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83話 力の使い方

実践稽古の後、スピカは壁によしかかり、隣で仰向けになりながら青空を眺めているアルシュに薄緑の瞳を向ける。


「全く、どうなってるの?」


スピカはやれやれと言わんばかりの表情でため息をつくのも無理はない。

アルシュは丸太を見るも無惨に破壊できるほどのポテンシャルを見せたにも関わらず、実践稽古ではにスピカに手も足も出せずに敗北した。



「あんなのを見せつけられたもんだからかなり本気を出したんだけど、調子狂うわホント」

「さっきので消耗が激しかったんだから仕方ないだろ?」

「もう、それじゃあ稽古にすらならないじゃない。アンタ、そんなのでネルブガルドに挑もうとしてたの?」

「....」


スピカと稽古を続けるまで、自分が体力を著しく消耗していた事にアルシュは気づかなかった。

やはり、まだまだ実力不足だ。

もし今日が決闘の日で、ネルブガルドと戦わされていたら命はなかっただろう。


「全く、もう少し冷静になってよね。その変な光がアンタの自信とか勝算に繋がってるんだろうけど、もう少し自分と向き合わなきゃ」

「向き合う。か」

「そうよ。例えば、自分の強みとか弱さの事。アンタは力不足なくせに自信過剰で頑固」

「それじゃあただの悪口だろ」

「そ、悪口よ。でも本当の話だし弱みでもある」


自信げに語るスピカの言葉に眉を顰めたアルシュではあったが、否定はできなかった。

これまで、相手の分析などせずに何度敵に飛びかかった事か。

一度マリカにも注意を受けた事があったが、聞く耳を持たなかった自分の傲慢さには呆れ果てるしかない。

仲間の援護があったからこそ命を拾っていたんだと、アルシュは今になって気付く。


「そうだな。まずはネルブガルドの分析から始める必要があるな。まぁ、明日名前が呼ばれなければだけど」

「大丈夫よ。タウフィクは名前の覚えている戦士を無闇に捨てようとはしないわ。だからまだ時間はある。だからもう少し考えてみることね。」


そう告げると、スピカはアルシュに背を向け、片手を上げて無言で挨拶をしながらその場を後にする。

僅かな時間でも残されているのであれば無駄にはできない。

ネルブガルドの戦闘パターンの把握。自分自身の向上、やれる事は全部やろうとアルシュは心に決める。





それからスピカの言う通り、アルシュがネブルガルドと戦わされる事はなかった。

だが時間は限られている。だからアルシュは必死に力のコントロールに励む。

決闘の日にはネルブガルドが戦うたびに、それを鉄格子に張り付きながら眺めた。

ネルブガルドはサイードの仇だ。そんな奴の姿を何度も見るのは嫌だったが、これも強くなるためだと思い、断腸の思いでその戦う姿を眺める。


全く恐ろしい敵だ。まず、防御面で優れているのは鎧だけではない。

極度に圧縮された魔力の前ではいかなる武器も鉄屑に等しい。

そして鈍重そうに見える図体の割には動きは俊敏。瞬きする間に、約50mから敵の間合いに接近できる。

矛を振るえば大抵の敵は5体満足では済まなくない。時には逃げる敵に矛を投げ、その凄まじい速度の乗った鉄柱にも似た巨大な獲物は敵の頭を両断する。

膂力も凄まじく、その巨体から繰り出される一撃は石畳をクッキーのように粉々にする。


防御、スピード、攻撃。ありとあらゆる面で他の追随を許さない、規格外の怪物。

ネルブガルドによって奪われて行く命を眺めながら、アルシュは自信を失いかける事もあった。

本当に勝てるのだろうか。否、スピカの言う通り、希望はまだある。


弱点だって見つけた。ネブガルドは慢心するあまり、数発の剣撃をその身に受けていた。最も、例えその剣撃に魔力が纏われたとしても、体どころから鎧にすら傷ひとつ付けることができていないのだが。


それでも、あの魔力と鎧の障壁を破壊する術を身につける事ができればもしかしたら


「これなら...!」



スピカと話してから、数日後の稽古の日、日差しが照りつける中で裏庭にて、アルシュは新技の実験を試そうと丸太の前に立つ。

いつも夜にやっているように、自身の脳裏に意識を傾け、生命本能を働きかける。


『力を出せ』


するとアルシュの体を琥珀色の眩い光が包み込み、炎のように揺らめく。


「おい、またかよ...!なんだよあの光は!魔力、なのか?」

「あのガキ、前にヴォルロフを倒したやつだぜ?」


周囲の戦士や衛兵たちは騒めき、木霊する。感知の出来ない魔力など聞いた事もない。だが、少年の体は光に包まれ、眩く輝いている。


「へぇ、どうやらその自信に満ちた表情からすると、ネルブガルドの弱点を掴んだみたいね」


誰もが動揺を隠せない中、獣族の少女、スピカだけが微笑みながら歩み寄る。


「なんの用だ?すまないが、今日は実践稽古はしないぞ」

「別に、実践稽古を誘うために話しかけたわけじゃないわよ。だいたい、衰弱したアンタと戦ってもつまらないだけだし」


その挑発を含む言葉に、アルシュは青筋を浮かべる。


「お前の希望に添えなくて悪かったな...!」

「別にいいのよ。強くなったんでしょ?見せてよ」


スピカは薄らと笑みを浮かべて、アルシュの成果を待ち侘びており、それは周囲の戦士たちも同じだった。


「おい、今から何が始まるんだ?」

「あのアルシュってガキがまた何かするみたいだぞ?」


周囲の戦士たちの視界は光を放つアルシュに釘付けだった。これから何が起こるのか。興味が湧き、期待で胸が膨らむ。


力のコントロールは以前より上達した。光の表出を維持していても気を失う事ははなくなった為、いつでも訓練ができる様になった事は大きい。だから次の段階へと進めるはずだ。

アルシュはゆっくりと空気を吸うと、体から発せられていた光が消失する。


「もうその光を消しちゃうの?」


一瞬、魔力とは異なる力を感知できないスピカの目にはアルシュが力を引っ込めたかのように見えていた。


「うっ...!」


直後、アルシュが持つ木剣の刀身の先端だけが眩く光り輝き、スピカが目を背けた。


「これが、次の段階、だ!」


力の一点集中は体力を著しく消耗し、この状態を数秒維持するだけでも体全体が悲鳴を上げている。だが、今日は何がなんでもこの技を試したい。


以前、スピカと戦ったフレッドの使った技を思い出す。奴は体中の魔力を手に集中して放とうとしていた。結果は体が耐えきれなくなって死んでしまったが、魔力とは別のこの力ならばあるいは通じるかもしれない。


「うおおおおおおお!」


アルシュは足を大股に開き、柄を自分の頭部よりも後ろに据え、輝く先端を的に向ける事で構えを取る。

それから刀身の先端に光を収束させる事で威力を向上させ、それを突きとして放つ。


「....っ!」

「な、なんだ!?」


その直後、突風が吹き荒れ、スピカの桃色の髪が後方に流れた。

砂埃が舞い、アルシュの姿が見えなくなる。

ただ、一条の光が横切った事は分かった。

それから風が治ると、顔を腕で隠していたスピカは大きく目を見開く。

周囲の戦士たちも、少年の放った一撃に開いた口が塞がらなかった。


「はは、あいつどんどん強くなっていきやがる」


グレンは笑みを浮かべてはいたものの、丸太に放たれた一撃に額からの汗が止まらじ、拳を握りしめる。


アルシュの木剣による突きは以前のように丸太を木屑にはせず、代わりに木剣の刀身部分が綺麗に突き刺さっている。


「す、すごい...同じ材質なのに...!普通、余程の練度でもない限り、魔力を纏ったって木剣で木の丸太を貫通するなんて芸当はできないわ...!」

「へっ、どんなもんだ。名付けて『竜爪』だ…!」

「何よそれ、アンタが竜族だから?少し安直じゃないの?」

「うるせえな、俺は結構気に入ってんだよ…」


アルシュは即興で名前をつけて見せるが、受けは悪いのをみて罰の悪そうな顔をする。


「お、おい貴様!また的を破壊したのか!」


衛兵の一人が新技を披露したアルシュとスピカの元へ衛兵が駆けつける。


「げっ、アンタが稽古の度に的を破壊するから衛兵が怒ってるじゃない!」

「すまない...ちょっと今は、それどころじゃないんだ」

「アルシュ?ど、どうしたの?」


スピカがアルシュの方へ目を走らせると、顔中から汗を流し、目を細めている。体を左右に揺らし、今にもバランスを失い崩れそうだ。


「ち、くしょう。これでも...加減したつもりだったん、だけどな」


アルシュは今にも途切れそうな声で悔しさを口にする。竜爪は体全体の光を収束して放つ。その消耗はこれまでの比ではなかった。

最早立っているのが精一杯だ。この場での気絶すれば、どんな罰が待っている事かと考えて意地でも意識を保とうとするが、徐々に体から力が抜けて行く。


「す、スピカ...衛兵の事は頼んだ、うまく...言っといて...く、れ」

「ちょっと、アルシュ!?」


意識を失ったアルシュの体はスピカにもたれ掛かり、動揺のあまりスピカは手に持っていた木剣を手放す。その体は思っていたよりも軽く、体は岩のように硬い。


「こんな所で寝るんじゃないわよ!起きてよ!」


スピカは自分の肩に顔を預けるアルシュの耳元に大声で叫ぶが、全く反応はない。

息はしているから死んでいる訳ではないのだろうが、このタイミングで人の苦労も知らずに意識を失うのだから全く都合が良い。


「おい、何を寝てるんだ!」


状況を理解できない看守は怒声を張り上げてアルシュを起こそうとしたが、まるで起きようとはしないのを確認してスピカを睨みつける。


「スピカ、どう言う事だ!お前が絡んでいるんだろ、説明しろ!」

「な、何でもないわよ...アルシュが新技を試してただけで、私はその...見てたってだけよ」

「つまり、お前はアルシュが問題を起こすのを分かっていながら傍観していたって事だな?許さん、お前にも責任をとって貰うぞ!」

「責任って何よ!だいたい、アンタだってこれまでずっと見てたんでしょ?こうなる前に止めようって思わなかったの?」

「つ、つまりなんだ?俺たちに刃向かおうと言うのか?タウフィク様の『所有物』の分際で!」


看守が言い分を全く聞き入れずに槍を構えた事にスピカは憤る。

助けを求めても手を差し伸べてくれないのに、都合の悪い時に限って、現れる。

しかし、所有物と言われても言い返せずに口籠る。スピカは今の現状を分かっているのだ。

自分が今タウフィクの手のひらの上で踊らされる傀儡に過ぎないと言うことを。


「もういい!まずはアルシュをよこせ!」

「...っ!」


スピカは看守が自分の肩で眠るアルシュを奪おうとする事に焦燥する。

このままではアルシュに罰が下され、最悪は命を奪われる。


「やめて!」


今のスピカに唯一できる事といえば衛兵に向けて声を上げる事くらいだ。

両手は崩れるアルシュを支えていた為地に木剣を下ろしている為、戦う事ができない。


「それくらいにしておけ」

「....!」


スピカは逡巡する。アルシュを抱えながら衛兵の背後の黒いボロマントを揺らめかせるマシールの存在に気付く。

衛兵はその声に気付きゆっくりと、後ろを振り返る。


「マシールさん?一体、なぜ...」

「アルシュを牢で寝かせておけ」

「しかし...こいつは鍛錬の時間に眠っているのですよ!?これは許されざる行い!何かしらの処分をしなければ示しが...!」

「構わん、許す」


不満げな表情を浮かべながらも衛兵はマシールの命令を受け入れ、スピカからアルシュを受け取ると、肩に少年の体を乗せて牢へと向かって行く。


「なんで?」


スピカはマシールに問う。この男が誰かを救うときは、決まって己にとっての都合のためだ。

だが、その行いがスピカには優しく感じられ、気味が悪かった。

そしてマシールはその期待を裏切らず、


「だって、ようやく手に入れた玩具がすぐに壊れたんじゃ、つまらないだろう?」


欺瞞を口にする事もなく悪辣な口実を口にしながら冷酷な笑みを浮かべる。

それから彼女に背を向けて跳躍すると、練兵場の屋根を越え、何事も無かったかのように姿を消した。







「こ、ここは...牢屋?俺は稽古の時に気を失って...!」


日が沈みかけた頃、アルシュは牢屋の藁の上で目を覚まして天井を見つめる。

竜爪による反動で意識を失った事までは分かったが、なぜ牢屋にいるのだろうか。


「スピカは?」


あの時、傍にはスピカがいた。「あとは頼んだ」と言ったっきり、アルシュは返答を待つ間もなく倒れ、その場に衛兵が駆け寄って来た。


「あいつ、俺のせいで」


今あの少女はどうなったのだろうか。以前見せられたロメオの首を思い出し、不安が心を支配する。気を失わずに済むなどと思っていた自分が腹立たしい。彼女の言う通りだ。自分の事をまるで理解していない。もう少し慎重な判断を取るべきだった。

そう後悔するものの、もはや後の木阿弥だ。


「クソッ!」


焦燥し、行き場を失った感情は拳に込められ、アルシュはそれを石の壁に叩きつけた。

力を込めていなかったため、甲高い音は鳴ったものの、壁は壊れる事がなくジンとした痛みが伝う。



「頼む、無事であってくれ...!」



それからアルシュはスピカの無事を願ったが、それでも不穏という名の心の翳りは晴れる事はない。

そんな中、牢屋の向こうから足音が近付いてくる事に気付く。

衛兵であれば足音と共に鎧の金具音が鳴るが、ブーツの足音のみが木霊し、やがてアルシュの前に現れる。


「何やら物音がしたから来てみれば、起きていたか」

「マシール...!」


黒いボロマントを纏うマシールが牢の前に姿を現したのを確認すると、アルシュは立ち上がり距離を取る。


「一体なんのようだ!スピカはどうした!?」

「やれやれ、助けてやったのに感謝の言葉もなく女の心配か。どうやら、余程スピカに惚れたようだな」

「...!」


アルシュは動揺を見せ、頬を薄らと赤くするのを見ると、マシールが肩をすくめる。


「まぁいい...スピカの事なら気にするな。あいつは特に罰も受けていない」

「信じられないな。お前の口にする事はでまかせばかりだ」


アルシュは安堵しかけるが、すぐに気持ちを切り替える。

マシールはアルシュの脱走の意欲を削ぐために虚偽を放つことで仲間を諦めさせようとした。それにスピカだってこの男に騙されて闘技場に連れて来られた。

そうやってこれまで嘘をつく事で自分の思い通りに人の命を弄んできたマシールを信じられるはずがない。


「そうだな、俺は嘘が好きだ。嘘はいい、時には誰かの運命を大きく捻じ曲げる力を持つ。それに何よりも、金になる」

「じゃあ、スピカが無事だって話は...」

「さあな。それは自分の目で確かめてみるんだな」


そう言うと、マシールの背後から衛兵が現れ、彼の手首に鎖を巻き付ける。

それから手を縛られたアルシュは押されるように牢から出され、広間へと向かった。


「それと、お前に一つアドバイスだ」


背中を押されるアルシュの去り際にマシールは助言を口にする。


「お前は力の出力がまるでなっていない。もっと抑えろ」


的確な助言ではあったが、それでもアルシュは決して気を許す事はない。


「余計なお世話だ...!悪魔め...!」

「早く歩け!」


そう言い残し、マシールに背中を向け、看守の怒声と共に練兵場の通路を押されながら、広間へと向かうのであった。


「スピカ...!」


広間に着いたアルシュはスピカが無事なのを見て胸を撫で下ろす。

良かった、スピカは無事だ。黙々と食事を進めているのを見ると、何かされた訳でもないらしい。

だが、その表情は不貞腐れているようで、アルシュの姿を見つけると、目を細めていた。


「そうか...そりゃそうだよな」


スピカが不機嫌そうなのも無理はない。意識を失うというリスクがあったにも関わらず、新技を試し、後始末を全て彼女に任せたのだ。

アルシュが鎖を解かれて、衛兵が広間を後にするのを見ると、スピカのいる席へと向かう。


「あの...スピカ」

「なによ」

「その、さっきはお前に全部なすり付ける事になってしまって済まなかった」


それからアルシュは後ろめたい気持ちでスピカにに謝罪した。するとスピカはため息を吐くとともに、


「そうね、最悪だったわ。衛兵には何を言っても通じないし、どれだけ揺すってもアンタは起きないし。マシールが現れなかったらどうなっていた事か」

「え?マシール?」


アルシュは胡乱な表情を浮かべ、自分の耳を疑った。スピカの言葉には違和感を抱き、思わず聞き返す。


「そうよ、マシール。あいつが来なかったら、今頃私は懲罰房行きよ。ま、アンタは死んでたかもしれないけどね」

「マシールが、いなかったら....?お前、あいつを恩人だって、言うのかよ」


アルシュにとって、この場で唯一信用できるスピカの言動がまるでマシールに感謝を抱くような口ぶりである事に、アルシュの心は大きく揺れ動いた。


「まぁ、あいつがいなかったら今より悪い状況だった事は確かよ」

「嘘だろ?お前、あいつが嫌いなんじゃないのか...」


スピカの言い分も分からなくもない。このプーティアでアルシュがこれまで生きて来れた要因の一つにはマシールの存在が大きい。

だが、それでもスピカの言葉が歯に挟まるように不快に感じる事には変わらない。


「ちょっと、何を考えているの?まさか、私があいつの味方をしていると思ってるの?」

「違うのか?」

「冗談じゃないわ。前に私の事言ったでしょ?私あいつに騙されてここに来たって」

「なんだよ。紛らわしいな」


アルシュはスピカへの疑念から解放されて深く息を吐くが、


「でも、助けられたのは事実!悔しいけど受け入れなさい。所詮、今の私達はあいつの掌で踊らされているに過ぎないの」

「....!」


避け難い現実を突きつけられたアルシュは、受け入れようとはせずに、何も言い返せないまま口籠る。


「そして、頼りたくもないマシールの力を借りるハメになったのはアンタのせいよ。言ったでしょ?自分と向き合いなさいって」


スピカの正論がその身に突き刺さる。反論する事ができない事が悔しくて仕方がなく、手元が震えた。


「すまない...気をつける」


今のアルシュが口にできる内容は謝罪だけだ。全ては自分が招いた責任。

同じくらいの歳の少女であるにも関わらず、その口ぶりから遥かに年上に見えてしまう自分が情けない。


「もういいわよ。何事もなかったんだから」


アルシュが凹んでいるように見えたのか、スピカはそれ以上の言及をやめて、食事を続けたが、



「それより、お前って岩魔術を使えるんだよな」



突然、自身の事に触れてきた動揺し、口からスープが吹き出そうになった。


「なんで?切り替え早すぎるわよ」

「いきなりだが、一応初めてお前の隣で食事をするんだ。だから話ができるうちにしときたくてな」

「だからってアンタ今落ち込んでたんじゃ...」

「それはそれ、これはこれだ」


スピカはアルシュの言葉に目を白黒させていたが、


「分かったわよ。岩魔術が使えるけど、何?」


と、深く息を吐き出しながらアルシュの要望に応える。


「なんで決闘であまり使おうとしないんだ?」

「うっ...!」


スピカは一気に本題に詰め寄るアルシュに困惑の色を見せたが観念して返答する。


「使いたくないからよ。昔の孤児院の管理人の事を思い出すから。だから、あれはなるべく最終手段の時に使うの。とは言っても、ろくに磨きもしてないから、雑に小石の飛ばすので精一杯だけどね」

「そうか。じゃあ奥の手ってやつだな」

「アンタのリスクてんこ盛りの技と一緒にしないで」



竜爪という訳の分からない技と同列にされた事にスピカは不満を漏らす。


「今は欠陥だらけだけど、ネルブガルドを倒す頃には克服するさ」


アルシュは新しく考案した技を揶揄された事に苛立つ。

とはいえ、正直今の竜爪は使い物にならない。第一、この一撃がネルブガルドに通用する確証はないし、戦いの最中に気を失うなど以ての外。奥の手であったとしても使いたくないのは事実だ。


この修行は特別で今日のようなリスクを要するし、困難を極める。

それでも奴と戦う事になる、その時までに完成させなければとアルシュは意気込む。



「アルシュ!」


しかし翌日、闘技場にて少年は指名を受ける事になる。


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