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【第二話】 街にて トリプルブッキング

「くそ。しくじった」


俺は腹の傷をかばいながら、身を隠すために山奥に転移の魔法を使って移動していた。


魔法の技術には自信があったが、今回は今までやりたい放題やってきたツケが回ってきたんだろう。


そんなとき、この聖獣わんこに出会ったんだ。






聖獣わんこと出会うこと数時間前。


最初に攻撃を仕掛けてきたのは、冒険者のダズ。街中の大通りで俺は()()()()()


ダズは背が高くガタイのいい男で、たてがみのような髪型をしている。


武闘派のように見えるが頭脳派で、いつも冷静に状況を見極め、窮地もこの男のおかげで切り抜けたことが何度もある。


仲間を決して見捨てず、故に同業者からの信頼が厚い。夢は世界各地にある冒険者ギルドの統一。


なぜこんなにもダズについて詳しいのかって? それは、かつて俺がダズと同じチームにいたから。


俺もご多分に漏れずダズの世話になった。慣れない冒険者の仕事をゼロから教えてもらったし、怪我や病気を治してもらったり、人生相談にも乗ってもらった。


本当にいいやつだった。()()()()()()()()()


『アギト、お前は最低だ。救いようのないことをしやがって。そして見事に騙された俺自身にも呆れる』


街で再会したときにそんなことを言われて、だいぶ傷ついたものだ。


『チームの有り金全部掻っ攫って逃げただけなのに、ひどい言われようだな』


そう言い返したときのダズの歪んだ顔は見ものだった。思わず声に出して笑ったとき、()()()()衝撃波を受けた。





そう。()()()攻撃を仕掛けてきたのはダズ。次に攻撃を仕掛けたのはクリストフ。こいつも冒険者。風魔法を得意としている。


クリストフはダズと違って線が細く、お上品なお貴族様出身の冒険者だ。金に物を言わせて武器と防具を揃え、同じく金に物を言わせて丁寧に技術を学んでいた。


お貴族出身、ボンボンの僕ちゃんとバカにしてはいけない。技術は本物だ。道具も一級品。つまり、『やはり育ちは大切なのだな』と思わせるような実力のある冒険者だった。


金持ちは性格が悪い……のかと思いきや、クリストフはとても性格が良かった。俺の傍若無人の振る舞いも受け止め、辛抱強く俺の荒唐無稽の話を聞いてくれた。


俺の性格の悪さは育ちが悪いからかと納得させてくれる存在だ。


『あれ、クリス。お前もここで約束だったっけ?』


クリストフが放つ風の衝撃波を軽くいなしつつすっとぼけてみたが、なんのことはない。ここは通称『終りの街』。ここから先は文化圏が異なるから移動が難しくなる。ダズもクリストフも、俺を完全に逃がす前にこの街で張っていたわけだ。


『アギト。貴様どこまでも最低なやつだな。人間のクズだ。お前が売り払ったあのペンダント、どれだけ俺が大切にしていたか何度も話したはずだ!』


クリストフはとても怒っていた。


『お綺麗な顔が歪んで、もったいない』


そう返すと、さらに顔が歪んだ。ちなみにペンダントは故郷の病弱な幼馴染が命と引換えに渡してくれた一品らしい。


『ちゃんと高値がついたぞ』


その言葉で激昂したクリストフは、難しいはずの俊足移動魔法を使って加速し、切りかかってきた。一緒にいた頃よりもだいぶ技術が上がったようだ。だが熱くなりやすいのはこいつの悪い癖。


そして怒ると攻撃が直線的になる。本人はフェイントも織り交ぜているつもりのようだが、そのフェイントですら直線的だ。


何度も一緒に死線を越えてきたからわかる。なにせ、こいつもかつて俺がチームを組んでいた仲間だから。ダズのチームの三個ほどあとのチームかな?


『同じ釜の飯を食った仲間はいいな。わかりやすくって』






ーーダズやクリストフと出会う前も、別れたあとも、俺は数え切れないほどの犯罪に手を染めて生きてきた。


基本的にいつも人を騙して生活している。


最近の俺の手口の主流は、冒険者詐欺。適当なチームに入り、信用されるまでは大人しく、従順に過ごす。


やがてある程度の信頼を得た段階で、チーム共有の所持金をごっそり奪う。


ソウルソードと呼ばれる、馴染の武器も売り払うのがコツだ。手に馴染んだ武器は冒険者にとって命の次に大切なもの。


俺が売った店から転売される前に必死で買い戻そうとするから、俺のことなんか追っていられない。買い戻す金もないから金策している間にさらに猶予ができるわけだ。


当然、冒険者詐欺は目立つし恨みも買うので、その金で即座に遠方に逃げてしばらくは隠遁生活をする。ほとぼりが冷めた頃、また活動を開始する。その繰り返し。


ダズもクリストフもだいぶ前に別れたわけだが、盗難の痛手から回復したあとも俺を恨んで追って来ていたということだ。


『愛を感じるな』


全面からクリストフの風斬攻撃、後方からダズの炎柱攻撃を放たれ、そう呟いたとき。


『私からの愛も感じて』


そんな囁きが地面から聞こえた。


地面から()()()()()細すぎる女は、ボサボサの髪の隙間から歪んだ微笑を見せつつ、俺の腹をシンプルな果物ナイフで貫いた。


ーー最近の俺の主流は冒険者詐欺。でもその前は恋愛詐欺。この女は、恋愛詐欺で釣ったやつ。確か名前はメディスだったかな。


殺気も魔力も全く感じなかったから、三番目のこいつの攻撃には気がつけなかった。腹を深くえぐられ、久しく感じたことのない痛みに頭がクラリとする。


『私と一緒にいきましょう』


唐突に現れた女に驚きつつも攻撃を続行するダズとクリストフ、そして俺を掴んでこようとするメディスの節くれだった手をよけ、無理矢理発動させた転移魔法で人のいない場所に飛んだ。





安全な場所へと念じて飛んだ先は、山奥の森の中だった。足場は悪かったが、人はいなさそうなのでひとまず安心だ。


「くそ。しくじった」


づくりといたむ腹に手をやると、まだ出血が止まっていない。血と魔力を失いすぎたのか、意識が朦朧としてきた。


痛む腹を抱えて一歩踏み出したとき、運悪く足場の岩を崩してしまったらしく、斜面を滑り落ちる。


着地したとき、妙に柔らかいなと思った。痛みに霞む視界に映るのは銀の毛並み。


安全な場所に逃げたはずなのに先客がいる。その状況に慌てなきゃいけないはずなのに、何故かおれはその柔らかさと温もりに安堵感を覚え、そのまま気を失った。

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