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21話 気の合わない仲間


アルシュはマリカに拠点内を案内してもらう事になったが、さっきの今だけに非常に気まずい雰囲気が漂う。


彼女は黙々とアルシュの前を進み、木造の建物が並ぶ拠点内の大通りを抜けていく。アルシュは辺りを見渡し、自分の故郷であるナフィランドよりも広いと感じたが、マリカからの説明等は一切ない。

そして、その足取りから伝わる地響きで彼女の機嫌が最悪である事が伝わってくる。


しかし、自分を見下したような悪辣な態度が気に食わないアルシュはマリカに負けてたまるかと、意地を張って、彼女の前を歩こうと足を早める。


「ちょっと」


マリカに青筋が浮かぶ。自身の案内に不服を顔に浮かべる生意気なアルシュに憤りが込み上げ、彼女も足の動きを早めた。


そして、村の案内が競歩へ変わる。どちらも互いが前に出る事を許さない。その状況に嫌気が差したマリカは立ち止まり、先に口を開いた。


「なんなの?案内してあげるって言うんだから私の後ろを歩きなさい」

「お前の後ろを歩くなんてゴメンだね!第一さっきから一言も話さないで何が案内だ!」

「私の案内にケチをつける気?」

「ああそうだよ、お前の案内は下手っぴだ!」


大通りの中心で再び歪み合いが始まる。が、エリンがいない今、二人を止められる者はいない。

そして遂に、マリカは悪辣な笑みでアルシュの心に怒りの炎を灯す。


「全く、竜族ってトンチンカンなのが多いのね、あなたのパパとママは感謝って言葉も教えてくれなかったのかしら?」

「な、なんだって?」


言ってはいけない言葉がマリカの口から躊躇いなく放たれて、アルシュは彼女の挑発に唖然すると共に、怒りが強く燃え上がる。


「父さんがどうしたって?もう一回言ってみろ!」


別にジルドラスの国民を侮辱される事は大したダメージにはならなかったが、それがまるで父を侮辱しているように感じ、我慢がならなかった。

マリカは、アルシュの怒る姿に一瞬たじろいだ風にも見えたが、追撃を続けた。


「あぁら、だってそうじゃない?私だってあなたに嫌々付き合ってあげてるのに、感謝の言葉の一つもないなんて、これだからガキって嫌いなのよねぇ」


マリカは口車に乗ってきた少年を見て「フフフ」と冷笑する。

分かっている。本来であれば案内をしてもらえるなら感謝の言葉を伝えるのが普通だ。

だが、アルシュは禄に案内もせずただめくじらを立てているだけのこの少女にそんな気は全く起きない。


「口元にパン屑つけて涼しい顔してたお前にだけは言われたくねえよ!」


それを聞いたマリカは再度顔を赤く染め、眉間を沈み込ませて歯を食いしばる。


「私があなたより子どもだって言うの?私は今年で八十よ!」


一瞬、アルシュの脳裏に空白が過ぎる。八十といえば皺が目立ち、腰の曲がった老婆を彷彿とする。

しかし、どう見てもマリカは10代くらいの少女だ。その肌には皺どころか吹き出物すらない、つるりとしたシルクのような肌。

まだ幼い少年と競歩で競っても腰を痛めるどころか汗一つかかない体力。アルシュは彼女の発言を飲み込めない。


「で、出まかせ言ってんじゃねえ!どう見たって俺より下だろ!」

「私は妖精族よ?アンタなんかと一緒にしないでよ」

「だいたい、八十って言うんならそれらしくしたらどうなんだよ。...全く、大人ぶるのもいい加減にしろよな。折角ドレス姿で着飾ってかわいい顔してるのに、次から次へと湧き出る悪口で全てが台無しなんだよ!」


こんな顔立ちの整った少女が明るく愛嬌を振りまいて見せたらどんなに可愛らしい事か。

暴言を吐きまくるこの愛らしいはずの少女に至っては憎らしい事この上ない。


マリカの顔はさらに紅潮する。そして体を強張らせてエルフ族特有の尖った耳をピクピクさせ、恥じらいと共に怒りの沸点が頂点に達する。

そして青い双眸を光らせてアルシュを睨みつけ、人差し指を向ける。


「もう!あったま来た!私と決闘よ!」

「へ?...今なんて?」


アルシュは空耳か気のせいだと思い、聞き返す。

第一、決闘などと物騒な言葉を、こんな幼気な少女の口から出るはずがない。


「決闘するって言ってるのよ!もう、絶対に許さないんだから!私がガキじゃないってところ、見せてあげるわ!」


しかし、聞き間違えではない。一度も人に手をあげた事もなさそうな少女は本気でアルシュとの戦いを望んでいる。

アルシュはたじろいぎ、マリカに両手を突き出しながら止めさせようとする。


「ちょ、ちょっと待てよ!決闘ったってお前戦えるのかよ?」

「バカにするのもいい加減にして!少なくともあなたよりは強いわよ!」


マリカは「来て!」と言って、アルシュの手を引っ張って案内する。が、そこは拠点の外れにある丘の上だった。草原に覆われる原っぱの中、丘の上だけ草が全て刈り取られ、土の地面が剥き出しになっている。


「ここは?」

「は?見れば分かるでしょ?私の稽古場よ、そこに木刀があるから拾いなさい」


そう言ってマリカは自分の斜め後ろにあった岩に立てかけてある木刀ニ本のうち、一本を手にとって見せる。アルシュも彼女の後ろの木刀を取ると、マリカは構え出した。


「規定位置について。円の中心を挟むようにするの」


規定位置とはなんだろうか。とりあえずアルシュはマリカの眼前に立つ。


「それって...ここ?」

「もう、それじゃ近すぎ、同じ距離を保つように、もっと離れるの!」


マリカは「全く」とため息を吐きながら指示を出す。

アルシュはマリカが言われるがままに少しだけ離れ、「そこ!」と言った場所で立ち止まる。そして彼女と同じように構える。


「本当にいいのか?俺は機嫌が悪いから少しだけ痛い目を見るかもしれないぜ?」


勝てる自信はあった。むしろ心が痛むくらいに。アルシュは以前に大人の敵と殺し合いをして生き抜いた事で以前よりも強くなったと自負していたため、こんな少女に負けるはずがないと自分に言い聞かせる。


「それはこっちのセリフよ」


しかし、彼女は余裕の面持ちでアルシュに冷たい視線を送る。


「あいにく今は審判がいないから、一緒に合図を出しましょう?イチ、ニ、ノ、サンってね」


いちいち指示を出してくる事に腹を立てるアルシュだが渋々彼女の提案に乗る。

そして木刀の柄を握る拳に力が入る。


「負けても恨みっ子なしだからな?じゃあ行くぞ」


『イチ、ニノ....!』


ここでアルシュは「サン!」と言わずに速攻で不意にマリカの胴体を狙って突進。

罪悪感はなかった。相手は少女。なるべく体を傷つけないようにしようと、加減しながら木刀を左に振ろうと彼女の間合いを詰めようとした瞬間。


「カッ、ハッ!?」

「信じられないわ。いくら勝ちたいからってズルはよくないと思うのだけど」


間合いを詰めようと踏み込んだアルシュの腹部に木刀の柄の先端が勢いよく食い込む。

横たわり、悶えるアルシュを見てマリカは喜びに満ちた愛らしい笑みを浮かべて見せた。


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