第13話 ユリエラ、ユリエラさん、がんばって!と18回言われる
なんて素晴らしいんだろう。
悪役令嬢になってしまった悩みを、隠すこともなく相談できるなんてっ。
わたしはイレーネに、取り巻きの子たちの事を相談した。
解散してあげたくても、解散できない事情を説明した。
「でね……わたし、どうしたら良いのか……」
「ああ、そんなことがっ……
ユリエラさんに転生したからこその、悩みですねえ。
ダークバラードの中で、性格のヤバいキャラは色々といますけど、やっぱりユリエラさんがトップですもん。
断トツにカルマ値がマイナスで、邪悪すぎるからなあ。
たきのの時代に、何度もユリエラさんの張った罠で、ゲームオーバーになりましたもの。
そんなキャラを引き継ぐなんて、本当に大変ですよね」
「うう、ありがとう……そう言って分かってくれるの、イレーネさんだけだよお、うううっ」
「ユリエラさんがしてきた他の悪行とかも、記憶してるんですか?」
「そうなの胃が痛いのっ、本当にヤバいのっ」
「うわっ、じゃあ取り巻きの子たちへの悪行なんて、まだ可愛いものじゃないですか」
「うぐっ、胃が痛い……それを言われると心が痛い……」
「恐怖での支配じゃなくて、和気あいあいにしたいですか……う~ん」
「わたしから何か言っても、怖がらせるだけなの」
「う~ん……」
「わたしが消えた方がいいけど、それだとあの子たちが路頭に迷うの」
「うう~ん……」
「ユリエラさん。
やっぱりどうやっても、ユリエラさんが傍にいたら緊張しますよ。
急に優しくしても、その裏に何かあるとか思っちゃいますもん」
「そうだよね……うう」
「だから緊張しながらも、和気あいあいでいられたら良いと思います」
「緊張しながら和気あいあい?」
「それを繰り返して、少しずつ今のユリエラさんに慣れさせるしかないです」
「少しずつ慣れさせる、何をすれば良いの?」
「えっとだから緊張しながらも、こう……のびのび……」
「その方法は?」
「そこまではちょっと……
あっそうだ、御者のカイルさんに相談してみますか?」
「カイル? なんでここでその名前が出てくるの?」
「だってカイルさん軍人でしょう? ユリエラさんをガードするための」
「えっ!?」
「知らなかったんですか?
あそっか。これユリエラさんが気付くのは、まだ先だったかな。
カイルさんは、ユリエラさんのお父様がこっそり仕込んだ、特殊な部隊の軍人だったはずです。
緊張しながらも和気あいあい。
軍人とかって、いつもそんな感じじゃないですか。
何かアドバイスを、くれるかもしれませんよ」
「何で……お父様がそんな事を……」
そう呟きながら、わたしは大体見当が付いてしまう。
お父様は、娘のわたしが恐ろしいんだ。
だからわたしのガードと言いつつ、学園での動向を見張らせている。
お父様のスパイは、メイドだけだと思っていた。
そんなメイドが目障りだから、じわじわ精神を壊して遊んできたのだけど。
ああ違うっ。
やったのは霧島ゆりじゃなくて、ゲームキャラのユリエラっ。
ここははっきり区別しておかないと、罪悪感で心が押し潰されそうになる。
わたしが急に頭を抱えて振り始めたから、イレーネが背中をさすって心配してくれた。
「大丈夫ですか、ユリエラさんっ」
「うん大丈夫……いつもの発作だから。
ときどき罪悪感で、押しつぶされそうになるの」
「うわ、どうしよっ。じゃあカイルさんの話は無しでっ」
「あの……カイルさんの正体に気付いたユリエラって、ゲームの中でどうするの?」
ちょっとそこが気になって、尋ねてしまう。
「え、聞きたいんですか?」
「お願い聞かせて」
「あの……カイルさんの正体に気付いたユリエラさんは、特に危害は加えません。
ただカイルさんへ、意図的に誤情報を流して利用します。
それでお父様の目を眩ませます。
そうしながらカイルさんの前で、本当は心の弱い女のふりをして、同情を誘って籠絡するんです」
「えええ……」
「卒業パーティーの断罪イベントのとき、ユリエラさんが魔族を呼び寄せるんですけど、
その時なにも知らないカイルさんが、ユリエラさんを守ろうとして前に立つんです。
それをユリエラさんが邪魔だとか言って、後ろから背中を刺すんです。
それでカイルさんは、あっけなく死んじゃいます」
「なにそれー!?」
わたしは思い切りのけ反り、その反動で体が戻ってそのまま項垂れる。
酷い眩暈がした。
「わたしが、殺す……」
「大丈夫ですかユリエラさんっ」
「わたしって、やっぱりクズだ……」
「ユリエラさん、がんばって!」
イレーネはそのあと、18回がんばってと言った。
わたしたちはこれからも、ちょこちょこ合う約束をしてその場で別れた。
イレーネはびちゃびちゃのままの制服で、学校へ行くという。
一度着替えてから行ったらと言ったら。
良いんです。
このまま行って「それどうしたの」って、コンプしたい男子が、声をかけてくれるかもしれませんって言ってた。
元気だなって思った。
さすが4周目は違う。
キャラ設定の、ど真ん中を突っ走ってる。
まあ、さすがに呆れたけれど。
でもわたしも、人のことあんまり言えないんだよね。
わたしも前世でハーレムコンプリートを目指して、ダークバラードをやっていたから。
それで夢中になり過ぎて、階段を踏み外したんだから。




