宝石の聖女 ー宝石を要求していたら「欲深女め!」と追放された。結界の維持に必要だったんですけど? まあもういいやー
私、ジュリーナ・コランダムは聖女と呼ばれる人間だ。
聖女といっても大層なものではなく、王国を魔物から守る結界の維持・管理役というだけでしかない。
結界さえ維持できていれば仕事はそれだけ。おかげで衣食住には困らないし、贅沢を言わなければ好きなことをして過ごせる。
先代から受け継いだこの仕事、それなりに気に入っていたのだが……
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「聖女、いや偽聖女ジュリーナ・コランダム! 貴様を追放処分とする!」
突然王様に呼び出された私は、唐突な追放命令を受けて目をパチクリさせた。
はあ? 王国を守っている私を追放? 正気か?
「あの王様、まず理由を……」
「そんなもの決まっている! 貴様が日々奢侈に溺れ、贅沢の限りを尽くし、王国の財を食い潰し続けるからだ!」
はああ~? 私が? 贅沢?
むしろ贅沢しすぎないよう、毎日贅沢三昧の王国貴族を尻目に、日々の食事は庶民と同じものにして、服も寝具も一般の品を使っていたのに? 結界の管理は当然の役目として無給だし。
「あの王様、私がいったいどんな贅沢を……」
「とぼけるのもいい加減にしろ! 貴様が幾度となく要求する、『紅の宝玉』のことだ!」
……『紅の宝玉』?
それを求めることが、贅沢??? 本気で言っているのだろうか。
『紅の宝玉』はその名の通り真っ赤な色の宝石だ。その美しさもさることながら、その本質は中にこもったエネルギー。魔力に満ちた場所で自然生成されるいわば魔力の塊なので、かつ自然の魔力によってできるため、魔物が本能的に嫌う魔力を持っている。
この王国を守る結界も、私が『紅の宝玉』の魔力を抽出・純化し、昇華させることで成り立っているのだ。だから私が『紅の宝玉』を要求するのは当たり前だし、そうしなければ国を守れない。それが贅沢などと、本当にふざけた話だ。
「いやいやいや待ってください! 『紅の宝玉』は結界の維持に必要不可欠なのです! けして私が贅沢なのではなく……」
「黙れっ!! 父上の手記にあったが、先代の聖女は宝石など要求しなかった! これまで貴様の詭弁に騙され続けたが、これ以上嘘を続けられると思うな!」
「はあ~!?」
さすがに声に出てしまった。王の父、つまり先王の手記にどう書かれていたか知らないが、『紅の宝玉』による結界の維持は何を隠そう先代聖女から教わったものだ。嘘なわけがない。
「聖女の立場をかさに着て、宝石をため込む業突く張り女め! 恥を知れっ!!」
王が私を指さして唾を飛ばす。すると周りの兵士や大臣たちも、そうだそうだ、この悪女めが、と私を非難した。
そのころには私はもうすっかり冷めていた。今まで誰が守ってやったと思ってるんだ。もう知ったことか。
「本来ならば死罪なのを追放で済ますだけありがたく思えっ!!」
王様の言葉に周囲がさすが王、寛大だ、と歓声を上げる。あの、魔物がはびこる結界の外への追放は事実上の死罪なのですが? 王の格好つけと、それに気付かない周囲にもう呆れしかない。
「あのー一応聞きますけど、私がいなくなった後、どうやって魔物から国を守るんですか?」
「フン、どうせ貴様は贅沢にかまけて聖女の役目などしていなかったのだろう、その間結界は維持されていたのだから、何もせずとも問題はないということだ! 残念だったな」
「あーそうですかそうですか、わ・か・り・ま・し・た!」
こりゃもう何を言っても無駄だろう。私がいなくなったらいったい国がどうなるか、もう知ったことか。王の愚鈍さから魔物への備えを失う国民たちには悪いけれど……恨むなら王を恨んでくれ。
「追放、甘んじてお受けします! 今までありがとうございました!!」
「フン、ようやく諦めたか。言っておくが貴様の部屋にため込んだ宝石を持ち出せると思うなよ? 今からすぐに城門をくぐり、国外へと出るのだ! 兵士、この悪女を監視しておけ!」
宝石は結界のために全て使ってきたので部屋に残っているわけがない。しかし着のみ着のまま追い出すとは、完全に死罪と同じだ。いよいよ王への同情が消え失せていく。
「宝石の悪女よ! 二度とこの国に近寄るな!」
「はいはい……」
勝ち誇った王の悪態を背に受けつつ、私はこの国を後にしたのだった。
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こうして私は追放された。
城を出てから結界の外まで兵士に見張られながら歩いた。その間、国民たちからも罵詈雑言を浴びせられた。聖女の追放は王命として広く知られ、私はすっかり「聖女の名を利用して宝石をため込んだ欲深女」になってしまったらしい。なんなら卵や石すら投げつけられたが、その分すっきりとこの国を後にできるというものだ。
結界の外に雑に追い出された後、兵士たちは帰っていった。どうせ偽聖女、すぐに魔物に食い尽くされると思ったのだろう。
聖女の力があれば私の体を魔物よけの結界で包むぐらいどうってことはない。宝石が必要だったのは国を守るためだ。もうその必要もないが。
商人用に整備された街道を歩いていると、商人の馬車が通りかかったので、馬車に魔物よけの加護をしてあげる代わりに乗せてもらい、あっさり隣国に辿り着くことができた。
そもそもこの街道自体、歴代の聖女が結界を維持できるよう、『紅の宝玉』を他国から取り寄せるために整備されたものだ。ずっと昔からあるこの街道の意味を少しでも王たちが考えられれば、私を追放することもなかったろうに。
今頃私の部屋から宝石がひとつも見つからないことに気付き、己の過ちに気付いた頃だろう。もう遅いが。
それからしばらく後、私がいた国が魔物によって滅んだという知らせを聞いた。
後で知ったことだが、そもそも『紅の宝玉』は以前は単なる魔力結晶として安価で取引されるものだったらしい。見た目は綺麗だが数自体は多いし、鉱石ではなく魔力の塊なのだから考えれば当然だ。
だが先代の王がそこに目を付け、単なる赤い魔力結晶だったものに『紅の宝玉』と名前を付け、宝石としての希少価値を与えた。それを国の特産として掲げ、大儲けを狙ったのだ。あるいは国を守る結界への箔付けがしたかったのかもしれない。
先代の頃はうまくいっていたが、なまじ宝石として盛り立てたばかりに国内の『紅の宝玉』が流出、私の代では入手のために大量の金が必要となってしまった。先王はその失敗を隠すべく、聖女の結界の真相を墓まで隠して死んだ……というのが真相らしい。
つまりあの国は先王の欲深さ、そしてそれに気付かぬ現王の愚鈍さで滅んだというわけだ。
まあもう、知ったことじゃあないけれど。
※連載版始めました!
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