０１『幼いテフナと使用人』
小学生の少女【源坂テフナ】は、台所に立ち…その隣にいる若い女性を見上げる。
しかし、大人と子供の身長差も相まって、しっかりとその女性の顔を覚えてはいない…
「テフナちゃん、油も十分に温まったみたいだよ。」
その隣の女性が、幼いテフナを優しいトーンで促す。
「うん…分かった…」
短く返事をしたテフナは、木製の小さな踏み台を一段…また一段と上がり、準備が整った食材達を見る。
「これが、牛海老、鱒の白身、しし唐辛子、椎茸、蓮根だけど…どれから揚げてみる？」
隣の女性が一つ一つ指を指しながら説明する先には、小麦の衣を纏った食材が並んでいる。
「うわぁ…えっと…じゃあ、海老から揚げてみたい。」
食材達が無駄なく綺麗に衣を纏った様に短く感嘆をこぼしたテフナが、牛海老を指差す。
「ふっ、ふふ…テフナちゃんも牛海老からなんだ…」
唐突に微笑んだ女性に対して、首を傾げながらも衣を纏った食材を手に取り、電気七輪によって加熱されている鍋の金色の油に、恐る恐る入れるが…
「ひぃ！びっくりした…」
食材に含まれていた水気が跳ねた事に対して、テフナが僅かに驚きを見せる。
「ふっふふ…これも天丼ね。」
幼いテフナは、意味が分からずに再び首を傾げる。
「…様、こちらにいらしたのですか。本家からの大切なお客様なのですから…このような雑事は、私たち源坂家の使用人にお任せくださいませ。」
分家に当たる源坂家の和洋折衷の屋敷に仕える使用人が、テフナの隣に立つ若い女性に対して気遣う。
「私も使用人としての経験豊富なんだけどなぁ…まぁ、お言葉に甘えさせて頂きますね。」
近くのテフナにだけ聞こえる様に呟いた女性は、自身から見て分家に当たる源坂家の使用人に対して応じる。
その本家からの客人が、台所の出入り口の付近に差し掛かり、テフナの方に振り返った瞬間…
油が入った鍋から火が瞬く間に、台所の全体に広がり…テフナの周囲が赤く染まる。
「えっ…どうして急に…！？」
幼かった筈の声色が変わり、視点が高くなったことにテフナが気付く。
そして、周囲の景色が自宅の屋敷から、見慣れた木造校舎の昇降口に変わった事にも気付く。
「えっ…あなたは誰？」
背丈が伸びたテフナが、客人が立っていた方角を再び見ると…そこには、夕空の明かりが差し込む廊下に見慣れないセーラー服姿の眼鏡の少女が、代わりに佇んでいた。
次の瞬間、テフナの視界が赤く染まり切ったかと思いきや…暗転する。
ーーー
「はぁ…また、この夢？」
洋風の自室のベッドから起きながら、テフナがぼやく。
肩甲骨の辺りまで伸びる黒髪には、所々に寝癖が付いており跳ねている。
そして、ヘリンボーン柄の寄木張りの床の上を歩き…窓際に掛けている、袖部分に蝶の模様が刺繍された着物と袴へと着替え朝の支度をする。
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