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22 俺氏、リツカ氏と親睦を深める

 明日退院することになった。


 それを知らされたのは今夜7時、退院するのは明日9時半。さっさとオサラバできるのはいいんだけど、急すぎるよな。親に迎えに来てもらう必要があるやん? 入院費用支払わないといけないんだろ?

 などとムカつきながらオカンに報告したら普通の反応だったわー。ウチのお母ちゃん、別のトコで看護師やってるんだよ。急に決まって急に追い出すのは理不尽すぎると愚痴ったら、『症状が良くなった患者が急に追い出されることで次の患者が助かっている』とガチめの説明をされた。急性期病院っていうらしい、俺の入院先の病院は。


 退院決定報告の一番手は舞だったよ? マイからのアドバイスもあったし、本当に最速で知らせたい相手でもある。もちろん喜んでくれましたとも。


 マイや親はもちろん、マユとリツカにもSNSを使って連絡済みだ。特にリツカ宛の文章はアイツの親父殿に読まれることを想定した書き方になった。


『リツカさん、急ですが明日朝退院となりました。放課後病院に来ても俺はいません』

 グループチャットのメンバーは俺と舞、リツカの三人だけだ。俺の書き込みは舞も閲覧する。変な誤解を生まぬよう文面に気を付けます。


 リツカから返事が来た。

『おめでとうございます。無理をなさらずご自愛ください』

 当たり障りのない文面に満足する。これでいい。


 退院してしまえばリツカは俺の世話をしなくてよくなる。だがそれでは友敵同盟が失効してしまうので同盟存続のための方便を考えた。

『英語、教えてくれてありがとうございました。さすが東大志望、教え方も上手いですね』

 こう書くことでリツカの東大進学を俺が支持してるように見えるはずだ。

『妹が受験生なので、機会があれば教えてやってください』

 兄妹揃ってリツカ姉さんをお慕い申し上げておりますアピール! 経済DVモラハラセクハラ親父、ちーす!って感じ。


『もちろんです。私でお役に立てるなら気軽に言ってください』

 と積極的な姿勢を見せるリツカさん。俺の意図を汲んでくれたろうか?

『ありがとうございます、また連絡します。それとリツカさん、くれぐれも自分を大事にしてください。リツカさんが犠牲になるようなら俺は示談に応じられません』


 二つの意味を込めた。

一つ、リツカが俺に示談を働きかけ俺の気持ちが示談に傾いていること。

一つ、本件と無関係なリツカが割を食うようなら示談はご破算にすること。


『わかりました。示談に前向きでいてくれてありがとうございます。父にはそう伝えます』

 ノリノリですやん、姉さん。




 次にソシャゲ『タリタ・クミ』を起動する。

 リツカには訳知り顔でゲームのことペラペラ喋っていたが、俺も友敵同盟のためわざわざ始めたクチだからゲーム内容に詳しいわけではない。主人公のレベルもまだ8、ストーリーもまだ第4章までしかプレイしてません。最新話は66章らしいから先はまだ長い。


 こちらのチャットグループは今のところ俺とリツカの二人だけだ。俺は男キャラで名前はタケト、リツカは女キャラで同じくリッカ。

 で、キャラアイコンの下にレベルが表示されるんだけど、リッカさんただいまレベル26、めちゃくちゃハマってるじゃないですか。


『レベル26!? 本当に俺の知ってるリッカさん?』

 と送るとすぐに返事が来た。

『ええ。やるからにはちゃんとプレイしますよ』

『スゲー、昨日の夜インストールしたのに。課金してんの?』

『するわけないでしょ、おカネないのに』

『お嬢様学校行ってるんだろ?』

『ウチは裕福だけど私が金持ちってわけじゃないから』

『そりゃそうだけど』

『さっきのライムだけど、あのやり取りを父に見せていいのね?』

『うっす。これ見よがしにライムして、『なんだリツカ、お前あの男とライムやってるのか、見せろ!』と言わせたら俺たちの勝ち』

『うん、やってみる』


『あとさ、舞もこのゲームに招待するつもりだから』

『妹さんね。いいのかしら、私のこと快く思ってないみたいだけど』

 やっぱりそう感じてたんだな。


『仕方ないよ、加害者家族なんだから』

『被害者本人にそんな風に言われると戸惑うわね』

『今笑ったんじゃない?』

『なんでわかるの?』

『なんとなーく、リツカの笑いのツボがわかってきたような、きてないような』

『出会ったばかりの人に見抜かれるなんて私、薄っぺらい人間なのね』

『なんでそうなるwww リッカは自分で思っている以上に実はゲラ女子なんだよ、きっと』

『ゲラ女子?』

『ゲラゲラ笑う女子って意味。笑い上戸っていうか。悪い意味で言ってるんじゃないので念のため』

『ゲラか。案外当たってるかも』


『いっぺん顔をクシャクシャにして腹を抱えて大声で笑い転げてみた方がいいよ、リッカさんは』

『そんなに笑えることなんてさすがにないわ』

『お笑いとか見てないの? 俺、フツーにゲラゲラ笑ってしまうんですけど』

『見ないわね。お笑い芸人みんながみんな面白いわけじゃないでしょう?』

『芸人全部を見る必要はないよ。自分に合ったお笑いの方向性というか、フィーリングが合うというか、そういう芸人を見つけたらいいんだよ』

『そういう芸人を見つけるために芸人総当たりしないといけないじゃない』


『なるほどわかった! リッカはお笑いには興味ないんだね。お笑いでなくとも大笑いできることはきっとあるよ』

『こないだの、「被害届の取り下げ以外なら何でも聞きますよ」は大笑いしたけどね。たまに思い出し笑いしてしまうくらい』

『マジすか。皮肉とか好き?』

『アイロニーやアネクドート、そういうのは好きね』

『アネクドート?』

『風刺のこと。ソ連、今のロシアのことだけど、そのソ連の酒場で酔っ払いが『最高指導者ブレジネフ書記長は無能で耄碌している』と叫んで逮捕されてしまったの。逮捕理由は何だと思う?』

『最高指導者を侮辱したから……ではないんだろうね』

『情報漏洩罪』


 ? どういう意味やろ?


『ブレジネフが無能で耄碌しているという国家最高機密をこの酔っ払いは公の場で叫んでしまった罪で捕まったっていう皮肉』

『wwwそういうことかwww なんだリッカさん、おもろい話に興味あるんやん? ちょっと安心したわー』

『私のことどんな人間と思ってるの?』

『良くも悪くも堅い人だなと』

『そうでもないわよ。学費がどうにもできないようならパパ活しようと思ってるし』

『絶対にアカン、絶対に阻止する』

『ごめんなさい、失言だった。軟派な考えに流れてしまうこともあるって言いたかった』

『マジ失言です、本当に頼みますよ。パパ活の稼ぎで大学行って検事になって、もしそのパパ活相手が犯罪で捕まって送検されてきたらどうするんスか』

『あーあ、そういう理由で反対なわけ? もっと道徳的、倫理的な理由と思っていたわ』

『それは一つ目の理由で、さっき言ったのは二つ目の理由。三つ目は、とにかく俺が気に食わない。リッカが売春しなければならないってことが』

『ありがとう、と言っておくわ』

『どういたしまして』


『話は変わるけど、レベル8は無いんじゃない? このゲーム、最初だけかもしれないけど適当にやってるだけでどんどんレベルアップするじゃない』

『ああ、そうですね。ソシャゲってだいたいそんな風にできてるよな』

『ストーリーモードはおもしろいからやった方がいい』

『うっす』

『それとこのゲーム、レベル80以上でストーリー40章クリアでキャラクター同士で結婚できるみたいね。ゲーム内で結婚できるっておもしろいわね。タケトは誰と結婚するの? 私が名乗りを上げていい?』

 俺絶句。確かに、意外とお堅くない、フランクなお人柄なのかもと思った。

 

 舞をゲームに招待する予定だから結婚は舞とするよな。ヤバイかな、俺たちの関係、リッカに勘づかれてしまうだろうか?


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