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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

転生したらダンジョンだった。退屈なので入ってきた冒険者を実況中継する

転生したらダンジョンだった。退屈なので入って来た冒険者を実況中継する。

作者: HAL

 俺がダンジョンに転生してから早一年の月日が流れた。


 いや何を言っているのか分からないと思うが、そうとしか言いようがないのだ。二十一世紀の日本で暮らしていた俺は、道端でトラックに轢かれそうになっていたヒョウモントカゲモドキ、別名レオパードゲッコー、学名:Eublepharis maculariusを庇った事で、二十余年の人生を終えた。そこまでは良かった…いや良くはないが、仕方のない事だった。

 だが、その助けたヒョウモントカゲモドキが異世界から遊びに来ていたダンジョンの精霊で、志半ばで(志とか特に無かったけど)命を落とした俺を自分の世界へ転生させてくれるなど、誰が想像出来たろうか。

 まあ仮に、本当に仮に、そこまで想像出来た人間が居たとしよう。だがその人でも、転生先が前人未踏のダンジョン『深魔虚宮エインフェリナス』のダンジョンコアになるとまでは予想し得なかっただろう。


 そんなわけで目出度くダンジョンコアとして転生した俺。その役割とは、人間で言う所の呼吸器———肺と心臓を足したようなものと言えるだろう。

 人は生命活動を維持するために、口から取り込んだ酸素を肺で血液に混ぜ、心臓からポンプのように送り出す。身体中を巡った血液は肺に戻り、きれいな血液となってまた心臓に送り返される。現代日本においては理科の授業で皆習ったであろう内容だ。

 これをダンジョンに当て嵌めると、ダンジョン内で発生した有形無形のエネルギーを取り込み、俺の中で魔力に混ぜ込み、ダンジョン内を巡る回路に乗せて送り出す。戻ってきた魔力を浄化し、純粋な状態に戻す事で再び回路に乗せる、といった所か。そして魔力はダンジョン内を巡る際に混ぜ込んだエネルギーを消費し、ダンジョンを形作るのに必要な要素———壁や通路といった迷宮そのもの、外敵に対応するためのモンスター、余剰エネルギーが結晶化したマジックアイテムなど———を構成していくのだ。


 簡単に説明したが、これも俺が約一年を掛けて理解した仕組みだ。何せ今の俺の役割は呼吸器である。前世:人間か〜ら〜の〜、今世:呼吸器。重要な役割ではあるが、ちょっと生き様が受動的過ぎやしないか。そんなわけで他にやる事がなかった俺は前世ではついぞ触れる事のなかった魔力というものの仕組みや流れの分析に時間を費やしたのである。

 その成果は素晴らしいものだった。自分の送り込んだ魔力を介して、ダンジョン内の全てを知覚する事が可能となったのである。この暇潰しによって得た力により、俺は新たな暇潰しが可能となったのだ!

 

 新たな暇潰し———即ち、『冒険者実況』である!


*


 さあそんなわけでやってまいりました本日の実況はエインフェリナス地下五階層『怨嗟蠢く地下墳墓』よりお送りしております。

 第五階層は別名ルーキー殺しとも呼ばれる階層。上層の動物や昆虫モンスターに代わり状態異常を用いるアンデッド系モンスターが出没し始めます。また迷宮内の罠が本格的に冒険者に牙を剥き始め力押しだけのパーティはここで膝を折る事となります!まあ膝が折れるくらいで済めば軽症ですけどねガハハ!

 ゴホン、本日の挑戦者は亡者達の怨嗟を断ち切り、次の階層へ至る事が出来るのか!上層に繋がる階段より足音が響くッ!冒険者入場です!!!


 さあここで本日の挑戦者達をご紹介しましょう!

新進気鋭の若手冒険者パーティ『嵐の刃』!先頭を務めるは人間族の戦士で男(HFO)ディランドゥ、冒険者レベルは16!精悍な顔立ちの美丈夫、実直な性格で仲間に慕われる頼れるパーティリーダーだ!

 続いてハーフエルフの盗賊シーフ少女エメラス、冒険者レベルは17!あどけなくも整った顔立ち、しかし何処か刺々しい雰囲気は人間にもエルフにも馴染めぬ苦悩故か!?

 隊列の中央から冷静に周囲に目を配るのは人間族の魔術師ソーサラー、ゾンダーク!冒険者レベルは15!怜悧な眼差しで常に状況を俯瞰する一行の司令塔、魔術師学校を優秀な成績で卒業した秀才だ!

 殿を務めるは人間族の侍祭アコライト、ルフィリア!冒険者レベルは16!正義の使命に燃える純粋さと芯の強さを秘めた可憐なる聖乙女だ!神聖魔法でこの階層の攻略の要となれるか!?

 おっとここで入った情報によりますとー………、戦士ディランドゥと侍祭ルフィリアは同郷の幼馴染ですね、お互いを憎からず想い合う仲のようですねー。盗賊エメラスはひねた性格の自分にコンプレックスがあり、リーダー、ディランドゥの実直な性格に惹かれているようです!一方で彼女と魔術師ゾンタークは冒険者を始めた当初からの相棒関係にあり、ゾンタークはエメラスを気になっているご様子!

 まさかいきなりの四角関係!青春!青い春と書いて青春だぁぁあああァ!!!彼らの恋の蕾は光射さぬ迷宮の中で花開くのか、それとも儚く散ってしまうのか!今夜はこのリア充達から目が離せないッ!見所満載の迷宮攻略、今スタートぉおおおォ!!!


 ぶぉおー(脳内法螺貝)


 さあ始まりました、『嵐の刃』の面々は迷宮に潜む亡者達と罠の数々をどう突破していくのでしょうか。隊列はオーソドックスな二列縦隊。斥候の役目である盗賊と戦士が前衛、魔術師と侍祭が後衛を努めます。戦闘時には盗賊と侍祭のスイッチが鍵となるでしょう。明かりは盗賊の松明に侍祭の照明魔法で堅実に2つを確保。慎重な足取りで第五階層の通路を進んで行きます。

 おや盗賊が足を止めました。母譲りの長い耳を澄ませています………全員武器を構えた!戦闘態勢だあーッ!第五階層に入ってからまだ50メートルも進んでいない!早過ぎる開戦はルーキー殺しの洗礼か!?迷宮の暗がりから松明の明かりの中へとまろび出るのは歩く腐乱死体ことゾンビ達!その数は6体!パーティの1.5倍の人数にどう立ち回るのか!

 先手を仕掛けたのは侍祭ルフィリアだ!神への祈りを捧げ、掲げた杖から放たれた閃光が迷宮を照らしていく!これはいきなり決まった死者鎮魂ターンアンデッドだぁあー!!!ゾンビがまとめて三体、形を保てず足元から灰となって崩れ落ちていくッ!そこにすかさず戦士と盗賊が切り込だぁーッ!瞬発力に欠けるゾンビこれには追い付けない!ディランドゥの長剣が先頭のゾンビを袈裟斬りに左の肩口から右脇腹へ………

 抜けたぁーーッ!!振り切ったァァァァ!!!

 真っ二つにされたゾンビが崩れ落ちるッ!勢いを駆って残るゾンビにも斬り掛か………らないッ!前衛2人、慌てず騒がす距離を取って残る2体を一対一で迎え撃ちます!盗賊がのらりくらりと時間を稼ぐ間に戦士が次の1体を手早く切り倒し、そしてラスト1体をぉー………倒しました!

 

 ピピィーッ!!!(脳内ホイッスル)戦闘終了ッ!

 

 戦闘時間29秒!決着を急がず、魔術師の魔法も温存しながらもスピーディな死合運び!ゾンビなど歯牙にも掛けない、まさに『嵐の刃』の名に恥じない戦いぶりでした!まあゾンビを歯牙に掛けたら臭くて大変な事になりますけどねガハハ!

 ゴホン、これは階層突破にも期待が持てますね!


 さて探索再開、ダメージがない故にインターバルすら必要としない疾風怒濤の進軍!淀んだ空気を切り裂いて『嵐の刃』が歩を進めるゥ!通路の先に見えて参りましたのは頑強な両開きの扉!ここからいよいよ本階層のメインステージ、大墳墓区域に入ります。ここは盗賊が入念に扉の状態を確認するようですね。罠なし…鍵なし…おっと内部の気配に気が付きました!一定のリズムで刻まれる、カコンカコンと硬い物同士がぶつかる音これはスケルトン系のモンスター!しかもかなりの数と予想されるぞォ!?

 そうです大墳墓区域の特徴は途切れる事が無いのかと錯覚する程に大量に現れるアンデッドモンスター達!彷徨う彼等を全て粉砕していくのか、それとも躱して行くのか、冒険者の手腕が問われる所だぁッ!!!


 まずは準備を整えるようです。前衛2人が武器を鈍器に持ち替え………おっとこれは戦鎚メイスだ!スケルトン対策に用意していたようです!まさにクレバー!ダンジョン攻略は準備の時点で始まっているッ!おや、続けて魔術師ゾンタークが詠唱を始めました。一体何の呪文で攻めるのか。そして盗賊が指でカウントを………3………2……1………


 前衛2人、扉を蹴り開けるゥ!開けた視界の向こうは5メートル四方の閉鎖空間!正面の壁面には次の通路へと続く鉄扉、その前に布陣するは白骨姿の戦士達、その数9体!カタカタと骨を鳴らし侵入者達へと襲い掛かる———いや待て!突如として狭い室内に舞い降りる白い………これは霜だッ!急激に室内が低下して霜が降りた!先に呪文詠唱を済ませていた魔術師ゾンターク渾身の氷魔法の発動だぁあああ!動き出そうとしたスケルトン達が這い上がる氷に足を取られ次々と転倒していくぅ!!!完璧なタイミング!そして呪文選択!そして動きを封じられたスケルトン達の頭蓋骨を戦鎚が砕き、ただの骨灰へと還していくッ!!!


 ピピィーッ!!!(脳内ホイッスル)戦闘終了ッ!


 圧倒的!骨を砕き終わるまでには時間が掛かりましたが実質的な戦闘時間は3秒といった所でしょう!まるで演劇を観ているかのような美しい流れに一行も手応えを感じたようです!氷の舞台を前に四人集まってハイタッチする様はカーテンコールッ!!!


 『嵐の刃』達ここまでは完璧な動きを見せてくれました、いよいよ本格的な大墳墓内の探索が始まりますがおっと、盗賊エメラスが部屋の隅に宝箱を発見したようですね。迷宮内には循環した際に余剰した魔力が度々こういった形で姿を表します!ダンジョン齎す自然の恵み、罠を調べて開けるは盗賊、開けて嬉しい中身はピンキリ、俺が目指すは一攫千金yeah———

 失礼、フリースタイルをブチ上げてしまいました。気を取り直して盗賊エメラスが宝箱を調べています。どうやら罠が仕掛けられているようですね。かなり難しい顔をしています、どうも苦戦していますねー。第五階層からは罠の類も一段階レベルが上がり種類も増えます、慣れないタイプの罠に戸惑っているのでしょうか。さあ見ている間に処理が終わったようです、蓋に手を掛けました。鬼が出るか蛇が出るか緊張の一瞬、蓋を………開けた、あッー!これはぁぁぁ!!!???


 爆 炎 ッ ! ! ! !

 爆弾のトラップッ!罠解除に失敗していた!!!リア充爆発!リア充爆発だあああああ!!!宝箱から膨れ上がった爆風が逃げ場のない室内で荒れ狂う!赤一色!爆弾で役満ッ!埋め尽くす炎の赤で室内の様子が見えません!果たして4人は無事なのかぁーッ!?


 ………粉塵が晴れて参りました、室内に動く影は………ありませんッ!四人諸共に倒れ伏してピクリとも動かないッ!!!宝箱の間近にいたエメラスなどは一溜まりもなく黒焦げです!戦士ディランドゥはかろうじて息はあるようですが、指一本動かせないッ!魔術師ゾンダークは少し離れた場所にいましたが…やはり駄目だ、体力の低さが仇となったァ!侍祭ルフィリアはどうだ、彼女の意識さえあれば回復魔法で立て直しも可能だが………やはり耐えきれなかった、息をしていないィィィー!!!これで終わってしまうのか!?唯一息のあるディランドゥが仲間達を探すように白濁した瞳を動かすが………やはり駄目だ腰のポーションに手を伸ばす力も残されていないッ!!!ゆっくりと呼吸が………止まったァァァ!!!

 

 (※注:いい発音で)ten………nine………eight………seven………six………five………four…………………three………………two………………o〜ne〜………zeroooo!!!

 

ピィーッ!!ピピピィーーーーッッツ!!!(脳内ホイッスル)

 

 終わったぁあああ!!!全 滅 ッ!!!ここで挑戦終了です!総タイム15分21秒、絶好調からのまさかの急転落、あっけない幕切れにスタンドからもざわめきが止まりません!!!第五階層、ルーキー殺しが猛威を奮ってしまったぁぁぁ!!!

 では挑戦者達退場です、彼等の姿が迷宮の機構によって一度魔力に分解され、光の粒となって消えていきます!およそ30分後には迷宮に不要とされた肉体のみが迷宮の入口付近に排泄され、待ち構えていた坊主共によって蘇生させられる事でしょう。あとは蘇生失敗して灰にならない事を祈るばかり!皆様、『嵐の刃』の健闘を称えて最期に大きな拍手をお願いします!!!

 

 (パチパチパチ)

 

 それでは次の挑戦が現れるまでしばしのお別れ、深魔虚宮エインフェリナスは新たな挑戦者をいつでもお待ちしております!!!See you Next Abyss!!

なんか友人からネタを貰ったので勢いのままに書きました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔物の倒し方等、工夫されてて面白かったです。
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