エピローグ
得体の知れない咆哮を聞いた周囲のカヤール兵は、声のする方向へ剣や槍を向け、動揺を見せながら身構える。
「なんだ?」
「魔物か!?」
カヤールの騎馬兵十人が手綱を引いて全速力で接近してくる。
アルシュは彼らから逃げるために残った力を振り絞り、その場から離れる。
しかし、僅かに残っていた体力はすぐに切れ、体中の筋肉が痛みだす。
「ハァ...ッ!」
イシュアンとの戦いによる反動だろうか。もはや走ることすらままならないアルシュは、やがてカヤールの兵に囲まれた。
そして彼らを兵士と認識していいのか躊躇いを見せる。なぜなら話彼らの装備にはバラツキがあるからだ。
鎖帷子の上に鉄板の胸当てを装着しているものや、先程のイシュアンのように体を鎧で覆ったもの、レザーアーマーを着用しているものなど、その違った身なりをしている為、野党のようにも見える。
「こいつ...まだガキだぞ!?本当に殺すのか!?」
「仕方ないさ。こいつがいた付近に、イシュアンの死体があった。もしこのガキがあいつを殺したのだとしたら、放っておくわけには行かないだろ」
「こんなガキがイシュアンを!?冗談も程々にしろ!」
カヤール兵たちはどうやら揉めているようだったが、どうやらアルシュに死んで欲しいらしい。
しかし、彼には武器がない。
先程の重すぎる剣は逃げるためにその場に置いてきた。
「だったらお前ら全員ぶっ飛ばしてやる」
複数の兵士に命を狙われたと感じた少年は黄色い眼光で敵を威嚇し、拳を前方に突き出して構える。
「俺は絶対に死なない!この戦場を生き抜いてあのヨルムを、殺すまで...は...!」
そしてアルシュは拳を振り上げ、敵兵に立ち向かおうとした瞬間、突然視界が明滅する。
「あ...れ...?」
体がフラつき、力が入らない。そして立つ事もままならなくなり、アルシュの意識は消えた。
無情のジルドラス編 -完-