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7 グループトーク招待

 土曜、休日、夕方。

 部活から帰ってくるとリビングのソファで舞が眠っていた。

 ネイビーブルーのタンクトップに白のスウェットパンツ。胸元に左手を置いて、その手の中にはスマホ。

 

 テーブルの上で開いたままになっているファッション誌に視線を落とすと、口でコンドームを咥えて男性器に被せる方法を指南するページだった。表紙はどこからどう見ても流行ファッションを紹介する健全なティーンズ向け雑誌なのに中身はまごうことなきポルノトビアの申し子であった。


 さすがにこのページを開きっぱなしのところを俺に見られたら気まずいやろうと思って雑誌に手を伸ばしたところ、


「何してるの!」

 鋭く刺すような声。


「ぬぉっ⁉」

 雑誌を引っ掴んだまま飛び上がりそうになったわ。顔を上げるとソファの上で上半身を起こした舞が剣呑な表情で睨んでいた。

「お、おはようございます舞さん……」

「何してたのかって聞いてるの!」

「雑誌を片付けようと――」

 俺の手に雑誌があり、コンドーさんを口で咥える方法をレクチャーするページが開かれている。それを見た舞は耳まで真っ赤になった。

「返して!」

 むしり取るように取り返された。

「もうサイアク!」

 バッと勢いよく立ち上がると雑誌を胸に抱きかかえ、悪態をついて逃げるようにリビングを出て行った。


 ヤバイ、ヤラかした? 俺……?


 

 夕食。

 俺と同じ食卓にはつかないかなと思っていた舞は、夕食ができたことを伝えると、ちゃんと下りてきた。さすがにムスッとして目を合わそうとしないけどな。トホホだわー。


 食いながらシャベルを開いてみるとマイからDMが来ていた。テーブルを挟んで向かい側の舞もスマホと睨めっこして何かわからないが一心不乱に文字を打ち込んでいる。


『こんばんは~。兄さん、用意できましたか?』

『用意? 何の?』

『避妊具ですよ』

『いや、まだですけど』


 何となくバツが悪くて敬語になってしまう。


『兄さん、妹さんと結ばれたくないんですか? 避妊具なしでもエッチできますけど、それはやったらダメなことなんですよ?』

『わかってます。重々承知してます』

『こういうものは兄さんに用意してもらわないと、妹が買うのってすごく恥ずかしいんですよ?』

『はい、おっしゃる通りです』


 説教臭い妹キャラも結構いいよね。いや、反省?はちゃんとしてますよ。


『俺の課題はコンドー氏をお迎えすることとして、そっちはどんな感じ? 進んでるの?』

『進んでませんよ。こないだ捨て身の誘惑をしたけど全然ダメでした』

『その話、詳しく』

『彼氏シャツ作戦やってみたんですよ』

『マジか⁉ 兄貴殿大歓喜だったろ!』

『いいえ。兄貴のベッドに横たわってみたけど襲われなかったです』

『その姿見て兄貴殿は興奮せんかったの?』

『してた、と思います。ものすごく鼻息荒かったので』

『そうか、かなりダメージ与えたんじゃねーの?』

『ダメージw そうですね、ダメージ与えてたらいいですね』

『あーもう、兄貴殿が羨ましいわー。マイが俺の妹だったら即ケダモノ化、速攻で最終形態に移行するわー』

『最終形態ってラスボスですかwww 妹さん、私みたいに兄さんのケダモノ化を待ってるかもしれませんよ?』

『ないわーw さっきもリビングで昼寝しとったところを起こして激怒させてしまったわ』

『襲おうとしたんですか?』

『ちがう、冤罪! ファッション誌のエロいページ開けっぱにして寝てたから、雑誌を閉じようとしたんだ。で、運悪く目を覚ましてしまった』

『なんだ、そうだったんですか。てっきりキスの魔力で起こそうとしたのかと思いました』

『そんな話もあったな、忘れてた』

『それじゃ妹さん怒り損じゃないですか』

『サイアクとか言うくらいやから激怒し損やなー。憤怒の表情もかわいかったよ』

『www 真相知ったら妹さん、兄さんの顔ますます直視できないですよ』

『それは困るわーw』



 こういうやり取りをしているうちにライムの着信音が鳴った。舞の方でもそれらしき音が鳴ったみたいだ。

 ディスプレイを見るとライムからの通知が届いていて、マユからグループトークに招待されたことを知らせる通知だった。

 向かいに視線を向けると舞もこちらを見つめていた。俺と目が合うとぷいっと顔を背けた。マイさん、ウチの舞は『ますます直視できない』とは違うと思うわー。


 

『マイ、すまん、例の妹友からライムが来た。いったん落ちる』

『おつかれー』



 シャベルをログアウトしてライムを開く。マユからグループトークに招待されている。グループに入ると舞も既に招待されていた。「


『招待さんきゅ』

『タケト君、参加さんきゅ!』



「タケト君? なんで下の名前……?」

 舞が声を上げた。静かな食卓でいきなり声を出すもんだからビックリして顔を上げる。不機嫌そうな舞と目があった。

「いや、敬語無しでフランクに話そうって言ったらこうなったんだよ」

 あれかのう、ワシが友達に馴れ馴れしくするのが気に入らんのかのう。

「そんなにおかしくないだろ?」

「別に。どうでもいいけど」



『舞、タケト君、今度直接会って話がしたいんだけどどうかな?』

『いつでもいいよ』



 と俺が返事したら舞が舌打ちして文句を言ってきた。

「なんで兄貴が私より早く返事するわけ? 私の友達なんだけど?」

「なんでそんなことでムキになるんだよ、返事なんて早ければ早いほどいいもんだろ?」

 ぐうの音も出ない舞はもう一回舌打ちしてスマホに戻った。



『私もいいよ』

『明日ってどう? 急で悪いんだけど』



 日曜だろ? 俺はいいよ……そう打ち込んだが、舞が先に返事するのを待った。



『いいよ』

『日曜だろ? 俺もいいよ』

『ありがと、じゃあ明日9時にウチに来てくれないかな?』

『うん』

『ああ』

『じゃあそういうことで』



 連絡事項を伝えるだけのライムだったからやり取りはあっさり終わった。明日妹友の両親の離婚危機と向き合うわけか。どうなるんだろうな。


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