表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/24

3 男心ミナゴロシの究極武装

 今日帰宅早々、オカンに晩メシ作れと言われた。

 あ、ちなみに妹はリビングのソファに寝転がって親のタブレットで何かやってる。


 当番日じゃないから当然断るよな? もちろん断りましたよ。

 するとオカン、鏡を俺に向けて曰く、

「アンタ自分の顔よく見なさい。顔面偏差値中の下、学力中の下、スポーツ中の下、年齢イコール彼女いない歴のアンタがカノジョ作って結婚までいくには料理くらいできないとダメなの! 『母さん疲れてるだろ? 今日の晩メシは俺が作るから休めよ』くらいの気遣いスキルもなくどうやって生きていくつもりなの?」


 俺絶句。

 二の句が継げずにいると舞がボソッと、

「結婚なんてしなくていいじゃない」

 とのたもうた。


 いや、妹と結ばれたいから結婚はできないんやけど、当の妹に言われるとツライ……

「コラ舞! 今の男の未婚率はすごく高いんだよ? そんな縁起悪いこと言ってたらお兄ちゃん、本当に結婚できなくなるよ⁉」

「私、塾の準備あるから」

 舞はつれない素振りでソファから起き上がると自室に引き上げていった。

「舞の塾に間に合わなくなるでしょ。早く作りなさい」

 モラハラ、言葉の暴力も立派なDVです。



『……ということがあったんだ』

『腹を抱えて笑いました』



 夜10時半。

 俺は自室のベッドに転がってスマホに興じていた。相手はもちろんマイ。

 妹の方の舞は塾から帰ってきて風呂入って自室に戻っている。



『兄さんもイケメンってわけじゃないんですねw』

『「も」ってことは兄貴殿、ブサメンなわけ?』

『兄さんブサメンなんですか?』

『兄貴殿と同じイケメンですよ。ソースは俺』

『これ以上聞くのやめますw』

『ときにマイさん、俺に相談あるんだよな?』

『はい。どうすれば兄貴に襲ってもらえるのか、兄貴のエッチ漫画読んで研究中です』

『マジか。兄貴殿のエロ本発見したんだな。どこにあったの?』

『兄さんと同じで表紙偽装してました。煩悩ガチ勢界隈で流行ってるんですかね?』

『いや、マジで?』

『マジで。参考書ではなかったんですけど』 

『そうか、兄貴殿、俺と同じくらいキレる男なんだな。で、兄貴殿の品揃えをうかがってよろしいか?』

『作者の名前は「姉妹財団」「カフェオレビター」「アイアンクロー」です』

『神作家ばっかやんけ。俺も何冊か持ってるわー。特にアイアンクロー大先生の『インセスト・妹・ラヴ』は至高の大傑作』

『そうそう、それ読みました。由真ちゃん、かわいかった!』

『ツンケンしてるけど兄貴のエロい要求には常に満額回答ってヤツな』

『私もあんなキモイお願いされてみたいw 兄さん、一度お願いしてみたらどうですか?』

『絶縁不可避の世界線。マジ無理っす』

『もし妹さんがオッケーなら何をお願いしたいですか?』

『彼氏シャツやなぁ。わかる? 俺のシャツを着てもらうの。下は短パンやで』

『そんなのでいいんですか? 裸エプロンとか紐ビキニとか泡プレイとかの方が良くないですか?』

『さすがにそんなお願いできんわー』

『してくれたら襲いますか?』

『そりゃ襲うw そこまでしてくれたら誤解しようのない好意ってヤツだからな』

『誤解しようのない好意かー。どうすればちゃんと伝わるんだろ』

『裸エプロンしてみたら? エプロンくらいなら家にあるだろ?』

『あるけど、もしキモがられたら私生きていけないです……』

『俺とマイって、立場は真逆だけど、直面してる悩みは同じなんだよなー』

『ですねー』



 共通の悩みは同志的な絆を強固にしてくれる。ゲームの表現を借りるならばLoversコミュ、ランクアップって感じ。タロットのアルカナでいえばマイはLoversだからな。



 翌日、夜。

「ねぇ兄貴」

 夕食後、リビングでバイトの求人誌を眺めていると舞から声をかけられた。そうそう、舞もマイと同じく兄を『兄貴』と呼ぶんだよな。

「ん?」

 顔を上げると風呂の用意を抱えた妹の姿。

「兄貴のシャツ貸して」

「は? シャツって、今脱げってこと? 洗濯は風呂入るときに……」

「制服のシャツを貸してって言ってるの」

 ため息まじりに舞は言った。

「別にいいけど、何で……」

「とにかく部屋へ」

「わかった」


 舞に急かされ自室に戻った。

 タンスから折りたたまれたシャツを出す。白のカッターシャツね。

「さんきゅ」

「何に使うの?」

「罰ゲーム。ゲームに負けたら男物のシャツを着て写メ送ることになってたの。念のため言っとくけど、相手はカコとマユだから」

 カコとマユは舞の親友だ。

「ふーん、何のゲーム?」

「カート」

 カートは大人気レースゲームだ。

「へぇ、カートやってんだ? 今度俺とも勝負しようぜ」

「……考えとく。さっさと貸して」

 シャツを渡すとそそくさと出て行った。


そうか、カートやってるのか。

 なんとなくゲーム機の電源を入れて、なんとなくカートを始めた。

 6つ目のサーキットをプレイ中にドアをノックする音がした。

「はーい」

 とゲーム画面を睨みながら返事するとカチャリとドアが開く音がした。ヒタヒタと歩く音が近づいてきたので画面から目を離した俺は思わずゲーム機を手から落としてしまった。


 入ってきたのは湯上がり姿の舞だったんだけど、さっき貸した俺のシャツを着てたんだ。シャツの下からスラっと脚がのびている。男物のシャツにショートパンツ、まさに男心をミナゴロシにするための究極武装『彼氏シャツ』と同じ格好をしていたのだ。『彼氏シャツ』という概念を完璧に理解しているらしく、ちゃんと第一ボダンを外している。


 あぅあぅと言葉が出せないでいると、頬を赤らめた舞がスマホを突き出してきた。

「早く撮って!」

「あ、そ、そうだな、罰ゲームだったな!」

 スマホをつけるとパスコード入力画面になった。

「パスコード入れてくれ」

「私の誕生日」

 俺が入力すんの? ってか俺に教えるの? パスコードにする意味なくないか?

「わかった……」

 とにかく舞の誕生日を入力してカメラを立ち上げた。


 立ちポーズの写真を数回撮った。罰ゲームだったらこれでおしまいだろうと思っていたら、スマホを返せと言ってこない。ゲーム機をじっと見つめている。

「対戦するか、久しぶりに?」

 俺が水を向けると舞は頷いた。

「うん。負けたら罰ゲームありで」

「罰ゲーム?」

「そう、勝った方が負けた方に一つだけ命令できるの。拒否権はなし」

 『罰ゲーム』『命令』『拒否権なし』……なんかこう、すごく甘美な響き。勝者が敗者に罰としてあんなことやこんなことを要求できるってことやろ? 俺間違ってる? ちなみに俺、カートめちゃくちゃ上手いんよ?

「わかった。妹だからって手加減しないからな」

「私だって」

 ちょっと原始のケダモノになってエッチな要求をしてくれる。うっしっし。




 負けた……

 10戦9敗、ほぼ全敗やん。コイツ、めちゃくちゃゲームうまいんやんけ。珍しくアイツの方から絡んでくるなぁと思ってたら、勝つことがわかってたんか……

「私の勝ち」

 勝ち誇った笑みを浮かべる俺シャツ姿の舞。エロい、じゃなくてカワイイ。

「参りました……。命令をどうぞ」

 ここまで完膚なきまでに負けたとあってはジタバタできない。従容として命令に従う所存でございます。


「考えとく」

 舞は短くそう言った。「命令一回分保留だから忘れないでね」

 怖っ! 後になって何命令されるんやろ……?

「わかった、覚えておく」

「もし兄貴が勝ったらどんな命令しようと思ってたの?」

 今日はよく喋るな。機嫌がいいときはこんな感じなのかな。

「勝ってたら俺のスマホでお前を撮らせてもらってたわー」

「……いいよ、撮らせてあげても」

「マジで⁉」

「キモッ。あんまりキモイと断りたくなるかも」


「いや、あの、一生のお願いです。撮らせてください」

「限定3枚まで、誰にも見せないって約束できるなら」

 そんなもん当たり前やんけ。俺だけの秘蔵写真とさせていただく。

「わかった、約束する」


 たった3枚しか撮れないということで、考えに考え、悩みに悩み抜いてポーズを取ってもらい、スマホカメラに収めた。

・椅子の上で三角座り。

・ベッドの上で四つん這いになって上目遣いでこちらを見上げる。

・ベッドの上で仰向けに寝転んで片膝を立てこちらを見つめる。


 一生の宝にします。



 舞が部屋に戻っていった後、大至急シャベルにログインしてマイにDMを送った。



『マイ、緊急速報!』

『伺いましょう』

『今日妹が俺のシャツを借りにきてシャツ着て見せてくれて写真撮らせてくれたんやけど!』

『落ち着いてくださいw ひょっとしてこないだ話に出た彼氏シャツってヤツですか?』

『そうそう、それ! マジ超級美少女! 俺の妹は宇宙一!』

『兄さん興奮しすぎw そんなに良かったんですか? エロかったですか?』

『良かった! エロかった!』

『それって、「誤解しようのない好意」ってヤツでした?』

『いや、それは違うだろ。今日はなんかやたらと上機嫌だったからな、そのおかげかな』

『妹さんなりに精一杯「誤解しようのない好意」を見せたっていう風には思わないんですか?』

『そうやって詰められたら自信なくなるけど、妹が俺のことを好きっていう根拠がないんだよな』

『そうですか……仕方ないですね』

『まぁまぁ。それよりもスマホに収めたこの写真は永久に俺だけの宝にする。たとえお前に頼まれてもこれだけは見せられない』

『まぁ、兄さんが幸せそうで何よりですw』

『こないだマイに彼氏シャツの話をしてすぐに妹が彼氏シャツのコスプレをしてくれた。ということは……』

『ということは?』

『マイに言ったことが全て現実になるってことじゃないか?』

『そうですねー、そうかもですねー』

『妹が裸エプロンしてくれる妹が紐ビキニ着てくれる妹が夏祭りに誘ってくれる妹とキャンプに出掛けてロマンチックに遭難する』

『コラコラw 最後の遭難はダメでしょwww』




真夜中。

就寝前にちょっとだけシャベルを立ち上げて巡回中、マイがこうシャベるのを目撃した。



ただいま兄貴攻略中@lovememuchmore

『今日精一杯攻めたけどわかってもらえなかった。残念』



 なんかワケありっぽいシャベりだったのでDMで聞いてみようかと思ったが、すぐ消えた。本人が削除したようだ。兄貴攻略とは無関係なシャベリかもしれないし、あっちから言ってくるまで触れない方が良さそうだな。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ