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16 来島律花との出会い

来島竜馬…51歳。間男の父親。

来島律花…17歳、高2。間男の妹。

天羽あもう源次…46歳。弁護士。

 奇妙な組み合わせだった。

 スーツ姿のオッサン二人とセーラー服を着たJKの三人組。


 外見をあれこれ説明すんの苦手なんだよなぁ。


先頭のオッサンは白髪の感じから40から50代くらいに見える。まだ四月なのに健康的に日焼けしてる。体つきもスマートなので何かスポーツやってんのかもな。


もう一人のオッサンはそれより少し若く見える。背が高くイカつい体格でヤクザっぽい風貌。スーツの襟に金バッジがついてるので弁護士かもしれんと思った。


 JKは長い黒髪にメガネのいかにも賢そうな感じがする。落ち着いたたたずまいを見てオレより年上なんやろうなぁと思った。


「鷹城くん」

 先頭の中年が芝居がかった声で名を呼んで近づいてきた。歩き方もなんとなくわざとらしい。


「このたびは息子が、あの馬鹿者が大変なことを君にしてしまった! 本当に、本当に申し訳ない!」

 オレの両肩をガシッと掴み、何度も何度も頭を下げて謝罪してきた。


両肩、メッチャ痛いんスけど?


「お父さん、鷹城さんが痛がってる」

 JKに嗜められ、オッサンはハッとなって俺を手放した。これでオッサンとJKが間男の肉親だとわかった。

「いや、これは申し訳ない。大丈夫かね?」

「はぁ。まぁ」

 としか答えようがないよな。


「まずは自己紹介を……」

 再びJKが口を開きかけたのを「わかっとる!」とオッサンは怒鳴りつけた。JK、黙る。娘に会話の主導権を握られるのが我慢ならないみたいだ。ウチの親父とは全然違うな。

 

 娘相手だったとはいえ、病室で大声を上げた自覚があるのか、オッサンはきまり悪そうに肩をすくめて居住まいを正した。

「いや、申し訳ない。私は来島竜馬。来島爽の父です」

 深々と頭を下げて名刺を差し出してきた。

 

『県会議員 来島竜馬』とだけ書かれてある。住所とか電話番号は書かれていない。加害者家族のくせして被害者に連絡先のない名刺を渡してくるなんて舐めプが過ぎるよ代議士センセ。


「こちらは弁護士の天羽あもう先生」

 ヤクザっぽい強面のオッサンはやっぱり弁護士だったみたいだ。

「天羽です。鷹城くん、よろしく」

 言って同じく名刺を渡してきた。『天羽源次』って名前らしい。こっちは住所やら電話番号やらURLが書かれてある。


「これは娘の律花。高校2年生だから君の一学年上だね」

 『これ』呼ばわりされたJKは無表情にぺこりと頭を下げてきた。多分ムカついてるだろうな。


「ケガはどうですか? まだ痛みますか?」

 いちいち芝居がかった調子で気遣わしげに聞いてきた。なんつーか、どうせ本気で心配なんてしてないんだろうから早く本題に入ってほしいぜ。


 正直に『もうすぐ退院です』なんて答えたら症状を軽く見られるだろうから、ここは適当に言葉を濁すことにする。

「まだ家族に身の回りの世話をしてもらってます。早く退院できればいいんですが」

「そうですか……本当にこのたびは痛い思い、怖い思いをさせてしまい申し訳なく思ってます……」

 沈痛な面持ちの間男パパ。チラッとJKの表情を窺うと冷たい目で父親の背中を見つめていた。俺に気づくとJKはそっと窓の方に視線を外す。積極的に自分の意志で病室ここに来ているわけじゃないんだろうな。


「ご用件は何ですか?」

 しょうもないやり取りが続くのは苦痛なのでこちらから水を向ける。オッサンはウンウンと頷いてこう切り出してきた。

「実は鷹城君、君に話があって来たんだ」


『話がある』だと。

 加害者の父親が弁護士同伴で被害者相手にする話題なんてわかりきってるよな。

「そうですか」

 俺も大きく頷き返した。

「お話しください。被害届の取り下げ以外のことならどんなことでも聞きますよ」

 そう言ってやった。


 オッサンは毒気を抜かれたように目を丸くした。後ろのJKはうつむいて肩を震わせている。弁護士はうっすら目を細めるだけで表情を変えなかった。


 先制攻撃としては上出来じゃね?


「あ、ああ、えーと、そうだな……」

 話す前に断られて間が持たなくなったのか、困ったように弁護士を振り返った。

 後事を託された弁護士が代わりに口を開く。

「鷹城君、今日のところはご挨拶まで。日を改めてまた伺います。お父様、お母さまにもご挨拶に上がりますとお伝えください」

 落ち着いた口調、丁寧な言葉遣いなんやけどビビる俺。面相はマジ反社系のオッサンなんスよ。


「そ、そうだな、そうそう、また来ます」

 弁護士の助け舟に乗って間男パパはウンウンと頷いた。

「律花!」

 声を張り上げ後ろの娘を振り返った。

「お前は残って鷹城君のお世話をして差し上げろ。くれぐれも粗相のないようにな」


 へ?

 娘を置いてく? なんじゃ? なんでそうなる?

「鷹城君、娘は大和撫子としてどこに出しても恥ずかしくないよう躾けてあるので存分に使ってやってください」

 馴れ馴れしい、もとい人懐こい愛想笑いを浮かべてとんでもない言葉を吐く間男パパ。コイツに投票してる奴ら、コイツの本性わかってて支持してんのか?

「では先生、行きましょう」

 俺に愛想笑いを浮かべて軽く一礼すると、天羽弁護士を連れて出て行ったのだった。




「…………」

「…………」

 気まずい沈黙。律花女史の表情を窺うと、少なくとも表立っては平静を保っているようだ。


「あの、世話とかいいんで帰って下さい」

 いつ舞が来るかわからん。舞と律花女史が鉢合わせするのはマズイ。妙な誤解を生んでしまいそう。

「そんなわけにはいきません。何なりと用事を言いつけてください」

「身の回りのことは妹がやってくれてるんで本当に大丈夫です」

「あなたの迷惑でなければ、私にその役目をさせてください」

 

 舞とイチャコラできひんから迷惑なんスよ……とはさすがに言えない。ていうか、病室でJKと二人きりのところを舞に見られたら関係崩壊の危機やん?


 俺は毅然とした態度で言ったよ。

「来島律花さん、ならあなたのためにもハッキリ言いましょう。加害者家族のあなたの世話になるつもりはありません。看護師さんもいるし、家族も来てくれます。お引き取りください」

 カッコ良くてゴメン☆


「そうですか……そうですね」

 JKも立場を理解しているのだろう、悟ったように半ば諦めたように頷いた。

「わかりました。このフロアの面会ルームで控えているので用事があれば呼んでください」

 そう言って紙切れを渡してきた。名前とケータイの番号が書かれてある。凄くキレイな字だ。いや、字はどうでもよくて、全然立場理解してくれてへんやん!?


「あの、ですから……」

 俺が言いかけるのをJKが制した。

「『被害届の取り下げ以外なら』って言葉、良かったですよ。久しぶりに笑わせてもらいました」

 微笑みを浮かべている。こんなに柔らかい笑顔を作れるのかと意外に思った。

「お礼に忠告してあげます」

 律花女史は続けた。

「スマホで調べればわかることだけど、父は県議会で重きをなす実力議員です。次の総選挙で国政に打って出ようってタイミングで今回の事件が起こりました。民自党の公認が得られるかどうかの瀬戸際に立たされています」

 ここで一旦口を閉じて真っすぐ俺の目を見据えた。舞という存在がなかったらこの冷凍系の美貌に一発でやられていたかもしれない。


「天羽弁護士についてだけど、特捜検事って聞いたことありますか? 彼は名古屋地検特捜部に在籍していたことがあるヤメ検弁護士。ヤメ検弁護士は検事出身の弁護士って意味です」

 一呼吸入れて話を続ける。

「あの男は検事時代の経験を活かして政治家や企業家、暴力団のために働く典型的な悪徳弁護士で、顧客層の闇深さから『闇の守護神』と呼ばれています。本来なら父のような小物は相手してもらえないんだけど、あらゆるコネを駆使して引き受けてもらったみたいね」


 俺絶句。途方もない話に現実感が湧かんわー。


「いいですか、鷹城さん」

 律花女史は警告を発した。

「追い詰められた野心家と凄腕の悪徳弁護士が相手ってことを片時も忘れないようにしてください」

 つまり舐めプ禁止ってことだろ? これは有益な情報だ。実のところ、間男パパとその弁護士の相手をするのは俺じゃなく親だから、親にこっそり教えといた方がいいよな。同じ理由でマユの父親にとって役に立つはずだ。

 ……ただし、この女の言葉にウソがないことが前提になるんだけどな。


 立ち去ろうとする背中に聞かずにおれない。

「どうしてそんなこと教えてくれるんですか?」

 彼女は振り返った。

「……敵の敵は味方っていうでしょ? 私なりの友敵理論が主な理由だけど、笑わせてくれたお礼っていうのも本当の気持ちです」

 本当だろうか? コイツのもたらした情報は調べればウソかどうかわかるタイプのものだから、そんなウソはつかないだろう。


 俺は今回の事件の被害者、この女は加害者の妹。立場が違いすぎる。今のところ、疑う心を忘れず、信じるフリをするくらいにとどめよう。

「来島さん、あなたの『友敵理論』に興味があります」

 俺の言葉が予想外だったのか、律花女史は一瞬驚いたようだった。

「私を信じてくれるのですか?」

「いえ、信じるフリをします」

 JK女子、目を細める。口の端を歪めて笑うあたり、ちょっと性格に問題ありそうな女だ。

「そうですね、友敵理論を知ってもらい、助け合うフリができる関係になればと思います」


 決まりだな。俺は言った。

「『フリ』であるかぎり、全く問題ないですよ」

 

 二人して頷き合う。薄っぺらい相互理解で始めた友愛同盟(仮)、うまく役立ててくれようぞ。舞、兄ちゃん頑張るからな!


 と心の中で気炎を吐いた瞬間、よく知った声が病室に響いた。


「……何してんの?」

 ものすごく冷たい不穏な声。振り向いた先に舞が立っていた。

 


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