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08『ブリキ缶とマキナ』

学校を後にした、テフナと桜は、不気味な静寂と闇夜に包まれた村の中心部へと移動していた…

一定間隔で佇むガス灯の街頭や商店等の明かりは点いてはいるものの、人の気配が消えた様子を見た桜が口を開く。


「源坂さん、村の人や他のベッコウ師の人達はどこへ?」

手にする45口径の『ミナカ式C型拳銃』の銃口を向けながら周囲を警戒する桜が問い掛ける。


「村の人達は、非常時の避難場所である役所に居て…他の数少ないベッコウ師の人は、そこの警備を優先する様に規定されているので、基本的に自由に迎撃している人はいないですね。」

校舎にて一度、手放してしまった拳銃を回収したテフナは、桜の死角をカバーしながら答える。


「そうですか…近くに雷クモに寄生された標的が居るかを確認するので、少し待って下さい。」

そう告げた桜は眼を閉じて、意識を脳内へと集中させる。


「どうやって分かるのですか?」

テフナは、校舎でも一瞬にしてレイが寄生されていた事を見破ったすべに対して、疑問を投げ掛ける。


「はい、雷クモ達は特定の電波を発して、近くの仲間とコミュニケーションを取るとされています…ですので、その電波の周波数に対して、ラジオの様に合わせる事でおおよその位置を特定出来ます。」

瞳を閉じた状態でゆっくりと歩き出した桜が、更に続ける。


「まぁ…私は試作型の戦マキナなので、探知出来る範囲はそれほど広くは無い上に、精度も良くはありませんが…」

そう謙遜した桜は、テフナと同年代の少女らしく微かに笑う。


「それでも、居場所を特定して、瞬時に寄生の有無を判断出来る事自体が凄いですよ。」

テフナは、更に気になるワードに対して、問い掛ける。


「その桜さんが試作型っていうことは、別の種類の戦マキナもいるっていう事ですか?」

「はい…そうですね…」

答え始めた桜だが、その口元と歩みが止まる。


「えっ…まさか、ここに?」

驚きを隠せないテフナの視線の先には、馴染みのある精肉店の扉が僅かに開いている。

「はい、この中から複数体の電波を感じます。」

そう慎重に応じた桜は、銃口を精肉店の奥へと続く入り口へと向ける。


「(全部で2体ね…)」

桜が、店内の床に倒れている村人だったものを、貪る雷クモに寄生された存在を視認し…

手にしている『ミナカ式C型拳銃』の薬室に初弾を装填し、弾倉を新しい物と交換する。


そして、一番手前にしゃがむ寄生された男性の背中に向けて、桜は発砲する。


「グゥ!?なんだ…」

背中へ45口径の弾丸を2発食らいながらも振り返った男性は、眉間に3発目を受けた事で倒れる。


「くそ、ベッコウ師かぁ!」

残るもう一体の男性が、銃口の照準を翻弄しようと素早く蛇行しながら、桜へ襲い掛かるが…


桜は瞬時に、背中へ左手を伸ばし、セーラー服の裏に隠してあるナイフを投げて対処する。

ナイフが右肩に刺さった標的は、僅かに怯む。

その僅かな隙に、桜は2発を心臓付近に、1発を眉間へと撃ち込む。


二人の村人だったものが倒され、3発の空薬莢が転がる音と火薬の匂いが漂うなか、テフナが口を開く。


「学校の友達が寄生されていたから、町中にもいるよね…桜さんは、ベッコウ師としての覚悟が決まっていますね…私は、桜さんやレイと違って…甘いな。」

そう吐露したテフナは、刀身が赤く反射する桜のナイフに視線を向ける。


「源坂さんは、初めて雷クモと対峙したのが、生まれ育った村で…親交のある人達が突然、寄生されてしまった現実に対して戸惑う気持ちも理解出来ますよ…」

同じくナイフの刃へと視線を落としていた桜が感付き…テフナの背後辺りを見上げる。


その視線の先には、足先が鋭い爪の様に変形させ壁に張り付いた、精肉店の店主が口元を赤く汚しながら、不気味な笑みを向けている。


「ワカニク、旨そう!」

その言葉と同時に店主が桜へと飛び掛かる。

「(足が変形していて、動きが早い!)」

回避が間に合わないと判断した桜は、左腕で攻撃を受け流す。


店主の右腕が変形した刃の一撃に表情を歪ませつつも…桜は体格差を生かして店主の懐へ入り込み、戦マキナとして強化された身体能力を右の拳に込めて、素早く放つ。


「小娘のクセに、なんて威力だ…」

みぞおちに一撃を食らった店主が片膝を付き怯む。


桜はすかさず拳銃に残る45口径の弾丸を2発撃ち込み、店主の動きが更に鈍った隙に、背後へ数歩分だけ飛ぶ様に後退する。

そして、男性に刺さっていたナイフを抜き…その刃を店主の心臓に目掛けて投げる。


「テ…テフナちゃん…助けて…肉を分けて…」

前のめりに倒れ、意識を失っていく店主は記憶を振り絞り、テフナへと懇願する。

「松前さん…」

そう溢したテフナは、自身の拳銃の銃口を向ける事が出来ない。


「…その肉を食わせろって言ってんだろ!」

そう咆哮した店主がテフナのふくらはぎへ噛み付こうとする。


しかし、新たな弾倉を交換した桜が放った、銃弾によって妨げられ…頭部に止めの一発を食らった店主は完全に息絶えてしまう。


「助かりました…」

短く感謝したテフナは面識のある店主だったものを見つめた後…桜の方を向いて言葉を続ける。


「その左腕の傷は大丈夫ですか?」

テフナが申し訳なさそうに心配する。

「はい…この程度の傷なら、戦マキナとしての治癒能力で少し経てば回復出来ます…あっ!

そう言えば…」

桜は何か思い出したかの様に、スカートのポケットを探る。


「これはキャラメル?ですね。」

桜が疑問符を付けて説明した手の平に収まるサイズのブリキ缶を、テフナにも見せる。


「綺麗な装飾…でも、どうして嗜好品のキャラメル?」

テフナの言葉通り…ブリキ缶の蓋の上部には、つばの広い帽子を深く被った魔女とカラスが描かれており、その周囲には西洋風の薔薇模様が施されている。


「それはですね。赤坂村へと向かう汽車の中で、一緒の席になった西洋の貴婦人の方から『貴方には、これが滋養強壮として効きますよ。』っと言われて急に渡されたんですよ。」

そう答えた桜は、キャラメルを一粒取り出して頬張る。


「えっ、急にですか…」

怪訝さを示したテフナは、ブリキ缶を受け取り凝視すると…その蓋の下部には『守ヶもるがな・賢者乃キャラメル』と商品名が記載されている。


「私も初対面で怪しいとは思ったのですが…その貴婦人の方が『貴方マキナたちの生みの親である紅茶よりも珈琲派の科学者さんとは、腐れ縁でして…』っと私の正体を直ぐに見破った上に、博士とも面識がある方のようだったので受け取ってしまいました。」

戦闘によってずれてしまった眼鏡の位置を戻した桜が、左腕を見ると既に出血が止まっている。


「凄い!本当に治癒能力が向上するとは…」

桜が驚きと歓喜の声を上げる。

「そのキャラメル…どういう原理なの?」

テフナは、目の前の現象に対して戸惑いを見せる。


「その貴婦人の方が言うには…今の科学の源流である異邦の錬金術?を応用した代物であると言われていましたね。」

桜とテフナは、同時に首を傾げてしまう。


「キャラメルの事は一旦、置いておいて…今は、私が赤坂村に訪れた本来の目的である存在と源坂さんの…友人の反応を追うことに専念しましょう。」

オホンっと間を置いた桜が、改めて目的を明確にする。


「そうですね…レイは…私が…」

声が震えながらも覚悟を決めようとするテフナの様子に対して、桜は心配しつつも先に精肉店を後にし…テフナも面識のある店主だったものに対して、後ろ髪を引かれる想いを絶ちきる様に去っていく。

お読み頂きありがとうございます。

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