【第八話】 街にて 追う者
「それでは、ダズさんは五つほど国をまたいだギルドに所属していて、アギトを追ってここまで来たということですね」
「そうだ」
終りの街の簡素な検問所にて、事情聴取を受けているダズ。
「そしてクリストフさんも同じように四つほど、こちらは北側に四つほどいったところの国のギルド所属、と」
そこにいるのはダズやクリストフだけではない。幾人もの人間が簡易的に設置されている長椅子で待機し、順に聞き取り調査が行われていた。
終りの街というのはもちろん通称で、正式な名前は別にある。この街を越えると言葉も礼儀作法も全く異なる文化圏が広がっているために、こちら側の住人たちはここを終りの街とあだ名するのだ。
赤茶けた土のむき出しな路面、そこに整然と立ち並ぶ木造の二階建ての住居。ところどころに冒険者ギルドの施設や簡易的な役所、そして多少の食事処と娯楽施設がある。
この街は国の中心から離れた場所ではあるが、そこまで寂れてもいない。産業も名所も特にないが、故に安い家賃であることを目当てに、訳ありの冒険者や金無しの新人冒険者が群がる。そしてその者たちを対象に商いをしようと、商売人があつまる。
そうやってできた、賑やかなのかそうでないのか曖昧な街。
その街の治安を維持する機関であり、関所的な役割も兼ねている施設である検問所にて、今回の騒動に関係のあるものたちが集められていたのだ。
「えっと、あのダズさん、ですよね?」
中でも大きな騒ぎを起こしたダズとクリストフは早めに事情聴取を受け、そして精査した後また聞き取りがあるとかで、検問所にて待機をしていた。
「おお。そうです。そちらは確かエリトン卿でしたかな」
「はい。クリストフでいいです。それに敬語は必要ありません。ところで、そちらも手ひどくやられたみたいですね。噂で聞いています」
「気遣い感謝する、クリストフ。お互い悲惨な目にあったものだな。……あいつ、チームのギルド保証金にまで手を出して。金も根こそぎ持っていかれたから返済が滞るだろう。おかげでギルドからの諸々の支援が一時的に停止された。そのせいで年単位で動けなくてな」
「ギルド保証金ですか。チームの腕輪に代表者として名義登録されてないと持ち出せないはずでは? 何か細工をされたのですか?」
クリストフは驚き眉を上げる。
「いや。名義登録はしていた。……次期チームリーダーにと考えていたんだよ。入れ込みすぎていたんだろうな。そちらは大丈夫だったのか?」
「大丈夫じゃありませんよ。うちも持っていかれました。ギルド保証金。共同でリーダーになろうと思って名義登録してたんです。しかも、チームメンバーのギルドカードまで売り払われました」
「ギルドカード? それこそ、そうそう持ち出せるものではないだろうに。窃盗か?」
「いや、言葉巧みにメンバーそれぞれから受け取っていたみたいです」
「信頼して、心を開かせて、深いところまで入り込んできてから根こそぎもっていく。質が悪いな」
言いながらも二人してしばし黙り込む。同じ思いが頭をよぎる。自分たちは確かに心をひらいていたのだと。
再び調査員に呼び出されたダズ。
「ダズさん。あなたはこの街にまで名前が轟く人格者だ。そんなあなたまでも、なぜアギトに騙されたのですか?」
なぜ騙されたのか。それはここに集まるものの多くがずっと自身に問い続けていた問題だった。
調査員はそれぞれに理由を聞いた。その中で、言い方は違えど、多くの人が共通して挙げたもの。
『あいつは、なんと言えばいいか……。陳腐な言い方だが、全身で愛を求めているように見えたんだ。救ってあげたくなるんだよ』