表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/48

第18話 ユリエラ、イレーネのスペックに驚く


わたしの寮の自室はかなり広い。


勉強や就寝する部屋とは別に、メイドの控室があって、応接間(ドローイングルーム)があった。

このドローイングルームが無駄に広い。


窓が大きく開放的で、刺繡(ししゅう)(ほどこ)されたソファーがセンス良く配置されていた。

サイドテーブルには品の良い年代物のランプが置かれており、壁にはオシャレ絵画、そしてどこからか花の香りが漂ってくる。


わたし個人は勉強部屋で充分なので、応接間はぜんぜん使わない。

けれどメイドのアイナが、常に(ほこり)一つないよう保っている。

ここで週に1度「お茶会」と称して、ユリエラが取り巻きの子たちを「洗脳」してるのでした。


わたしは医務室のベッドでもぞりと動いて、イレーネに愚痴(ぐち)を聞いてもらう。


「その部屋に漂う花の香りは、ユリエラの使う魅了(みりょう)の魔法なの。

ドローイングルームそれ自体が、ユリエラの結界なのよ。

そこでのユリエラの言葉は、いつもより数倍、取り巻きの子たちの心に刺さるわ。

ユリエラと会話するだけで、取り巻きの子たちは崇高(すうこう)な思いに駆られるわけ」


「うわあ……」


イレーネがドン引きしてる。


「毎週あらかじめターゲットを決めておいて、ユリエラはその子に駄目出しをしまくるの。

その子が責められて、泣くか泣かないかのタイミングで、

でもあなたは頑張っているわって、ちょっと()めるの。

あなたの努力は知ってるとか言って、知らないくせにね。

すると散々いじられていたその子が、嬉し泣きするのよ」


「何でですかっ!?」


「ああ……私は、ちゃんとユリエラ様に見てもらえてるって、感激するの。

それを見ていた周りの子たちも、もらい泣きを始めるわ。

お茶会が終わる頃には、私たちもっとグループのために貢献したいって、ユリエラに誓うのよ」


「うわ~、やり方がえげつないですね……」


「取り巻きリーダーの“ウルとナターシャ”は、お茶会でわたしを退屈させないように、ネタ帳とか持っているわ」

「ネタ帳!? ユリエラさん専用の芸人ですか!?」


「はあ……自分で言ってて、気分が悪くなってきた」

「聞いてる私だって、最低の気分になりましたよっ」


「そんなお茶会が、2日後にあるわけ」

「やらなきゃ、良いじゃないですか」

「そうよね、気分が優れないって言って、中止にすれば良いとわたしも思う。

けれど次の週は、どうすれば良いの?」


「次の週って言うか、もうお茶会開かなきゃ良いですよっ」

「やらなきゃやらないで、あの子たちが不安になっちゃう」

「えええ……」


「でもやったらやったで、もうわたしが耐えられないよ。

わたし本物のユリエラみたいに、駄目出しとかできない。

そんなことしたら、わたしの心が罪悪感で潰れちゃう」


「駄目出ししなきゃ、良いんじゃ?」

「それはそう、わたしもそう思う。

けれどわたしの中の、ユリエラな“私”が(ささや)くのっ」


あらあら、そんな生ぬるいお茶会で、あの子たちが満足するかしら?

私は私なりに、あの子たちへ(よろこ)びを与えていたのよ?


それを取り上げられたら、あの子たち「もう私たちに、興味を失ってしまったの?」って、とても不安がるわ。

あの子たちは、あなたの(ののし)りと、ほんの少しの許しを求めているの。


それであの子たちは、泣けるんですもの。

どんな理由であれ、泣くというのはその人を解放するわ。

私はあの子たちを解放してあげていたのに、あなたときたら(なげ)くばかりで――


「ううっ、そんなの解放じゃないっ。

心を縛り付けておいて解放なんて、ウソよっ、くうう……」


その言葉はもうイレーネに言ってるんじゃなくて、わたしの独り言のようになってた。

頭を抱えて(うめ)くわたしを、イレーネがぎゅっと胸に抱きしめてくれる。


「大丈夫ですユリエラさん、私がついてます。

私がついていますから」

「イレーネさんっ」


なにこれ落ち着く!

イレーネに抱かれていると、すっごい落ち着く!


これが光属性のパワーなの!?

ママみがあるっ、すっごいママみがある!


そこでわたしはハッとした。

貴族の子供たちは生まれてすぐ、母親から引き離される。


子供は母親が育てるんじゃなくて、家が育てるもの。

メイドが指示を受けて育てるもの。

そういう決まりがあった。


そんな環境で育てられる子供たちは、いつも心のどこかで、母親を求めている所があるように思う。

そのぽっかりと開いた心の穴に、光属性のイレーネが、めっちゃすっぽりハマってるー!


これはヤバい。

こんなのされたら母の愛を知らない貴族の男たちは、ひとたまりもないかもしれない。


今更ながら、イレーネのスペックの高さに驚かされた。

イレーネは天性のハンターだった。

バブみハンターだ!


悪役令嬢ユリエラは「恐怖」を使って人の心を開放し、主人公イレーネはその真逆。

「バブみ」によって、人の心を開放させて――

わたしが新たな発見に打ち震えていると、イレーネママが尋ねてきた。


「カイルさんから、お茶会へのアドバイスは無かったんですか?」

「ううん、あったよ一応……」


わたしは「グループのこれから」についてのレクチャー以外にも、お茶会についてのアドバイスを受けていた。

ただちょっと、実行しようかどうか迷ってる。


わたしは制服のポケットから、4つ折りにした紙を取り出し、イレーネに見せる。

イレーネはそれを見て(つぶや)いた。


「へー、おもしろそー」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ