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06『路地裏の足先』

月夜に照らされ、不気味に静まり返った学校の屋上で、何かが割れた音が聞こえる。


その音を発した本人のレイの右手からは血が垂れており…その怪我の原因である割れた手鏡が握られている…


そして、レイが握りこぶしを解いた事で、手鏡の破片たちは、散っていく花びらの様に…はらはらと舞いながら屋上の床へと落ちる。


「はぁ…あの時の事は…夢ではなかったみたいね…」

手のひらの出血が直ぐに止まったという現実に対して、レイの口から失意の言葉が溢れてしまう。


「この村の皆の為にも…テフナの為にも…私がベッコウ師でいられている内に、アイツは必ず私が倒す。」

そう自分に言い聞かせたレイは、佇んでいた貯水槽の上から地面へと向けて飛び降りる。


そして、着地までの刹那の合間に、数時間前…放課後に起こった自身への災難を思い出す…


ーーー


夕方の村の中心部を、買い物客や帰宅する人達が行き交っている。


ベッコウ師の証である蜂が刺繍されたブーツに袴姿で見回りの仕事をするレイの心は、見慣れた村の営みではあるものの微笑ましくなる。


「おっ!レイちゃんかい!いつもお疲れさん。」

精肉店の男性店主が、店先を歩くレイに対して声を掛ける。

「松前さんもお疲れ様です。こちらこそ、いつも美味しいお肉を頂いております。」

顔見知りの相手に対して、レイは軽く礼を述べる。


「あはは、都会のハイカラな店で修行していた板前ひろたさんに調理して貰えるのなら、仕入れ側もそれに出来る限り応えてみせるさ!」

そう店主が自負する店先のショーケースに、様々な肉が並ぶ。


「これはお得意さんであり、ベッコウ師として頑張るレイちゃんへのサービスだ!」

その感謝の言葉と共に、店主は揚げたてのメンチカツを差し出す。


「えっ、ありがとうございます…都市部のほうでは、また増えて来ていると聞いているので、松前さんも気を付けて下さいね。」

そう別れの言葉を伝えたレイは、警備へと戻る。


そして、商店街の見回りが終わり、人気の少ない方へと差し掛かる。


「(松前さんのとこのメンチカツ、美味しいんだよね…!?)」

予想外のご褒美に気が緩むレイは、次の瞬間、視覚に写り混んだ現実に対して思わず、手に持つ好物を地面へと落としてしまう…


その視線の先には、建物と建物の隙間から、靴が片方だけ脱げた女性らしき足先が横に倒れた状態で僅かに見えている。


瞳の鋭さが少女のものから、一人のベッコウ師へと変わったレイは、腰元に差した軍刀の柄と鞘に手を伸ばした状態で駆け寄る。


「そこの貴方、何をしているの!?その人から離れて!」

レイは冷静に振る舞いたいが、眼前の光景に対して思わず声を上げてしまう。


「あぁ…久しぶりに旨そうな若い女だったから…周囲への警戒が疎かになっていたか…」

自分のミスを言葉にしながら振り向いた中肉中背の男は、軍服を着て、頭には軍帽を被っている。


「しかも、その見つかった相手は…ベッコウ師さんか…」

言葉が空虚に聞こえる位に落ち着いた様子の軍人の口元は赤く…その足元には、獲物の女性が倒れている。

お読み頂きありがとうございます。

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