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彼の幸せ

作者: Jun

 


  思えば奇妙な関係だった


  私の両親は俗に言う会社経営者で、経営は非常に苦しかった

 私が短大に入学する頃、私の両親は見合いを頼んできた

 断っても構わないが、出来たら会って欲しい と懇願され彼と会った


  彼は 「私と契約結婚をして欲しい 君の親御さんへの援助をしよう 

 もちろん生活費も充分に渡す」と、冷徹な瞳で私に言った

 大財閥の御曹司らしく不遜な態度で さらに

「こちらからの要求は妻同伴が必要な行事に参加してもらうこと

 結婚後は私の父と私の家で同居して欲しい 私は別のマンションで暮らすので

 私の事は考えなくていい」

「君が恋愛をしようが子供を作ろうが構わない しかし離婚だけはこちらから言うまで

 許す事は出来ない 当然契約書も交わし法的根拠も作ろう」

「結婚は短大卒業後で構わないし、返事は急がない ただ君のご両親にはこの契約は

 内密にお願いする 話せばこの話は無効と言う事だ」


  とても受け入れられない

 結婚を何だと思っているのか

 しかし両親はこの縁談が纏まれば会社が助かると期待している様だ

 お金にも不自由しないだろう

 でも、今まで男性と縁のなかった私にとって

 こんな話しか私には来ないなんて思いたくもなかった


  翌日、彼に断りを入れようと連絡すると

「わかった 気が変わったら連絡して欲しい」とあっさり言われた

 ちょっと拍子抜けしたがこんな物かと思い 私は日常に戻った


  三か月ほどが経ち両親の会社がいよいよ危なくなった

 社員さんの給料が出せない

 私の学費も出せないかも と言われてなんだかんだで不自由なく

 育って来た私は焦ってしまった

 私が犠牲になれば両親を助けてあげられると思い、三か月ぶりに彼に連絡した

「ありがとう よろしく頼む」と結婚の返事なのにあっさり言われた

 すぐさま両親に報告したら、本当に良いのか?と何度も聞かれた

 しかし大財閥の御曹司だよ 玉の輿じゃん、と笑うと喜んでくれた

 彼は充分過ぎるほど両親に援助してくれたらしく、会社も持ち直したそうだ

 しかし彼は婚約 結納の儀式以外私と会う事はなかった

 結婚式の打ち合わせも全て私に任せると参加しなかった 招待客のリスト等は秘書さんが

 私に届けにきた 彼に会った回数より秘書さんに会った方が多かった


  そして私の短大卒業後に結婚した

 結婚式で久しぶりに会う彼は珍しく冷徹な空気が控えめで穏やかな感じだった

 笑顔は一度もなかったが

 私の方は式をこなしているだけで当たり前だが感慨などない

 お芝居で花嫁役をやっているような感じだった

 この時初めて彼の妹に会った

 愛想笑いをする訳でもなく彼によく似た冷徹な感じで私を見ていた

 普通この様な席では上辺だけでも祝福するよね って思ったが

 もしかしたら彼から経緯を聞いたのかもしれないと思って黙っていた


  式が終わると私は新居である彼の実家へ、彼は自分のマンションに戻った

 これからは彼の父親と使用人の人達と同居になる

 家事なんて一切しなくていいとの事なので暮らしぶりは変わらない

 むしろ格段に良くなった

 義父は優しい人だった

 会社経営とかは息子に任せて楽隠居を決め込んでいた

 妻を早くに無くしたせいで、あんな風になってしまったと 申し訳ないと謝ってくれた

 使用人の方達も優しくて穏やかに過ごせそうだと思った


  しかし暇である

 やる事がない

 働きに出ようかと思ったが、一応肩書きは大財閥の若奥様

 何してもいいとは言われていたが流石にまずいかなと思ってやめた

 私の数少ない趣味は絵だ

 と言う事で絵を描いて、後は使用人の方とテレビを見ていたり雑談などをして日々を過ごした


  ある日私は義父に旅行に誘われた

 旅行が趣味な義父は1人で気楽に何処かに行っていたが、あまり外に出る事もなく暇そうな私に

 声をかけてくれたのだ

 もちろん私は了承した

 最初は近場でいいだろうと近場の温泉に行く事にした

 久しぶりの温泉に旅行で私は珍しくはしゃいだ

 退屈な日々から抜け出した気がした

 次も連れってくださいとお願いすると 喜んで と言ってくれた

 義父はいろいろな所に連れて行ってくれた

 日本の観光穴場とか海外の観光名所とか

 飲んだ事ないお酒の味も教えてくれたし

 美味しいもの 食べた事ないものなど

 いろいろ教えてくれた


  気がつけば、最初ニ部屋とっていた宿が一部屋になりツインがダブルになっていた

 私はすっかり義父に夢中になっていた

 家に帰っても、もう新婚の奥さんの気分だった


  そして結婚式から三年後、久しぶりに彼から連絡があった

 正確には秘書さんからだが、今度創立記念のパーティーがあるから、妻として出席して欲しいと言う

 もちろんこの生活の義務なので了承すると久しぶりに彼と会った

 相変わらず冷徹な感じで私を見て

「久しぶり 今日はよろしく頼む 私のそばで立っているだけでいい」

 とだけ言いパーティーに向かった

 本当にやる事なかった 彼が舞台で挨拶する時だけ一緒に舞台に上がったぐらい

 挨拶が終わると ご苦労様 帰っていい と言われてそのまま家に帰った

 なんとなくそっけなさすぎるな と思い義父に聞いてみた

 彼は女性に興味がないのだろうか 好きな人がいるなら私なんかとややこしい契約などする

 必要なく結婚すれば良かったのでは と不思議に思った 

 私と彼の結婚は政略結婚ではない 契約結婚なのだ

 しかし義父は明確な答えを持っていなかった

「おそらく彼は他の女性と付き合ったりした事はないだろう」

「彼は野心家であり財閥を大きくする事が生きがいに違いない」

「僕は引退するまで家庭を省みなかったので息子の考えはわからない」

 憶測ならばその通りなのだろうと思い、彼の幸せは会社なのかな って独りごちた


  それから更に時が経ち

 私は子供を2人設けた

 義父との子だが戸籍上は彼の子だ

 家では私は義父をパパと呼び子供達は義父をパパと呼んだ

 当然彼は会っていない 一応は兄弟なのだが

 そんな徹底した彼の隔離に疑問を感じるものの日々は過ぎた


  月日は経ち義父が亡くなった

 私は初めて愛した人を失った悲しみに明け暮れたが子供達が支えてくれた

 彼も来てくれて今後の生活の事も心配しなくていいと言ってくれた


  また月日が経ち子供達が別に家族を持つ様になった

 長男はしばらくしたら帰って来て同居すると言う ありがたかった


  そしてまた月日が経ち彼の余命が残りわずかと言う

 凄いお金が贈られた このお金が離婚の慰謝料だと言う

 離婚

 確かにこちらからは出来ない契約だったが、もうこの歳だ 未亡人でも構わない

 私は初めて彼の元に向かった 契約違反だったが構わない 最後にこの契約の意味を知りたかった

 本当に会社の為のみの人生だったのか、女性嫌いは治らなかったのか

 聞きたい事は沢山あった


  初めて踏み入れた彼のマンション

 もちろん結婚当初とは違うマンションだが彼は結局持ち家を持たなかった

 ベルを鳴らす 私の名を告げるとオートロックの扉が開いた

 そして部屋の前まで来てもう一度ベルを鳴らす 扉が開いて出てきた人を見て その時気づいた


 冷徹な感じで私を見る彼の妹がいた

 そうか彼はこの妹の為に結婚を諦めたのだ

 兄妹で結婚は出来ない しかし彼は大財閥の総帥だ 結婚しないのは問題がある

 そこで私だ 契約で縛る事が出来て野心もない

 平凡且つ契約結婚に同意してもらう根拠がある

 おそらく彼の妹は嫉妬深いのだろう 徹底的に隔離して契約だけの結婚を了承させ

 事実婚として妹と暮らしていたのだろう

 誰にも気づかれる事なく


 良かった おそらく彼は幸せだったのだろう

 マンションの中から彼の子供と思える声が聞こえてくる

 彼を元気づけ様とする明るい声だ

 別に家族だけが幸せの形ではないのだろうが

 やはり幸せな家族はあった方がいい

 奇妙な形ではあったが私は幸せだった

 一応、形だけの旦那様が幸せだったならなお嬉しい


 私を拒む、形だけの小姑に対して離婚を了承したと告げると

 少し軽い足取りで家路に向かった


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