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クズなのに、聖獣様になつかれました!  作者: 成若小意


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【第十話】 山奥にて わんこと平穏なくらし 【本編完結】

 それから俺は心を入れ替えた……まではいかないが、わんこのために村の人間に受け入れてもらえるように動くことにした。


 別にわんこは今まで通り山で暮せばいいのだろうが、人懐こい性格なこいつは人といたほうが楽しいだろう。それにこの村は穏やかだからこいつには似合う。俺には生ぬるすぎて微妙だが。


 そう思いたち、勝手に壊した村を、今度は勝手に直し始める。当然村人たちは最大限に俺を警戒する。


 しかし、人間とは不思議なもので、予想外の行動ばかりする人間に対して判断基準がブレるのか、俺の行動を受けてれてくれる者が出てくる。


 町中で詐欺をやっていたときもそうだ。大げさに胡散臭い行動をする俺を相手にして、勝手に理解してこようとする人間が結構な割合でいた。


 ここでもそうだ。やる気なく片付けする俺の近くに村人が寄ってくる。それを横目にほくそ笑む。





 当然最初は辛辣だ。


「……何をしているんだ。何をしたいんだ、お前は」


「いや、別に……。なんか急に申し訳なくなって」


「片付けはいい。出ていってくれ」


「……まあ、ここが片付いたら行くよ」


 そんな会話をすると、怪訝な表情をする。しかしながら、実際崩れた家を俺やわんこが軽々と直すのをみて渋々その行動を受け入れる。そもそも俺たちを追い出すような武力もないから、受け入れるしかないのだが。


「ちょっとそっちの端っこ持って」


 そうやって俺が普通に話しかけるものだから、相手もとっさで普通に「おう」と受け答える。徐々に近寄る村人も増え、相手も普通に話し始めるのだ。


「……なんでこんなことをしたんだ?」


「なんかむしゃくしゃして」


「ふっ。思春期か」


 思わず笑ってしまったのをごまかすように、隣に来た男は早口で吐き捨てる。


「おにいちゃん。これもあげる」


 先程の女の子も近寄ってくる。何やら赤い木の実を差し出す。遅れてきた母親は、表情を硬くしながらも頭を下げる。女の子の兄は少し目を輝かせながらお礼を言って行った。


「ワンちゃん撫でてもいいですか!」


 大人は未だ警戒するも、子供たちは早々に打ち解け、そんなことを言ってきたりする。


「悪いことしちゃだめなんだからね!」


 子どもたちはまるで俺をいたずらをしたあとの子どものように扱った。俺はそもそも突然村を襲撃した、賊だ。それなのに今はまるで災害後の手伝いをしている善良な若者のように振る舞っているのだから、不自然極まりない状況なわけだ。だが、今では大人ですら半ば受け入れている状況なのだから、チョロすぎて乾いた笑みがこぼれる。


 今まで幾人もの人々を騙してきた。小さな手法はいくつかあるが、俺が得意なのは空気づくりだ。警戒心の強い商売人ですら騙せたのだから、こんな小さな村では容易く俺の空気にのまれてくれた。


 わんこ自身は無邪気に駆け回っているので、子どもたちも大はしゃぎ。


 あらかた修繕し、疲れたところで女の子の母親が食事を提供してくれたので、ありがたくいただく。


「あんた、魔物憑きのままなのかい?」


 夕暮れ時の村の中央で。温めたミルク酒を飲んでいたところ、不意に話しかけられた。年老いた女だった。村には大抵こういう老人がいて、時に珍しい知識を与えてくれる。まあ、たいていは耄碌した戯言だが。


 しかし、この時は違った。


「魔物憑き?闇負いではなく?」 


「ああ。大陸の者はそう言うのだったな。きちんと対処していたら、あんたくらいの年ならもう、よくなっているはずだろう」


 俺はその言葉を、すぐには飲み込めなかった。






 この辺鄙な村で、俺は自分を救う言葉を聞いた。


 闇負い。この村で言う悪魔憑きは、魔力が強くて感情豊かな子どもがなりやすい症状で、この村でも稀にあるという。魔力に闇のモノがよってくるので、それにとらわれぬよう心と体を強くすることで、成長するにつれて改善されていくものなのだそうだ。


「お前の周りの人間は知らなかったのだろうね」


 老婆が言うには、大陸の人間は知識を忘れてしまったのだろうと。闇負いがでることが少ないことや、闇負いの改善策がお祈りだとか抽象的なことが多いのが、原因だろうとも。


「つまり、俺が今まで経験したクソみたいなことは、ちゃんと対処してれば避けることができた……そういうことか?」


「そうとも言えるし、そうでないとも言える」


 信心深い人間の言う、煙に巻いたような回答は無視しながらも、闇負いは祓えるという事実は俺に衝撃を与えた。


 そんなことがあったからだろう。


 その夜。村の真ん中、わんこの腹の上。


 夢を見た。


『お母様! こんなぼくだけど、聖獣様に懐かれました!』


 幼い頃の自分が、大事そうに子犬のわんこを抱えている。


 駆け寄る()()振り返った母の顔はぼやけてみえなかった。



「夢でくらい笑いかけてくれてもいいのに」


 目が覚めて、苦笑した。


 朝焼けの中の、山間の小さな村はやけにきれいに見える。目をこすり、枕代わりのわんこの腹を撫でて挨拶。


「ぼうず、ちゃんと魔憑きの治療するんだぞ」


 早起きの村人たちは、昨日の片付けをしながら俺に声をかけていく。


 まるで癇癪を起こした子どもをあやすように。


「チョロいのは、俺の方だったのかもな」


 目が覚めたわんこは早速俺にじゃれつき始める。


 心の汚れた人間には聖獣は懐かないと言われている。


「ここの人間が受け入れてくれようと、俺が今までやってきたことの罪は消えない。俺がクズであることには変わらない。でも、お前が認めてくれるなら。」


 わんこの耳の後ろを掻いてやりながら、誓う。


「俺の中のクズじゃない部分を信じて、これからここでやり直そう」


【本編 完】

お読みいただきありがとうございました。

本編は完結ですが、おまけが数話あります。

良ければ最後までお付き合いください。

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