表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

その癖ってそっちの方だったの?

誰も教えてくれるわけがない。


 あの壁ドンをした日から、一日経った放課後。

 

 また、告白されている。


 体育館裏で美紅先輩と女子生徒でお話していた。先輩がきれいに背筋を伸ばし、お辞儀していのを見て、おそらく振ったんだろうなと推測して、同時に大変そうだと思った。


 ……私が言えたことでもないけど。


 体育館の角で様子を伺って、女子生徒が去るのを待っている。


 すると、タッタッタとローファーで地面を蹴る音が近づいてきて。


 やばいって思って、物陰に隠れて通り過ぎるのを待った。


 しばらくして女子生徒がいなくなるのを確かめてから、美紅先輩の元に近づく。 


 先輩はしゃがみ俯き、顔を手で覆っていて、泣いてるように見えた。


「美紅先輩も大変ですね」


 私を見て、また顔を隠した。


「あなたに何がわかるの」


「大変だって事なら分かります。毎日のように告白され、振って。メンタル持たないでしょう?」


 先輩の隣に近づいて、座った。


 今日は甘いピーチの香りがした。制汗剤でも付けたのかな? まあ、そんなことは置いといて。


「それ、あなたも告白してる側なのによく言えるわ。自覚無いの?」


 若干言葉にトゲがあった。まるで小さいバラのような。


「自覚はありますよ。だから早く終わらせ――」


 瞬間、ドンっと肩に衝撃が加わる。


 何があった? あれ? 視界が――。


 背中は鉄板のようなものに熱せられ、熱い。このゴツゴツした感触は地面……?


 ――もしかしなくても、押し倒された……?


 いやいやまさか。あの先輩がそんなこと。


 今の体勢を確認する時間もなく、無造作に触られる。


 すると、先輩は前屈みに倒れてきて、何かされるのかと思った私は目を瞑った。


 ――その瞬間。


「あなたのせいよ」


 全身にザワザワと電気が走ったような感覚に襲われて、何故か気持ちよく感じた。


 休む間もなく、お腹の下あたりにさわさわと触られ、意志とは関係ない声が出てしまう。


「ちょっ、ちょっと」


「ふふっ、かわいい」


 お腹に美紅先輩の手で、くるくると撫でられる。


「私も、あなたが好きよ」


 再び囁かれた。そして、耳に直接柔らかい唇が、温かい吐息もあたっている。


 急に……何を言って、何をしているの。


 意志では発していない、声が漏れる。息が熱い。


 思考が定まらなくなる。


 それから追い打ちをかけるように美紅先輩は。


 口元に人差し指でなぞってきていて、くすぐったいだけど気持ちがいい……そんな感覚に陥る。


 この手の動き、どこかで……。


「結愛ちゃん、前、見て」


 恐る恐る目を開けるとそこには。


 熱く、荒い吐息。内側から照らされているかのような、輝いた赤い瞳。長いまつげは輝いて。長い髪は私の横に落ちて。


 それを見た私は、とても火照ってしまい熱かった。


 ……きれいだ、と思った。


 楽譜の休符を現すように少し間が開く。


 美紅先輩は口角を少し上げ、微笑んだその瞬間――。


「ん」


 息ができない。苦しい。


 キスってこんなに甘くて、苦いんだ。


 なにもかもチョコレートのように溶けて、私という原型がなくなってしまうんではないかと思った。


 胸が脈打ち、ドクドクと心臓が高鳴っている。


 様々な感情が入り乱れたキスは、複雑な味をしていて思考をかき回した。


 ……気持ちいい。このまま沈んでしまいそう。このまま快楽の海に落ちてしまいそう。


 でも、何か違う。こんな歪んだ感情のキスなんて私好みじゃない。


 正気に戻った私は、力ずくで先輩を起こす。


「なにやってるんですか⁉ こんな場所で」


 でも、身体は正直だった。


 呼吸は乱れていた。胸も苦しい。体は酸素を欲していて速い速度で取り込みはじめる。


 美紅先輩の顔を見ると、なぜか悲しそうな顔をしていた。


 頬は桃のようにほんのり赤く、呼吸も乱れ、汗も少し出ていて艶やかだった。


「今回は……抑えられなかったわ。毎回結愛ちゃんが可愛すぎて。いつも自制してるんだけどね」


 美紅先輩は自分の口元に手を当て、なぞっていた。


 この手の癖ってまさか、そっちの方だったの……?


 キスされた唇に手を当てて、私は立ち上がれずにいた。


 グミよりも柔らかかった唇、熱い身体。そして甘いピーチの香り。


 どれも刻まれたように、感覚が残ったまま。


「結愛ちゃん、とてもおいしかったわ。ありがと」


 踵を返すように、スカートをなびかせローファーを楽器のように鳴らして帰っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ