくちょく「悪役令嬢ユリエラ」ムーブ使っちゃってごめん。
何かそれらしい理由を言おうと思ったんだけど、思いつかないんだもん。
「では説明するわね。
これから5対5で、魔法による模擬演習をやってもらいます。
野外授業でやってる、魔物との対戦実習の延長線上だと思ってね。
まず、この手渡した杖だけど」
わたしも手に一本持ち、空中でくゆらせる。
「少量の魔力を込めると、光弾がでる仕組みになっているわ。
ゲームでつかう魔法はこれのみ。
他は使っちゃ駄目。
その光弾だけど――」
わたしは杖に魔力を込めて、自分の胸に向ける。
杖から光の弾が放たれ、わたしの胸に命中する。
結構な連射速度があった。
どれだけ光が当たっても、痛みを感じない。
「このように、光弾には攻撃力はないの。
当たっても無傷だわ。
ただし――アイナ、わたしにブレスレットを」
「はい」
アイナがわたしに、銀色のブレスレットを手渡す。
わたしはブレスレットを手首に装着した。
それからもう一度、自分に光弾を当てる。
すると、手首に装着したブレスレットが輝いた。
「光弾が一度当たると、ブレスレットが光るの。
すると杖から、光が出なくなるわ」
わたしは何度か胸先に杖を振るけど、もう光の弾は出なかった。
「こんな風に、杖とブレスレットはセットになってるの。
一回当たるとゲームリタイヤ。
ここまでは良い?」
皆に尋ねると、元気よく「はいっ」と返事が返ってくる。
「ウルとナターシャに渡したブレスレットは、“リーダー格”のブレスレットになっているわ。
皆でブレスレットに、魔力を込めてみて」
指示通り魔力を込めると、皆がきょろきょろしだした。
皆がブレスレットを通して、何かを感じとっている。
「ブレスレットの見た目は皆一緒だけれど。2種類あるの。
魔力を込めると、同じブレスレットを嵌めた子と繋がりを感じて、お互いの位置がわかるでしょ?
これで土のブロックに身を隠しても、味方の位置だけはハッキリ分かるわ。
そしてゲームは簡単。
これからウルチーム、ナターシャチームに分かれて、模擬演習をしてもらいます。
杖と味方の位置がわかるブレスレットを駆使して、5対5の対人戦よ。
さきに全滅した方が負け。
リタイヤした子は、フィールドからすぐ離れてね。
そしてゲームが終わるまで、味方チームに声援は送らないこと。
それが、外からのアシストになっちゃうから。
以上です。なにか質問はあるかしら?」
皆がお互いの顔を見たあと、首を振る。
わたしは頷いて、手に持つ杖を指揮者のように振るった。
「まあ、やってみたら色々と分かるでしょうから、とりあえず始めましょ」
奥行約100m、横幅約50mのフィールドで行う、魔法による模擬戦闘。
これがお茶会に悩むわたしにくれた、カイルのアドバイスだった。
カイルは言っていた。
「ユリエラさまは、彼女たちの支配者です。
支配者とは、ルールを改変する力を持っています。
ユリエラさまは、お茶会の範疇で考えるから悩むのです。
悩むのならば、お茶会のルールを変えてしまえば良い」
わたしは皆に指示を出しながら、首をひねった。
「これって本当に、お茶会なのかしら!?」




