21 俺氏、リツカのことで舞に詰められる
ライム:LINEのこと
シャベル:X(旧ツイッター)のこと
タリタ・クミ:ソシャゲ。フレンドとメールのやり取りができる。
楪女子学園:小中高一貫の有名進学校。令和女子御三家と呼ばれている。
鷹城健人:主人公。高1。
鷹城舞:主人公の妹。中3。
マイ:主人公のシャベル友達。中3。兄貴を攻略中らしい。
来島律花:リツカ。楪女子高2。間男の妹。
来島竜馬:リツカと間男の父。国会議員になりたい
来島爽:間男。現在入院中。
天羽源次:間男の弁護士。元検事。
ライムを起動、舞にDMを送る。
『マユパパが来た。重要事項だけ手短に。マユパパは弁護士と契約済み。マユのため示談すべきとアドバイスされたらしい』
するとすぐに電話がかかってきた。
『示談するとどうなるの?』
「マユ側が被害届を取り下げる。検察は不起訴、間男無罪放免。代わりにマユパパに多分多額のカネが支払われる」
『さいってー』
そう思うよな。
「まぁな。で、俺の方も示談でいいと思ってる。交渉するのは親だけど、俺の気持ちを汲んでくれるだろう」
『おカネを受け取るの?』
「もちろんだ。カネを受け取る方が被害者、支払う側が加害者。どっちが悪いかこれほど明確なやり取りは他にない」
『おカネ以外のことも要求できるんでしょ? 今のままだと間男が逆恨みして兄貴やマユを襲うかもしれないじゃない』
「逆恨み事件は結構起きてるみたいだからな。お前だって巻き添え食うかもしれない」
舞を巻き込んだら間男マジ殺す。
『間男を国外追放できればいいんだけど』
国外追放か……できるかもしれないな。
「案外イケるかもな。アイツの親父の立場になって考えれば、ほとぼりが冷めるまで息子を海外に出すってのはおかしいことじゃないよな」
『相手にとってはむしろ願ったり叶ったりじゃない?』
「うん、アイツらにとって受け入れやすい要求だよな。マユパパはマユが日常の平穏を取り戻すことを第一に考えたいって言ってた。マユパパも賛成してくれると思う」
『本当は刑務所に入るべきだと思うんだけど、それは無理なの?』
「強制わいせつ罪で検察が勝つのは難しいかもしれないんだと。これはマユパパの弁護士が言ってたことらしい」
『そうなんだ。兄貴が階段から突き落とされたことも示談すれば無罪になるの?』
「それはわからない。示談が成立して、俺が被害届を取り下げたら検察も戦えないだろ。検察って有罪率99.9パーセントの超精密司法とかいわれてるけど、負けそうな事件は起訴しないって意味なんだとさ」
『話はわかったわ。私としては、間男が日本から出て行ってくれたら文句はない』
「俺もだ。それともう一つ、来島律花について話がある」
『あの女が何?』
律花の名を出した途端、電話口が冷気をまとった気がする。気持ちはわかる、俺も舞の口からイケメンの名前が出たら不機嫌になるからな。
「ライムのチャットグループを作っただろ? でもあれはリツカの親父に見られる可能性がある。あの親父に『ライムを見せろ』と言われたら従わざるを得ないだろう。そんな頼りないことならむしろライムの方は親父に見せるよう仕向けて、もう一つ別の連絡手段をリツカと共有しようと思ったわけだ」
『何? なんでもう名前呼びなの? 一体何があったの?』
「友敵同盟を結んだ話はしただろ? 敵の敵は味方の理屈だな。リツカにはあちら側の情報を流してもらう。アイツが味方である間はお前も仲良くしてほしい」
『……あの女が敵か味方か、どうやって見分けるの?』
この舞の言葉は質問ではなく俺に対する非難だ。
「お前の言う通り見分ける方法はないよ。ただ、敵になったからといって、たいした脅威にはならないだろう。父親からあまりいい扱いは受けてない印象だ」
『そう? あの女、楪女子よ? 気づいてた?』
楪女子学園は令和女子御三家と呼ばれる有名私立進学校だ。
「いや、今知った。制服でわかったんか?」
『あんなお嬢様学校に通わせてもらってるんだから、それなりにいい扱いなんじゃないの?』
「その視点はなかったな。アイツがどんだけお嬢様であっても、俺が完全に騙されていたとしても、この同盟で俺たちが損することなんてほとんどないと思う」
スマホの向こう側で大きなため息が聞こえた。
『……わかった、協力する。別に仲良くするつもりはないけど』
マジか。もっと説得を続けないとイカンかなと思ってたが、あっさり引いてくれたな。
「サンクス。心から仲良くなれなくてもいいから、必要に応じて仲良いフリだけはしてくれよ? リツカは東大を目指してるらしいから、お前も受験勉強を見てもらうとか、そういう偽装工作を頑張ってくれ」
『受験勉強は兄貴に手伝ってもらうから』
ドスの利いた低い声が返ってきた。怖すぎて笑えない……
「もちろん、もちろん手伝うのは俺だよ? あくまでライムでのやり取りでさ、俺たちが兄妹揃ってリツカに心を許してる風に演じられたらと思うわけだよ」
『必要に応じてすればいいのね? 必要かどうかは私が判断する』
「……どうぞ、そうしてください」
怖くてそうとしか返事ができなかった。
楪女子学園も令和女子御三家も念のため検索かけてみましたが、存在しない学校、言葉のようです。




