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ある夏、海を見守る少女

作者: 如月カイキ

練習で書いた作品です。読んでいただけると嬉しいです。

 高校一年生の夏、ついに始まった高校生活初の夏休み。


 夏祭りに花火大会、プールや海で友達とはしゃぎまくることが許される最高の期間だ。


 ……まあ、何もせずだらだらと家で漫画を読みゲームをし、ただ寝て食っての生活の繰り返しで気付けば八月も中旬な訳ですが。


 そんな環境も父方の祖父母の家に遊びに行くことで少しはマシになった。


 家の目の前は海と真っ白な砂浜が広がっていて、近くには公園だってある。


 まさに夏らしいロケーションなのだが――――一つだけ、気になることがあった。


「待って」


「え?」


 海で朝のランニングの為に、わざわざ日の出のタイミングで起きてきた俺の足を止める者がいた。


「そこから先、入んないでね」


「えぇ…………」


 もうあと僅か一歩踏み出せばサラサラの白い砂浜へ駆け出せるというのに、それを許さないのは一人の少女。


 地元の高校生……だろうか? 夏休みだというのに制服姿で、田舎の海を眺めながらおセンチな気分なところ申し訳ないのだが。


「なんで入っちゃダメなんだ?」


 …………。


 返事がない。ただの無視のようだ。


 どうやら俺と会話をする気がないこの少女は、俺が祖父母の家に来た時点からずっとこの海を眺めている。


 いつ帰って、いつ寝て、いつメシを食っているかなんて悟らせない程に、いつもこのJK(推定)はここに居座っているのだ。


「もしかして地元の人? なんかこれからイベントとかで入れないとか?」


 …………。


 同級生の女子にもここまで話しかけたことはないぞ、無視されてるけど。


 ナンパってこんな感じなのかな、成功率一割切るっていうし。


「ちゃんと家帰ってるのか? いつもここで海眺めてるよな」


 …………。


 早朝の海辺で男女が二人。


 この状況でどうしてここまで無視できるんだ……!?


 俺はこのJK(断定)が気になって仕方がなかった。


――――それから毎日、早朝に海の見える公園へ行き。


――――JKにひたすら声をかけ続け。


 一週間という時間が経ち、ようやく彼女が口を開いた。


「来週の夜明けの時間、ここに来て」


「……え?」


 まさか自分に口を開いてくれるなんて――ワンチャンあるとは思っていたが――思ってもいなかった。


「わ、わかった。来週、夜明けの時間ね」


 来週って……三十日じゃねえか。


 少女からのお誘いに正直心が躍っていた俺は、その小さな幸福感を握りしめつつ祖父母の家に帰った。


 家に帰ると、ばあちゃんが朝ご飯を用意してくれていた。


 目玉焼きにウィンナー、白いご飯にお味噌汁。最高の朝食だ。


「――――そういえばさ、ばあちゃん」


「んー?」


 あの少女について聞いてみることにした。


「海の前でず~っと居座ってる女の子、知ってる?」


 ばあちゃんは俺の話を聞くと、にっこりと笑顔を見せて口を開く。


「気になるのかい? 青春だね~」


「そういうのいいから! 何か知ってるな~?」


 質問を濁して答えてきた時、それは何かを知っている時だ。


「そうだねえ。あの子は毎年あの場所にいるさね」


「毎年? なんで?」


「それは――――」


――――少女からの誘いを受けて、一週間が経過した。


 夜明けの時間と言われたが、なんだか待ち遠しくて少し早めに来てしまった。


 海の見える公園を抜けて、砂浜に入る手前のフェンス。


 月の光に照らされる少女の後ろ姿がそこにある。


「もしかして、待たせちゃった?」


 …………。


 返事がない。相変わらず無視されているようだ。


 俺の方へ振り返ることもなく、ただ鉄のフェンスの向こう側を見ているだけ。


 ただし今日は、いつもとは違うようだった。


 普段は海のずっと向こう側、地平線を眺めている様子だったのに、今日だけは違う。


 少女の隣に立ち、フェンスに体を預けながら砂浜の方を見る。


 普段は真っ白な砂浜。田舎のこんな時間に人っ子一人いない。


 しかし、よくよく見てみると、砂浜のところどころが隆起している。


「――――始まった」


 砂でできた小さな山の中から、更に小さな何かが出てきては動いている。


 同じような現象がこの砂浜の数十か所で起きていた。


 そしてそれぞれが海を目指して腹を滑らせていく。


――――ウミガメだ。ばあちゃんの言っていた通り、彼女はこのウミガメたちを見守っていたんだ。


「……あっ」


 ウミガメの孵化というのは過酷なものだ。


 せっかく生まれてきたというのに、餌を見つけたカラスやカニに狙われてしまう。


 気付けば空が明るくなっていた。


 差し込まれる僅かな光が、小さな命の駆け引きをこの目に鮮明に映し出していく。


「「頑張れ――――」」


 思わず出た言葉が、不意に隣の少女と重なる。


 驚いて顔を見合わせる。


 謎の緊張感にドギマギしてしまう俺に構わず、少女は再び海の方へ向く。


 ……あっという間の出来事だった。


 何百という命がここで生まれ、海に帰ることができたのは数匹もいなかった気がする。


「無事に大きくなれるといいな……」


 朝日が昇り、初めて彼女と会話(?)した日のような景色。


 少女はどこか遠い目をしていた。


「毎年ここにいるんだってな。なんで始めたんだ?」


「…………元気をもらう為かな」


 返事がない。やはり無視――――ではない!?


「そ、そっか……」


「うん。じゃ、また」


「お、おう……」


 海風に靡く黒髪は、俺の今年の夏休み最後の思い出となった。


 ……やべ、課題全然終わってねぇ~…………。



――――そうして夏休みが終わり、更に一年後。



「――――待って。そこから先、入んないでね」


「わかってるよ、もう忘れたのか?」


 …………。


 返事がない。今年も無視のようだ。


 高校二年目、俺の夏休みが始まる。


 

読んでいただきありがとうございました!文字数1000文字前後を想定していましたが、その倍近くになりました。次はしっかり目標内に納めます。

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