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20「来島さん」から「リツカ」へ

タケト:鷹城健人のこと

マユ:里見麻由美のこと

リツカ:来島律花のこと

 方針は定まった。

 

 マユの日常の安穏のため示談して幕引きを図ろう。俺に何ができるだろう?


 まず来島律花だな。本当に味方になるのか、確かめる方法はないだろうか? 退院が近い。退院までに連絡方法を増やしておこう。一つアイデアがあるんだよ。


 マユパパが帰った後、時計を確認すると20時前、もうすぐ面会時間が終了し女史は帰ってしまう。


 病室を出て面会室に。

面会室はオープンエリアになっていて四人掛けのテーブルが4組、窓から外を展望できるカウンターテーブルにスツールが10脚くらい、自動販売機とテレビカード販売機が壁に据え付けられている。こんなに広ければ、俺の面会客が長居してもあまり問題にならないか。


 律花女史は窓側カウンターの一つに腰掛け、本を読んでいた。メッチャ姿勢いい。和風美人がピンと背筋を伸ばして読書している姿は絵になるな。

「来島さん、居ましたか」

「ああ、もうそろそろ帰ろうと思っていたところです」

 そっと本を閉じ、細い指先で眼鏡のブリッジを軽く押さえるとこちらを振り返った。

「来島さん、スマホでゲームしてますか?」

「? してませんけど」

 怪訝そうに女史。本当だろうか? ゲームしてなさそうな人ではあるんだけど。


 俺は自分のスマホを差し出し、女史に画面を見せた。


西洋風ファンタジーRPG『タリタ・クミ(少女よ、立て)』

 舞台は中世ヨーロッパ風の異世界。魔法学校の生徒たちが身近な事件を解決していくうちに国家間の問題に巻き込まれ、果ては世界の命運を賭けて戦うことになるアクションRPG……そんな感じのソシャゲです。美少女とか美少年とか美形とか美女とかケモモ系キャラとかがNPCでいっぱい登場して同人誌界隈を盛り上げている。

 

 クラン、サークル、チーム、グループ……呼び方は何でもいいんだけど、パーティを作って共通の敵と戦うレイドイベントもあるし、農林水産業や鉱石加工などのクラフトワークに勤しんだり、楽しみ方はいろいろだ。


 キャラクターについては有名な神絵師が何人もキャラデザ参加していて女性ユーザーも多いゲームなんだけど、オタク界隈でなければ知らなくて当然か。


「こういうゲーム、興味ありませんか?」

「はい。でも『やれ』と言われたらやりますよ」

「ぜひ始めてください。このゲームはグループを作って、グループメンバーだけでメッセージのやり取りができるんですよ」

 律花女史は目を細めた。

「ライム以外の連絡手段というわけですか」

 得心がいったように頷くと、挑むような視線を向けてきた。

「でもこのゲーム内でのやり取りも、私は父に見せるかもしれませんよ?」

 なんかこう、性格ねじ曲がってるよな。大丈夫か、この人?


「その時はその時です。俺は今回の件、被害届を取り下げるつもりです。なんだったら減刑嘆願書を書いたっていいと思ってます」

「⁉」

 これには律花女史、余裕を失い目を丸くした。

「どういうことですか?」

「マユ、里見麻由美さんが平穏に暮らせるようにするためです。来島さん、改めて、俺の味方になってください。示談条件に『来島律花さんが行きたい大学に行き、なりたい職業になれるよう親としてサポートすること』という項目を入れます」

「…………」

 俺の申し出が破格すぎて驚き戸惑ってる感じ?


「…………」

 律花女史はしばし黙考し、やがて口を開いた。

「……今の話の中で、あなたがどんな利益を得るのか教えてもらえますか?」

「里見麻由美さんは俺の妹の親友なんですよ。そこから先の答えは忖度してください」

「……ふふふ」

 突然笑い出したのでビビったーヨ。和風美人が陰湿に笑うと絵になるわー、ホラゲーの主人公になった気分。

「ごめんなさい、あなたを笑ったわけではないんです。……私の兄があなたなら良かったのに。そう思ったら笑いが込み上げてきて」

 そういうことだったんですね、すごく怖かったです。


「……わかりました、ゲームやります。やり方を教えてください」

 スマホを取り出し、俺に差し出した。

「その前に、俺のことは『タケト』と呼んでください。あなたのことは今後『リツカさん』と呼びます。いいですか?」

「目上の立場から言わせてもらいます。私のことは呼び捨てにしてください。それと敬語もやめましょう」

 それは心理的距離を詰めすぎじゃないかとも思ったが、違う学校だし別にいいか。


「オーケー、リツカ。早速アプリストアを開いて『タリタ・クミ』を検索してくれ」

 ゲームをインストールし、チュートリアルを終えるとパーティを組むことが可能になる。

 このチュートリアルが結構長いから面会時間を過ぎてしまった。はたから見たら、お前らどんだけゲーム好きやねんという話だよな。

「そうそう、聞きたいことあるんやけど」

「何?」

 ゲーム画面を見つめながらすっかりタメ口。いいやん。

「東京の大学に行きたいって話、東京じゃないとダメなわけ?」

 これって結構重要な質問と思うんよね。志望大学に対する思い入れが強ければ強いほど、俺とリツカの同盟は強固なものになるわけやん? 


「東京じゃないとダメ。私が行きたいのは東大だから」

「え? マジ?」

 マジびっくりした。コイツの大学受験は示談条件とも関係してくるから、浪人することになったらとか、東大受験専門の塾に行くことになったらその費用とか、話がややこしくなるかもしれない。

「私の目標は東大を出て検事になること。そしてクズ政治家や悪徳弁護士を残らず刑務所送りにする。それが私の夢なの」

「すごい夢持ってんだな」

 何この人カッコイイ、ってのが偽らざる気持ちだ。

 

「タケトはどうなの?」

 訊かれても特になりたい職業や勉強したいことがあるわけじゃないんだよな。

「将来のことなんてまだ全然わからんわー。なりたい職業とかやりたい仕事があるわけじゃないし……」

「法律に興味あるんじゃないの? 示談のこととか詳しいみたいだけど」

 いや、俺の知識って所詮はネット情報なんだよな。まぁ、でもそれは今のところリツカに知らせるべきじゃないな。俺のことは『友好的ではあるが得体の知れない人物』と思われてる方が都合がいい。


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