5 マユの悩み
昨晩、舞の友達マユとライム交換した。
……交換したんだけど、これって舞に一言断りを入れておくべき?
俺が妹の友達にちょっかいかけてるように見えないか? それともマユの方から舞に話してくれてるやろか?
ちょっと不安やからマイに相談してみようと思う。
シャベルにログインするとマイからDMが来ていた。
『返事が遅れてごめんなさい! 友達の相談に乗ってたのでスマホ見れなかったんです』
『そか、お疲れだたーね。謝らんでいいよ、そんなんで怒りません』
『私は怒るかも。兄さんから返事来なかったらきっとやきもきするから』
『垣間見えるヤンデレ属性にワイ、きゅんとした』
『え? 私ヤンデレですか?』
『兄貴殿の部屋、本人より詳しいんだろ? 盗聴盗撮とかしてたりして』
『人聞き悪いですよ。秘匿撮影、秘匿録音はしてます』
『マジで?』
『パスコードを突破できれば簡単に見られるようにしてます。兄貴が私のケータイ漁ってこれを見たら『誤解しようのない好意』ってわかるでしょ?』
『理屈は正しい。けど何かが間違ってる』
『血がつながってる分、他の女より不利なんだから、ハンデを埋める努力をしないと』
『お前、勉強もスポーツも人付き合いもスゲーできるだろ?』
『フツーですよ、何でですか?』
『行動力がある上に状況分析が冷徹すぎる。悪口じゃないよ? うらやましいって言いたいの』
『一応褒め言葉として受け取っておきます』
ここで思い出した。俺、マユとのライム交換の件を相談したいのだった。
『相談あるんやけど聞いてくれる?』
『うかがいましょう』
『昨日妹が友達を連れてきたって言ったよな。で、そのままお泊まり会したんだよ。その子が言うには、その子の悩みを聞くために妹が企画したんだってさ。俺の妹は友情も世界一』
『へぇ、妹さんの目の前でそんな話したんですか?』
『いや、妹はいなかった。俺の部屋に一人で来たからな』
『へぇ、一人で。妹さんはそれ知ってるんですか?』
『わからん。まぁ、そんなんどうでもいいやんか。で、ここから本題。それでライム交換したんだよ。これって妹に知られたらヤバイ系の話?』
『ライム交換したんですか? ひょっとして浮気ってことですか?』
『浮気っつーか、妹に黙ってたら、知られた時誤解されるんじゃないかって心配なんだ。考えすぎやろか』
『その友達は妹さんに内緒でライム交換したわけですね?』
『いや、だから妹が知ってるかはわからないんだって。わからないことだらけだから相談してるわけです』
『今のところ個別トークなんですよね?』
『イエス』
『「妹を誘っていいか?」って聞いてみてください。当然okするはずですし、難色を示せば友達は妹さんを裏切ってることになります』
『コラコラw 裏切りなんて大袈裟なw』
『だって妹さんに隠れてコソコソとライム交換する理由、無くないですか?』
『そうかもなー。考えすぎやと思うけどなー』
『兄さんはそう思っても妹さんはそう思わないかもしれませんよ? 気になるのは妹さんの反応なんでしょ?』
『確かに。マイの言う通りだ』
ここでライムの着信音が響いた。マユからだ。
『その友達からライムが届いた。ちょっと聞いてみるわー』
『絶対報告してくださいね』
『はい』
マイの迫力にタジタジだな。なんという妹力だ……!
一旦シャベルをログアウトしてライムを起動、マユとの個別トークを開く。
『こちらでは初めまして! 昨日は楽しかったです!』
『こんばんは! こちらこそライム交換さんきゅな』
『「さんきゅ」って舞と同じですね。さすが兄妹』
『言われてみたらそうだな。そうかもな』
『普段から仲良いんですか?』
『悪くはない。あいさつはするからな』
『あいさつwww なるほど悪くなさそうですね』
今ライムでチャットしてる相手はマユ、中三、使用言語は丁寧語。
シャベルでチャットしてる相手はマイ、中三、使用言語は丁寧語。
これってヤバくないか? 誤爆する可能性あるぞ?
明快に区別できるようにしておく必要ありと認む。
『あのさ、お願いがあるんだけど』
『はい?』
『敬語やめてくれへんやろか? 舞とやり取りしてる時と同じでいいから』
『うん、わかった。リアルでもタメでいいの?』
『いや、リアルでやられると俺の権威とか威厳とかがアレするから』
『りょーかいw 呼び方は? お兄ちゃん?』
『ぜひそれでお願いします』
『だーめ、舞に悪いし。タケト君にする』
『桶』
『なんですかその漢字?』
『おけ。オーケー。OK』
『そういうことwww 桶www』
『ところで相談事はうまくいった?』
『舞からきいた?』
『いんや。あいつがよっぽど機嫌がいい時以外は口聞かんわー。二人きりの時もずっとスマホしてるしな』
『スマホ? 舞がスマホ遊び? へー。珍しいな』
『マジか? 俺の前でだけスマホいじりしてるってことは「私に話しかけるなムーブ」ってことやろか?』
『あー、うーん。ドンマイ兄貴!』
ぐはっ! 妹について新情報ゲト。ヘコむわー。
『あ、相談だったね。ちゃんと聞いてくれたよ、舞マジマイベストフレンド』
『そか。いい友達なんだなアイツは』
『女の意見は舞から聞いたので、タケト君から男の意見を聞かせてほしい』
『あ、俺にも相談すんの? 任せろカモーン』
『お母さんが不倫してるみたいなんだ』
重すぎワロタ。
『マジか。「してるみたい」って確定してるわけじゃないの?』
『限りなくクロに近いグレーって感じ』
『不倫の証拠はないってこと?』
『浮気相手と電話してるのを聞いたんだ』
『それクロ確やん』
『でも録音してなかったの。私が聞いたってだけじゃ証拠能力ないでしょ?』
『そういうことか。証拠を手に入れたらどうすんの? 問い詰めるの?』
『離婚させる。私はお父さんを一緒に暮らす』
重すぎワロォォォォタ。
『母親と暮らしたくないってだけなら別居という方法もあるぞ?』
『わかってる。でも断固離婚』
なんか頑なやな。一時の情で決めていいことじゃない。離婚するか決めるのは両親だしな。
『たとえばなんだけど、将来お前が結婚するとき、相手家族が片親を嫌がる場合があるらしい。ソースはネット掲示板』
『タケト君おもろいねw その時はその時かな』
今は離婚一択で凝り固まってるから、マユに合わせよう。
『マユの方針はわかった。再構築の可能性がなくなるくらいの証拠をゲトしないとな』
『協力してくれるの?』
『協力してほしいんじゃないの?』
『ありがとう』
『照れるやん、やめて。部屋で独りスマホで赤面してるやん俺』
『想像したらキモイ~www』
『まずは決定的証拠だな。ラブホから出てくるところとか、裁判で使える強力なやつ』
『私と一緒にラブホ行ってくれるの?』
『お前受験生やろ? ラブホ街うろついて補導されたら受験に響くやんけ。俺に任せろ』
『タケト君もヤバイじゃん』
『大丈夫やろ、罪犯すわけじゃないからな。それに多分2、3回は補導されても退学にはならんやろ。補導歴がついても大学は一般入試なら問題ない』
『ありがとう、心配してくれて。考えてみる』
『絶対お前一人で勝手に動くなよ。中学生の女がラブホ街で補導なんてシャレにならんぞ? 俺が高校生の男やからやると言ってるんで』
『うん、わかった』
『この件を舞にも相談してるんだろ?』
『うん、いろいろ意見聞かせてもらってる』
『だったら舞もこのトークに誘っていいか?』
『それはやめて。舞も含めたグループトークを作るから』
『そか、わかた』
『本当にありがとう。こんな話、身近な人とはできなくて。舞は例外』
『そか。アイツ、いい友達やってんだな。兄として誇りに思ったるわー』
『タケト君も、舞に言えない悩みがあったら言ってください。力になりますよ!』
『さんきゅな』
『こちらこそさんきゅです。ではおやすみ~』
『おつかれー』
なかなかヘヴィーだったな。
ここでシャベルにログイン。いちいちログインしてログアウト。これこそ誤爆を防ぐ唯一にして最高の予防策。
マイにDMを送る。
『妹友とライムしてきた。ヘビーな内容だったわー。妹を誘ってグループトークにしようって言ったら、グループトークは新規で作るから個別トークはこのままにして欲しいって言われた』
『お疲れさまです。結局妹さんには秘密の個別トークを続けるわけですね』
『まぁ、グループトーク作ったら、個別は過疎るやろうけどな』
『そうですね、そうかもですね』
『妹友の相談内容は勘弁な。知られても問題ないしマイを信用してるけど、これは感情の問題なんだわー』
『もちろんです。兄さんが判断してください』
離婚か……
親の不倫とか、そんなしんどい目に遭ってるヤツ、身近にいるもんなんだな。
シャベル(ツイッター)とライム(LINE)について、正しく用語を使えていないかもしれません。わざと適当に表現している箇所もあります。
スタンプを多用してないので不自然かもしれません。工夫次第で表現可能だとは思っています。