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52話 謎の魔物の正体

ニルバの求めに応じるように、フェリクスは袋からかつて、魔物の死体の頭を取り出す。切断面の血は黒く凝固しており、口から生えていた牙は折られ、顔の中央には一つ、閉じかかった瞼の奥に赤い瞳を覗かせていた。


「ふむふむなるほど、確かに、このような魔物はカヤールでも見た事がない」


将軍は興味深そうに顎の黒髭を触りながら魔物の亡骸を見つめている。フェリクスは経緯を話そうとしたが、危うくアルシュの名前を出しそうになる。将軍の前で仲間に竜族がいる事を知られれば彼に危険が生じると思い、伏せることにした。


「その魔物、見た事があるぞ」


誰もが見たことのない魔物の死体を気味悪そうに注視している中、その姿を既知している者がいた。


「ミカイル団長?もしかしてこの魔物を知っているのか?こんな魔物、アルバ村付近にも確認されていないはずが」


「ああ。昔、見た事がある。こいつは邪王が偵察用として使役していたものだ。魔術師であればこの魔物と視界を共有する事が可能だ」


邪王、かつて世界を恐怖に陥れたその名前を聞いたエリオス将軍は目の色を変える。エリンは大きく目を見開き、俯きながら胸を抑え、鼓動を高鳴らせる。


「つまりは邪王がこの件に関わっていると言いたいのか!?ふざけるな!!奴は五十年以上も前に死んだはずだ!」


「落ち着けよニルバ、俺は別に邪王が生きているって言いたい訳じゃない。だが、奴と同じ力を持った化け物が現れたって話だよ」


「なんだと...!?」


ニルバは落ち着くどころか取り乱し、背中を凍りつかせる。


「では問おうフェリクスよ。お前はこの魔物とジルドラス軍になんらかの関わりがあると思うか?」


「正直、関わりがあるとは言い切れません。確かに俺たちはあのような生き物を使役する竜族の兵士など見た事がありませんし、エレハイネ砦でも特に連携が見られたわけでもありません」


エレハイネ砦でもし魔物を使役する青年とジルドラス軍が協力していれば戦況をもっと有利に進める事ができ、夜明けの団は壊滅していたはずだ。だがそうならなかったとすると、両者の関わりは薄いとフェリクスの思考するが、エリンが対照的な意見を口にする。


「ですが、無いとも言い切れません。現に我々の拠点がその得体の知れない何かに襲われている事は事実です。ジルドラス軍にとっては戦況を優位に進めるにあたってこれ程の好機はないかと思われます」


もし、偵察用の魔物がジルドラス軍によって使役されていたとしたらと考えれば関連性は全く無いとは言えない。そして、もし奴らが拠点の位置を把握し、国境を侵攻するルートを定める事が可能だとすると、敵が大軍を率いて侵攻してくる事も考えられる。


「つまり、近いうちに竜族が大隊で侵攻する可能性もあると言うことか」


「はい、恐らくは」


エリンの返答に、エリオス将軍はため息をつき、椅子の背もたれに体重を預けて、厳かな表情を緩める。


「やれやれ、この俺とした事が...奴らは小隊で攻めてくるとばかり思っていたが、まさかそのような危険すら見過ごそうとしていたのか。だが、ここに来た時点で運は残されていたようだ」


エリンの憶測が正しいとエリオス将軍は確信していた。フェリクスにとっては自身の意見を遮られた事が癪ではあったが、彼女の真実味のある物言いを受け入れるしかなく、後頭部の髪をボリボリとかき乱した。


「敵が大軍を率いて攻めてくる可能性があるのは分かった。だがこちらとて拠点が半壊し、再建に精一杯だと言うのに、一体どのように貢献しろと言うのだ?」


アルバ村は数日前に敵襲に遭い、壊滅こそは免れたものの、今はとても兵を上げられる状況ではない。ニルバはエリンの意見をなんとか飲み込みつつも、今後の対応に頭を悩ませる。


「そうだな。とりあえず歩兵師団はこれから復興するまでは引き続き、傭兵師団と行動を共にするように。エリン団長、それで良いな?」


エリンは「はい」と、その申し出を迷わずに受け入れたが、ニルバは納得していない。


「エリオス将軍、我々は歩兵師団、王への忠誠のために剣を振るって来たのですぞ?それなのになぜこのような金銭目的でかき集められた連中にいつまでも頼らなければならないのですか?」


ニンバは夜明けの団を見下し、自身の尊厳を守るために、将軍に不満を漏らす。夜明けの団の団長と、フェリクスにとってニルバの失言は心に翳りを残した。彼らは居場所を奪われ、戦う道を選んだからこそ傭兵師団に入ったのにも関わらず、ニンバは彼らの意思を金銭目的と決めつけて片付けようとしたのだ。それはつまりマリカやアルシュへの冒涜とも捉えられる。


「なんて事を...っ!」


エリンが顔に憤りを浮かべながら、将軍よりも早く口を開こうとするが、それを遮るようにミカイルが頭を下げて失言を訂正する。


「悪かった。許してくれ。現に歩兵師団より夜明けの団の実力が優っている事は自明の理。ここはその厚意を受け入れよう」


「団長、何を...?....っ!?」


ニンバは眉間に皺を寄せ、ミカイルに苦言しようとしたが、彼から放たれた激情の圧がその意思を殺す。こうして、夜明けの団と歩兵師団は事実上の同盟を結ぶ事となる。そして、会議によって懸念されていた脅威が迫る事を空に立ち込めた暗雲が知らせようとしているようだった。


エリオス将軍は最後に会議の締めとして一言を付け加える。


「これからは我々が一丸となり、この脅威に立ち向かうことが肝要だ。敵の動向を監視しつつ、次の襲撃に備えよう。皆、気を引き締めてくれ」


会議室の空気は緊張感に包まれ、将軍の言葉が参加者たちの胸に深く響いた。これからの戦いに向けて、彼らは覚悟を決める。


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