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22話 実力差

小さな少年と少女が口喧嘩をしていたと言う情報を村人から聞いたエリンは、レイクモア村をクリーム色の長い髪を靡かせて慌ただしく駆け抜ける。


「話し合いが終わって戻って来てみれば...!不安だったけど、やっぱりあの二人の相性は悪い...!」


エリンはマリカにの案内をさせた事を後悔していた。彼女あまり人付き合いは得意ではなかったが、アルシュと出会うことで変化の兆しが見られるのではないかと思っていた結果がこの有様だ。


村中のどこを探しても二人は見つからない。しかし、思い当たる場所が一箇所だけあった。

エリンは慌ててマリカを止めるために稽古場へ向かったが時既に遅く、アルシュが腹部の溝を押さえて横たわり、丸くなっている。それを見てマリカは愛嬌のある笑みで見下していた。

エリンは状況を一瞬で飲み込み、手を顔に当て、頭を抱える。


「マリカ、いくらアルシュが気に入らないからって、実践や稽古意外での武力行使はダメだって言ったでしょ?」

「エリン、あなたの言い分も分かるけれど、これは稽古よ。私はアルシュの根性が捻じ曲がっていたから叩き直してあげたのよ」


マリカは反省する素振りを見せるどころか笑みを絶やさず、屁理屈を捏ねて見せた。

何を言っても聞こうとしない彼女に大きくため息をついたエリンは、横たわるアルシュ歩み寄り、表情に懸念を浮かべて手を差し伸べる。


「大丈夫?立てる?」

「当たりまえ、だろ!」


アルシュ彼女の手を振り払い、木刀を地面に突き立てて、ゆっくりと立ち上がる。そして眉を落としてマリカに鋭い視線で闘志が消えていない事を伝える。


「勝負はまだ、終わってないぞ...!」

「あら、まだやるの?」


マリカはわざとらしく、掌を広げて口に当てて、驚いた振りをして見せることでアルシュの火を煽る。


アルシュが木刀を構えると同時にマリカも木刀を構えた。エリンは「やれやれ」と言って仲裁を諦めて翡翠の目を細め、二人の気が済むまで決闘を見守る事にした。






そして、決闘が始まってから時間が経過し、拠点の空に赤みが差し込んできた頃、アルシュは仰向けの大の字になって悔し気に握り拳を作り、甲を地面に叩きつけていた。


「クソッ!なんでだ!縦に振っても横に振っても全く当たらねえ!」

「ハァッ、ハァッ、これで私の30勝...諦めなさいよ。あなたじゃ私に、絶対に勝てないんだから...」


アルシュとの実力差には大きな開きがあったが、それでも長時間を通して決闘を続けたマリカの体力は明らかに擦り減っていた。


日が傾くのを見て、エリンは二人の歪み合いを終わらせようと立ち上がり、前に出る。


「さあ二人とも、これで気が済んだ?もうすぐ夜になるから帰ろ?」

「まだだ...俺はまだ負けてねえ!」


アルシュの火はまだ消えてはいない。彼は木刀を杖のように地面に突き立てて何とか立ち上がり、構える。

そんな彼を凝視し、マリカは呆れた表情でアルシュに負けを認めさせる。


「いい加減に、もう諦めなさいよ!勝てないって分かってるのにそんなに泥だらけになって、バカじゃないの!?」

「勝てないんじゃない...お前に勝てなきゃ、俺はこれから先、生きて行けないんだ!」

「何それ...っ!」


マリカは逡巡する。理解が及ばない。なぜ彼が必死になって勝てないはず戦いに挑み続けるのか。

勝てないのなら逃げればいいのに、他に勝てる方法を探せばいい。

それなのに、真正面から挑み続ける負けず嫌いのアルシュを見て、本当にガキだと思った。


「君の意思が強いのはよく分かったわ。その点で言えば、この勝負はアルシュの勝ちだね」

「ちょっとエリン!アルシュの肩を持つ気?」


事情を知るエリンは木刀を構えるアルシュの肩を後ろから持って、アルシュの闘志を称賛する。

それを見たマリカは妬ましそうな表情で彼女の言動を注視する。


「でもね。マリカはこう見えて妖精族だし、年も上。魔力量も君よりずっと上よ?それにずっと前からここで毎日剣の稽古をやってた。君は一週間前にここにきたばかりなのに、努力を積み重ねて来た彼女に勝てると思う?」

「く.....っ!」


エリンのぐうの根も出ない正論にアルシュは歯噛みする。

それとマリカの年齢がハッタリでは無かった事に唖然することで、魔が抜けたように闘志の火は徐々に弱まり消えていった。

そして地面にへたり込み、片膝をついた。

それを見たマリカは「フフン」と鼻息を漏らし、誇らしげな笑みを作って見せる。


悔しかったが認めるしかない。今はマリカの方が強い。しかし、アルシュの橙の瞳は死んではいない。勝てないのなら勝てるようになればいい。


「じゃあエリン、俺も剣の稽古するから教えてくれよ。あんたエリンに剣を教えてたってことは強いんだろ?」


脱力したアルシュはエリンに稽古をつけてもらうように頼み込むが、同じ事を頼み込んでも誰にも受け入れてもらえなかった反芻を考えると、望み薄だった。


「ふん!一体何を言だすかと思えば...。稽古をつけてくれるって本気で思ってるのかしら。エリンは忙しいのよ?ねえエリ..」

「もちろんよアルシュ」

「え?」


エリンは頬を緩めてあっさりとアルシュの願いを聞き入れる。

マリカはキョトンとした顔で自分の耳を疑う。しかし、驚いたのはアルシュも同じだった。


「いい...のか?」

「もちろんよ。そもそも君を連れて来たのは私なんだから、責任を放り投げてちゃ話が違うわ」


しかしマリカは納得がいかず、開いた口を無理やり閉じて、早口で彼女へ疑問を投げかける。


「な、なんでよ?エリンって忙しいんじゃないの?」

「ハハハッそこは大丈夫よ。確かに今日みたいに忙しい日もあるけど、毎日じゃない。それにもし忙しかったら、今日みたいに君がアルシュの稽古をつけてやればいい。でしょ?」


エリンは最初にマリカを痛めつけていた時に使った言い訳を聞き逃さなかった。


「なっ....!?」


痛いところを突かれたマリカは師であるエリンに対して「絶対に嫌」とは言い切れず、シュンと肩を落として彼女の言葉を受け入れた。


「じゃあ、俺も強くなれるのか?」


「君が諦めなければね。ちなみに、マリカは私の一番弟子という事になっているの。だから君は二番弟子ね。先輩の我儘には苦労すると思うけどうまく頼むわ。気の合わない者同士との関わりに慣れていくのも稽古の一環だと思って、ね」


エリンはウインクでアルシュの同意を促したが、その意地悪な要望にアルシュは「げぇっ」と顔を顰めた。

マリカは生意気なアルシュに先輩面ができると知って明るく微笑んで見せた。


「まぁ私は一番弟子だし、あなたがどれだけ頑張っても私には敵わないと思うけど」


マリカは相変わらず憎らしい言葉を次から次へと量産するが、それに対してアルシュの体に力が入り、闘志を漲らせ、不敵な笑みを浮かべて見せる。


「やってみなけりゃ分からないと思うぞ?まぁ、今のうちにせいぜい見下ろしてろ。そのうち俺がお前より強くなって、空高く見下ろしながらアゴで使ってやるよ!」


それに応じるようにマリカも鼻息を漏らし、強気な笑みを浮かべながらアルシュを挑発する。


「ふん、できるものならやってみなさい!」


こうして、エリンによるアルシュの稽古が始まった。

こうしてぶつかり合い、やる気を漲らせる二人を見て、「案外悪くないかも」と思うエリンであった。









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