九回目の告白
なんで。なんでなんでなんで。
なんで、つまらなそうな目をするの。
こんなに想いを伝えてるのに。先輩のその癖、恋をしている時に出る癖だって知っている。
告白した相手は、二年生の逢坂美紅先輩。
先輩の所属している部活はバスケ部。アタックのキレがとても鋭く、ブレがない。それでいて足は速くて、スタミナも切れにくい。
私、月森結愛も、このプレーを見てちょっとびっくりしちゃって。
逢坂先輩はバスケ部はもちろん、学年でもかなり人気のある子。
高校からは文化部でゆっくりやろうとしていたのだけれど、中学でもバスケをしていた経験から気が気でいられなくなった。
そのプレーもすごくよくておまけに、いつも佇まいがきれいなの。
長いまつげ、宝石のようなキラキラした赤い瞳、さらさらで滑らかな長い黒髪。少しだけ赤紫色のインナーカラーが入っていて……。
私は惚れた。胸に矢印が突き刺さって貫通するみたいな。一瞬で仕留めたいって思った。
それ以来ずっと先輩を追いかけているんだけど……。
追いかけては告ってダメで、その次も告ってはダメでの繰り返し。
周りもその美貌からか、よく告られていて、先輩は断っているのを見るの。
他の人が美紅先輩に告白していて、玉砕しているのを何回も見ると、面白いって思い始めてしまって。少しワクワクするというか……。
私の悪い癖だって一応わかってはいるんだけどね。
なかなか治せないの。仕方ない。
で、ずっと観察していると先輩に癖があることが分かった。
私の時だけなぜか、その癖があってほかの人の時は明らかに癖がない。
ずっとなんだろうって思っていたんだけど、これってまさか私に気があるのでは? と思った。
それ以来、獲物を捉えるかの如く、強気で行くことにしてる。
……で、私の告白はこれで九回目。
いまだ、皆と変わらない〝周りの人〟で。
おかしいと思ってる。
周りの人よりアドバンテージがあるはずなんだけど、うまくいかない。
舐められてる? それとも何か決定的な間違いをしてる?
ずっと考えているんだけど、わからなさ過ぎて押し切ることにした。
今、部室で二人きりという、この状況は私が作った。
今回で仕留めたい。今回で……この告白を終わりにしたい。
「私は、先輩の事が大好きなんです。どうして私と付き合っていただけないのですか?」
壁ドンに近い状況。
抑えきれぬ想いに、告白するシチュエーションがどんどん過激になっていく。
右手が壁に、先輩がそのすぐ横。
そしてすぐ前に逢坂……いや、美紅先輩。
もう名前呼び慣れてしまった。
美紅先輩の方が少し身長あるので、見上げる体勢になっている。
でも顔と顔の距離が約二十センチくらい。とても近い。
キスしたい、と思うほど近い。
「ダメなものはダメなのよ。出直してきて」
抽象的だなと思う。いつもこうだ。
その上、こういうときでも冷静で私の方がいつも通りでいられなくなる。
ちょっと見惚れていたら、視界が真っ暗になった。
顔にふわふわな細いきれいな手がかぶさっていて、石鹸の香りがほのかにしていて鼻孔をくすぐる。
「ここまでね」
「あっ、ち、ちょっと私はまだ!」
ツーサイドアップの髪を鞭のようにブンブン振りながら先輩を止める。
「また今度聞いてあげるから。今日はもう夕方で暗くなってきたしおしまい」
グググと私を引き剝がした。
今日も……ダメだった。
そのまま、部室に一人残され、美紅先輩は帰っていく。
部室を出た時の夕日に照らされた艶々な黒髪は、優艶さを醸し出していてとても美しく、優雅だった。
「あと、もう少し、あともう少しなのに」
あのかわいい、手の癖は私の時だけしか見せない。
私だけが知っている、先輩のかわいい仕草。
思い出すだけでも、楽しい。けれど心は満たされないまま。
私は、美紅先輩が好き。美紅先輩で満たされたい。
先輩への想いは強くなると同時に、やるせない思いも強くなる。
いつになったらこの恋は実るのでしょうか。
誰か教えてください。