表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/48

第1話 わたしは、ユリエラ・ソルナイン


わたしは周りの子たちを見下してた。

(さげす)みの気持ちがとっても強くって、いつもつんと(あご)を上げてる。

そんなんだから足元をよく見ないで、授業の終わったあと、階段の一歩目を踏み外しちゃう。


「あっ」と思ったときはもう遅かった。

上下が逆さまになって、思い切りあごを階段にぶつけてた。

口いっぱいに、血の味が広がって気持ち悪い。


「あああっ」


転がりは止まらない。

まだまだ階段は続いている。

わたしの通う、学園のホールの階段は結構長い。


勢いがついて体が跳ねた。

わたし死ぬんだと思った。

めっちゃくちゃ痛い。


なんだか妙に、周りがゆっくりと見える気がする。

転がり落ちながら、走馬灯が見えた。

それは強烈なデジャヴだった。

わたしこの痛み知ってる!

真っ赤に染まった口で叫んだ瞬間、わたしの中にフラッシュバックが広がる。


ここではないどこか。

バイト帰りの11時。

駅の階段。


わたしはそこで手に持つ乙女ゲームに夢中になって、階段の一歩目を踏み外してる。

おんなじことしてる。

あっという間にひっくり返って、階段を転がり落ちてた。


なにこれ同じ? なんで同じなの?

そう思ってびっくりしたのが最後で、わたしの意識はふつりと途切れた――



どれだけ時間が経ったんだろう。

ふっと目が覚めて天井が見えた。

そこは駅のホームの天井じゃない。

学園のホールの天井でもない。


そこは見慣れた、わたしの部屋の天井だった。

学園にある寮の部屋。


「あ……れ?」


ベッドに寝てるみたい。

わたしはゆっくりと体を起こす。

あれだけ体を強く打ったのに、まるで痛みがなかった。


そのことは別に不思議じゃない。

誰かが転げ落ちたわたしに、治癒魔法をかけてくれたんだと思う。


この世界には「魔法」が存在していて、誰もそんな事を不思議がったりしない。

わたしはそれより、もっと別のことを不思議がっていた。

そっとベッドから立ち上がる。


「えっとあの……ほんとに?」


数メートル先の壁際におっきな鏡があって、わたしはその前に立った。

ああ……ちょっと怖くて前が見れない。

鏡にうつる足元を(にら)んじゃう。

それでも少しずつ視線を上げて、自分の顔を見た。


「うっわ……」


そこに映ってんのは、わたしの顔じゃなかった。

あのとき駅でやってた、ゲームキャラの顔。


ゆるくウェーブのかかった長い銀髪。

深い紫色の瞳。

ゲームキャラだけに、すっごい美人だった。

名前はユリエラ。

とある公爵家の令嬢で、帝都にある魔法学園に通ってる3年生だ。


わたしは自分?の顔を、べたべたと触りまくった。

きれいな銀髪をくっしゃくしゃにかき回して、しゃがみ込んだ。


「どうなってんのこれっ。

まさか転生? わたし駅で転んで死んだの? 

それで転生?

ゲームとか本とかで良く見る、異世界転生ってやつ?

本当にそんな事ってあるの!?」


よく分からないけれど「学園の階段で転んだ痛み」と、前世の「駅で転んだ痛み」が重なって、なんだかんだあった気がする。

あのとき前世の記憶が、しゅばんと頭の中に広がったんだもの。


「わたし」と、鏡の中に映っている「私」は別人だ。

けれど不思議なのが、顔が違うと思っているのに、同時に違ってないと思う所。


わたしはこのキャラの顔で、もう18年も生きていた。

「ユリエラ」イコールわたし。

そう思ったんだけど違う可能性もあって、わたしは頭を抱えた。


「ちょっと待って……

ほんとにわたし、18年も生きてた?

これってわたしの記憶じゃなくて、キャラの記憶かも?

それを自分の記憶だと、思っているだけなんじゃ?

わたしっていつから、このキャラになってんの!?」


ついさっき駅の階段を踏み外したばかりな気もする。

だってそっちの記憶も、しっかりあるんだもの。


本当のわたしは黒髪で、ちょっとだけ茶色い瞳が自慢だった。

名前は、霧島(きりしま)ゆり。

大学の帰りにバイトして、駅で転ぶ19歳。


「ん? あのとき19歳ってことは、こっちで18年生きてきたから……

えっと足して37歳……あ、絶対違う!

わたしたった今、ゲームの中に転生してきたんだ。

たった今だ、きっとそう!」


そこじゃない。

わたしが悩む所はそこじゃない。

どうなってんのと(うな)ってたら、コンコンコンとノックが聞こえて、ガチャリと扉の開く音がする。

入ってきたのは、公爵家から連れて来た専属メイドの「アイナ」。


アイナはわたしが起きている事に、びっくりしたみたい。

駆け寄って、わたしのそばにしゃがみ込む。

わたしの肩に触れようとした手が躊躇(ためら)ってる。


「大丈夫ですか、お嬢様。すぐに医者を連れて参ります」

「うん、ありがとう」

「え!?」


アイナは大きな声を上げて、固まった。


「どうしたのアイナ?」

「いえ、何でもありません。行って参ります」

「そう、お願いね」

「え!?」


また固まった。

何やってんのと思ったけど、あー何となく分かる。

わたしは何となく察した。


わたしがぞんざいに、手をひらひらさせて「あっち行けって」素振りを見せると、逆にほっとした顔をして動き出す。

わたしはきびきびと動き始めたアイナを見て、ちょっと寂しくなった。

そりゃないよー。


そりゃないよと思うけれど、しかたないと思うわたしもいる。

わたしはこれまで、専属メイドとかをゴミみたいに扱って、何人も発狂させてきたから。


アイナは確か、専属メイドの18人目。

そんなわたしがいきなり「ありがとう」とか「お願いね」とか言ったら、そりゃ警戒するよねえ。

また何か嫌がらせを企んでるとか、思ったんだろうなあ。


なんでわたしが、そんなメイドいじめをするかって?

だってわたしは、乙女ゲーム「ダークバラード」の悪役令嬢キャラなんだもの。


のちのち魔王に寝返って、国を滅ぼす悪役令嬢+傾国キャラ。

ユリエラ・ソルナイン・S・ミラージュなんだもの。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ