第18話 ユリエラ、イレーネのスペックに驚く
わたしの寮の自室はかなり広い。
勉強や就寝する部屋とは別に、メイドの控室があって、応接間があった。
このドローイングルームが無駄に広い。
窓が大きく開放的で、刺繡が施されたソファーがセンス良く配置されていた。
サイドテーブルには品の良い年代物のランプが置かれており、壁にはオシャレ絵画、そしてどこからか花の香りが漂ってくる。
わたし個人は勉強部屋で充分なので、応接間はぜんぜん使わない。
けれどメイドのアイナが、常に埃一つないよう保っている。
ここで週に1度「お茶会」と称して、ユリエラが取り巻きの子たちを「洗脳」してるのでした。
わたしは医務室のベッドでもぞりと動いて、イレーネに愚痴を聞いてもらう。
「その部屋に漂う花の香りは、ユリエラの使う魅了の魔法なの。
ドローイングルームそれ自体が、ユリエラの結界なのよ。
そこでのユリエラの言葉は、いつもより数倍、取り巻きの子たちの心に刺さるわ。
ユリエラと会話するだけで、取り巻きの子たちは崇高な思いに駆られるわけ」
「うわあ……」
イレーネがドン引きしてる。
「毎週あらかじめターゲットを決めておいて、ユリエラはその子に駄目出しをしまくるの。
その子が責められて、泣くか泣かないかのタイミングで、
でもあなたは頑張っているわって、ちょっと褒めるの。
あなたの努力は知ってるとか言って、知らないくせにね。
すると散々いじられていたその子が、嬉し泣きするのよ」
「何でですかっ!?」
「ああ……私は、ちゃんとユリエラ様に見てもらえてるって、感激するの。
それを見ていた周りの子たちも、もらい泣きを始めるわ。
お茶会が終わる頃には、私たちもっとグループのために貢献したいって、ユリエラに誓うのよ」
「うわ~、やり方がえげつないですね……」
「取り巻きリーダーの“ウルとナターシャ”は、お茶会でわたしを退屈させないように、ネタ帳とか持っているわ」
「ネタ帳!? ユリエラさん専用の芸人ですか!?」
「はあ……自分で言ってて、気分が悪くなってきた」
「聞いてる私だって、最低の気分になりましたよっ」
「そんなお茶会が、2日後にあるわけ」
「やらなきゃ、良いじゃないですか」
「そうよね、気分が優れないって言って、中止にすれば良いとわたしも思う。
けれど次の週は、どうすれば良いの?」
「次の週って言うか、もうお茶会開かなきゃ良いですよっ」
「やらなきゃやらないで、あの子たちが不安になっちゃう」
「えええ……」
「でもやったらやったで、もうわたしが耐えられないよ。
わたし本物のユリエラみたいに、駄目出しとかできない。
そんなことしたら、わたしの心が罪悪感で潰れちゃう」
「駄目出ししなきゃ、良いんじゃ?」
「それはそう、わたしもそう思う。
けれどわたしの中の、ユリエラな“私”が囁くのっ」
あらあら、そんな生ぬるいお茶会で、あの子たちが満足するかしら?
私は私なりに、あの子たちへ悦びを与えていたのよ?
それを取り上げられたら、あの子たち「もう私たちに、興味を失ってしまったの?」って、とても不安がるわ。
あの子たちは、あなたの罵りと、ほんの少しの許しを求めているの。
それであの子たちは、泣けるんですもの。
どんな理由であれ、泣くというのはその人を解放するわ。
私はあの子たちを解放してあげていたのに、あなたときたら嘆くばかりで――
「ううっ、そんなの解放じゃないっ。
心を縛り付けておいて解放なんて、ウソよっ、くうう……」
その言葉はもうイレーネに言ってるんじゃなくて、わたしの独り言のようになってた。
頭を抱えて呻くわたしを、イレーネがぎゅっと胸に抱きしめてくれる。
「大丈夫ですユリエラさん、私がついてます。
私がついていますから」
「イレーネさんっ」
なにこれ落ち着く!
イレーネに抱かれていると、すっごい落ち着く!
これが光属性のパワーなの!?
ママみがあるっ、すっごいママみがある!
そこでわたしはハッとした。
貴族の子供たちは生まれてすぐ、母親から引き離される。
子供は母親が育てるんじゃなくて、家が育てるもの。
メイドが指示を受けて育てるもの。
そういう決まりがあった。
そんな環境で育てられる子供たちは、いつも心のどこかで、母親を求めている所があるように思う。
そのぽっかりと開いた心の穴に、光属性のイレーネが、めっちゃすっぽりハマってるー!
これはヤバい。
こんなのされたら母の愛を知らない貴族の男たちは、ひとたまりもないかもしれない。
今更ながら、イレーネのスペックの高さに驚かされた。
イレーネは天性のハンターだった。
バブみハンターだ!
悪役令嬢ユリエラは「恐怖」を使って人の心を開放し、主人公イレーネはその真逆。
「バブみ」によって、人の心を開放させて――
わたしが新たな発見に打ち震えていると、イレーネママが尋ねてきた。
「カイルさんから、お茶会へのアドバイスは無かったんですか?」
「ううん、あったよ一応……」
わたしは「グループのこれから」についてのレクチャー以外にも、お茶会についてのアドバイスを受けていた。
ただちょっと、実行しようかどうか迷ってる。
わたしは制服のポケットから、4つ折りにした紙を取り出し、イレーネに見せる。
イレーネはそれを見て呟いた。
「へー、おもしろそー」




