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13 間男絶対死なす!(怒怒怒

 家を飛び出し一路、マユの家を目指す。

 舞は後から追ってくる手筈だ。あいつは彼氏シャツ姿だったからさすがに着替える必要がある。


 俺、中学時代は3年間バスケをやってたんよ。中学バスケの試合時間は8分×4クォーターの計32分。休憩を挟むけど32分ずっと走りっぱなしなわけだね。だから徒歩10分のマユん家まで最大戦速で急行できる。

 

 走りながらいろいろ考えを巡らせたが、要点は二つ。一つ目マユの家が施錠中だった場合どうやって突入するか、二つ目間男をどうしてくれようか。

 マユのことは心配してる。でも舞との大事な時間をぶち壊しにした間男への報復感情が勝ちすぎて今の俺憎悪の塊。


 マユん家まで3~4分くらいかな。


遅いって?

 いやいや、人と車を避けつつ曲がり角を曲がり、信号に止められたりしての時間ですやん?


 到着後、息を整えながら家を見渡す。舞とのセックスを邪魔されて怒りに燃えている俺は目をギラつかせ玄関ポーチに踏み込み、乱暴に玄関ドアのレバーを掴んだ。施錠されている。

 インターホンを連打、少し離れて1階、2階の窓を見る。

 人影はない。


 この状況は想定済みだ。さっき走りながら考えついた究極の突入手段に出る。

 マユの家は敷地内にカーポートがあり、その端っこに自転車が止めてあった。デザインからマユのだろうと察せられた。


 この自転車を放り投げて窓を割って突入しようと思う。事ここに至ってはお上品な解決策などない。大騒ぎを起こせば間男も下手なことはできないはず。


「マユ! マユ! いたら返事しろ!」

 ご近所の静寂を突き破る大音声で名を叫ぶ。

 やっぱり反応はないので自転車を掴み上げ、窓を探す。

 掃き出し口っていうの? 大人の身長くらいのガラス戸があったのでそこに狙いを定めた。ガラス戸は結露しにくい二重ガラスのヤツ。


 クソ野郎、もしマユに何かあったら死なす。何もなくても死なす!(怒怒怒怒怒怒怒


 憤怒の形相でガラス戸を睨みつけていると「兄貴!」と声がかかった。振り返ると自転車から降り立つ舞だった。ジャージ姿になっている。

 俺と同じで息せき切って駆けつけたのだろう。肩で息をしている。


「ガラスをぶち破って突入するぞ。お前は警察呼べ!」

「⁉ ま、待って!」

 舞が制止するより早く自転車をかついで窓に放り投げた。自転車は推定マユのやつな。


 ガッシャーン!

 ド派手にガラスの割れる音が響き渡る。これでご近所は騒然とするだろう。

 割れたところに手を突っ込みクレセント錠を解除、ガラス戸を開いた。土足のまま中に押し入る。器物破損、不法侵入だって? 俺は未成年で初犯だ。マユを助けるって大義名分もある。大丈夫、いけるいける。


「マユ!」

「マユ!」

 舞が俺に続いて入ってきた。

「兄貴、スマホ!」

「⁉」

 録音録画か! こんな状況でも証拠確保を忘れない。俺の妹は冷静さでも世界一。

「俺のスマホも頼む! 俺は上に行く!」

 俺が放り投げたスマホをキャッチすると舞は頷いた。


 目的地は二階のマユの部屋。突撃あるのみである!


 ドタドタと階段を駆け上がるとマユの部屋のドアが開いていた。突入すると真っ先に飛び込んできたのは驚いた顔で振りかえる間男ヤロー、その奥には上着をひん剥かれたあられもない姿のマユ。

「ち、違う、俺は何もやってない!」

 間男がわめいた。アホやろ、コイツ。


「そうだろうなぁ! そりゃそう言うしかねぇよなぁっ!」

 俺は怒声を上げた。

「どけ!」

 間男は俺の横をすり抜けて逃走しようとした。俺バスケやってたからこの狭い空間で逃がすようなヘマはしないよ。

 避けることを諦めた間男は俺の胸ぐらをつかんで押し通ろうとする。俺は間男の邪魔はするが反撃はしない。これこそ考えに考えた『間男を死なす方法』。


「どけっ!」

 両手で俺の首を掴み、締め上げようとしてきた。さすがにこれには抵抗する。が、純粋に腕力で負けているので後ろに下がるしかない。階段の踊り場まで押しまくられて俺は片足を踏み外してしまった。

「「⁉」」


 落ちる!


 思ったのはそれだけだった。次の瞬間体中に激痛が走り暗転、俺は意識を失った。






 目覚めると白い天井。病室だろうとすぐに察した。大部屋ではなく個室だよ。場所はわかったが時間はわからない。体中が痛い。理由はわかっている。マユの家で階段から転げ落ちたんだった。マジ体中が痛い。麻酔とかどうなってるんやろ? 点滴がぶら下がっているのが見えた。痛み止めかな?

「兄貴……!」

 俺が目を開いたことに気づいた舞が潤んだ声で呼びかけてきた。俺の手をぎゅっと握りしめる。


「うぅ……」

「ご、ごめん、痛かった?」

「いや、手は……気持ちいい」

 そう言うと握る手に力を込めてきた。幸せなはずなんやけど、握り返すことができない。


 コンコンコン……ドアをノックする音、間髪入れず引戸が開けられる。

「ああ、目覚めました?」

 ハキハキした女の声。若い看護師がカーテンを割って入ってきた。舞は静かに俺の手を離す。

点滴を見に来たらしい。腕時計をチラッと見てクレンメをいじっている。クレンメってのは点滴の速度を調節する装置のことな。

「気分悪いとかない? 頭も打ってるからそれを心配してるんだけど」

「気分は大丈夫です。痛み、なんとかなりませんか?」

「痛み止めも点滴してるんだけどね。どこか特別痛いところある?」

「いえ、全身痛いです」

「うーん……、がんばれ男の子」

 ですよねー。

「……はい」

「先生には報告しておくから。ごはん食べれそう?」

「食べていいんですか?」

「食べられるなら食べてほしいな」

「食べます」

「うん、だいたい6時くらいに持ってくるから」


「あの、本当に兄は大丈夫なんですか?」

 舞が口を開いた。

「先生から話があったと思うけど、脳は大丈夫。肩甲骨に少しヒビが入ってるのが一番のケガかな。格闘しながら階段から落ちたんでしょ? この程度で済んだなんてホント奇跡」

 ウィンクして看護師は出て行った。舞が頭を下げて見送る。そして俺を振り返って言った。

「……ホントにバカ」

 俺の妹は怒った顔も世界一。





「マユはどうなった? 無事か?」

「うん、今は警察署にいるはず。婦警さんが一緒にいてくれてるみたい」

「警察署?」

「家にいたらお母さんが戻ってくるから嫌だって。お父さんがこっちに向かってるから、お父さんと合流するって」

「海外赴任だったな」

「ヴェトナムだって。今夜中にこっちに帰ってこれるみたい」

「そか……。マユ、どんな様子だった? その……今回のことがトラウマになったりしてないか?」

「なってるかも。襲われたことと兄貴が大けがしたこと両方で。兄貴の容態を何度も聞いてきてるから」


 俺のスマホにも来てるだろうか?

「スマホ取ってくれ」

 ベッド横の台(床頭台)に置かれていたスマホを取って、俺の手に持たせてくれた。

 パスコードを入力してライムを起動するとチャットが複数届いていた。俺の入院を聞きつけた友人たちからで、マユからは一つもない。まぁ、普通は舞に聞くもんな。


「マユからは来てないな。あのな舞……」

 俺は舞の目をじっと見つめて続けた。

「今回俺がこんなことになったけど、それはマユのせいじゃないからな」

 俺がケガしたことで二人の友情にひびが入ったら目も当てられない。

「うん、わかってる。マユは被害者、兄貴はマユを守った。私は正しく理解してる」

「それにこの状況は狙い通りだったってのもある」

「え? どういうこと?」

 怪訝そうに眉をひそめる舞。かわいい。


「間男は会社勤めの社会人。それが既婚者と不倫した上、不倫相手の娘を襲って、助けにきた未成年者に大ケガを負わせたんだぞ? これは社会的オーバーキルと言っていいだろう」

「最初からそれを狙ってたの?」

「もちろん。無抵抗に徹したのは暴力をふるわせるためだ」

「そんなことで階段から落ちたの? まさかわざと落ちたの?」

 舞の声が低く、冷気を帯びる。

「いや、階段から落ちるのは計算外だった。でも最高の結果になったよな。さっきの看護師さんの話では俺のケガ、大したことないらしいし」

「……早く退院しましょう。私が看病してあげる。泣いてもわめいてもやめないから」

 ガシッと両肩を掴まれた。

「いっ⁉」

 激痛が走り悲鳴が出そうになる。

「心配かけて悪かった! もう二度と危ないことはしない!」

「そんなの当たり前でしょ? 普通は一回だってしないの!」

 声は怒気交じりだが両手に力は込めてこなかった。


 動けない俺に覆いかぶさるように舞。じっと見つめ合う。す、すごくいいフンイキ……。

「……お前の友だちを守ったわけだし、退院したらご褒美が欲しいんだけど……」

「……何が欲しいの……?」

「いや、その……」

 そんなん恥ずかしくて言えないやん? 


『欲しいもの? お前に決まってるだろ……』

 などと言えるわけもなく、

「……二人きりの時は名前で呼ぶ、とか」


「そんなの当たり前でしょ、健人。……他には?」

 舞の方から視線を外し、じっと俺の唇を見つめ始めた。俺の次の言葉を催促するように。


 なるべく恥ずかしくない言い方っていうか、言葉を選びながら俺は答えたよ。

「……『あの時』の続きを」

「『あの時』ってどの時?」

 人差し指で俺の唇を撫でながら執拗に問いを重ねてくる。相手に逃げ道を用意しないタイプなんだな、舞さん。

 これ以上色っぽいやり取りはしたくないんやけど。体動かんのに下半身は動こうとするんだで? 生殺しは地獄だわー。

「舞、ここまでだ。治ったらコンドーさん、全部使うからな」

「……うん」

 俺の答えに満足したのか、舞は解放してくれた。





 面会時間いっぱいまでいると舞は言い張ったが、遅くになると良くないから晩御飯が終わってから帰らせた。


 クラスメイトや中学時代の友だちも見舞いに来てくれたし担任教師も顔を見に来てくれた。病院側から『患者を刺激しないように』と申し渡されていたらしく、俺の元気な姿(?)を見てすぐに帰った。


あと、刑事も来たぞ。「患者の体調が悪くなったら即中止」という条件付きで面会することになった。

 マユの両親の夫婦仲を徹底的に破壊する方針なので、方針通りの証言をした。もちろんなるべく冷静に、俺から見た事実だけを話した。言いたいことは山ほどあるんだけど、それを感情の赴くまま放言したら、俺の証言能力を疑われるかもしれない。極力感情を表に出さず、慎重に言葉を選んで証言しましたよ。

 間男ヤローも片腕片足骨折で病院送りになったとのことだ。この病院じゃない。多分警察病院だろうな。

最後にこの感情論だけははっきり口にしたよ。『犯人の厳罰を望みます』ってな。




 刑事が帰ってやっと独りになれた。早速シャベルを開いてマイに報告を入れる。ちなみにマイからDMは無かった。


『実は階段から落ちて入院することになった。あちこち痛いけど大したことないらしい。返事が遅れがちになると思うけど元気なのでご心配なく』


 すぐに返事が来た。


『妹さんを襲って押し倒すって言ってたのに、なんで階段から落ちたって話になってるんですか? 本当に大丈夫なんですか? 気分が悪くなったらすぐナースコールしないとダメですよ?』


 なんか、驚いているようで、驚いていないって感じの反応だよな。いつものマイならもっと事情を根掘り葉掘り聞き出そうとしてきそうな気がする。その方が俺も気が楽だけど。


『わかった、ありがとうな。こっちはガンガン妹攻略中だからお前も兄貴殿をガンガン攻略してくれ』

『ガンガン攻略w わかりました。大攻勢を仕掛けることにしますw』

『大攻勢w まめな戦況報告を頼む』

『兄さんも報告してくださいよ? 今日はゆっくり休んでください、お大事に』

『ありがとう』


 いやー、癒されるわー。マジいい子だよな。どんな子なんやろ? こんな妹に攻略される兄貴殿が羨ましいッス。




 面会時間終了間際にもう一組来客があった。マユとその父親だ。中国から急遽帰国、取るものもとりあえず俺の病院に急行したとのこと。

 マユ父は四十代前後、この娘にしてこの父ありって感じのイケメンだった。『デキる男』オーラを全身から放っている。スーツのことはよくわからないけど、きっと高級ブランドなんだろうな。

「鷹城健人くん……だね。この度は妻のことで大ケガをさせてしまい申し訳なかった。そして娘を助けてくれてありがとう」

 父娘ともども深々と頭を下げられて恐縮してしまう俺。

「いえ、俺こそお宅の窓ガラス割ってしまいました。すみません、」

 弁償します……と言いかけたのをマユパパは瞬時に否定した。

「君が謝る必要はない。私は君に感謝の気持ちしかない。本当に、本当にありがとう」

 真っすぐ俺の目を見据えて再度謝意を告げる。女房の裏切りやら間男への対処やら、その両人が自分の勤務先であることやら、難しい問題が山積しているはずだけど、スゲー落ち着いている。大人の男って感じやね。


 マユパパに娘が続いた。

「タケト君、舞から話は聞いてます。本当に大丈夫なんですか?」

「ああ、痛い以外は何の問題もないよ」

「それって大問題じゃないですか……」

「いやいや、マジで大丈夫なんだって。メシも食ったし。全然足りなかったけどな」

「明日差し入れ持ってきます」

「差し入れは間に合ってるよ。お気持ちだけ、ありがとう。おじさん……」

 俺はマユパパに向き直って言った。

「俺のことは本当に大丈夫ですから、少なくとも俺の容態のことで悩まないでください」

「ありがとう」

 マユパパは微笑んだ。

「今日はとりあえず挨拶まで。また後日伺います。親御様にもご挨拶に伺う旨、よろしくお伝えください」

「わかりました」


「ではお大事に」

 軽く会釈してマユパパは退出した。マユも後を追うかと思いきや、こっちに近づいてきた。耳元でそっと囁く。

「……レイプされるのもアリかなって思ってたんだよ? そうなればあの女を完全に追い出せるでしょ? でもこれで良かったのかもしれない。助けてくれて本当にありがとう」

「? ……何を言ってるんだ?」

 マジでそう思わん? 何言い出すんだコイツ? 


マユは微笑を浮かべながら問いに問いで返してきた。成人男性にレイプされかけた直後と思えぬ余裕の表情だ。

「タケト君、舞のこと好きなんでしょ?」

 ど、どう答えたらいい? 家族愛、兄妹愛の次元で返事をするべきか?

 口を開きかけた機先を制し、マユは畳みかけてきた。

「嘘つかないで。私を味方につけておくと得だよ? アリバイ作りとか、いろいろ協力してくれる人が必要でしょ? 特にタケト君と舞の場合、兄妹なんだから」

 カマかけられてる? 頷くのはヤバイし、舞との関係を否定するのはもっとヤバイ。どうすりゃいいんだ……? 頭打ってワケわからんフリすべき?


「私、お父さんが好きなの」

 出し抜けにそんなことを言い出した。俺、振り回されっぱなし。

「もちろん子供としてじゃなく女として。恋愛にはいろんな形があるでしょ? タケト君ならわかってくれるよね?」

 これは肯定せざるを得ないな。

「ああ。おじさん、カッコイイ人だもんな」


「うん。今までは邪魔者追放のために協力してもらってたけど、これからはあの人の心を勝ち取るために協力してほしいんだ」

 この協力要請への返事は『Yes』だな。俺と舞にとって有益なはずだし、断ってコイツを敵に回せばかなり厄介なことになるだろう。


「わかった。協力する」

 俺は二つ返事で頷いた。マユは嬉しそうに顔をほころばせる。

「ありがとう。頼りにしてますよ、タケト君」

 おっ、敬語モードに戻ったな。


 病室の外に出ていたマユパパが戸を開いた。

「マユ、あまり長居すると鷹城くんに悪い」

 マユパパの言葉をうけて「それじゃあお大事に」と今度こそマユは病室を出て行ったのだった。



 マユ達が帰ってから消灯時間までひたすらスマホ、スマホ、スマホ。

 シャベルを立ち上げてマイにDMを送る。


『緊急報告。妹の友だちと恋愛同盟を締結することになった。相談に乗ってほしい』

『恋愛同盟?』


 秒で短文の返事が来た。少ししてからもう一通。


『私や妹さんにも内緒で締結した恋愛同盟について詳しく』


 なんかトゲのある言い方やん? 


『ややこしいから今後は妹の友だちを『ユマ』と表記するな。俺入院中なんだけどユマが父親と見舞いに来てくれたんだよ。二人が帰るとき、ユマだけ残って少し話をしたんだ。ユマは自分の父親に恋愛感情を抱いているらしい。俺の恋愛を手伝う代わりに自分の恋愛にも協力してほしいと言われたんだ』

『兄さんの恋愛の手伝いって、そのユマさんは兄さんの好きな人を知ってるんですか?』

『バレてるっぽかった。正直、カマかけらたのかもしれない。アリバイ作りその他で協力するから、ユマにも協力してくれって話だった。もう話してしまうけど、前に『妹が友達から相談を受けている』って言ってた件が、このユマの母親の不倫問題だったんだ。順を追って説明すると、ユマのオカンが不倫→不倫相手がユマを襲う→助けようとした俺が不倫相手と階段から転落→俺入院→ユマと同盟(今ココ)』


『ユマさんが父親攻略中として、お父さんは娘をそんな風に見ているんでしょうか?』

『わからん。メチャクチャイケメンだったぞ。独り身に戻ったとして、その気になれば女には困らないだろうな』

『父親が好きっていうのは偽装工作で、本当は兄さんを狙ってる可能性はないんですか?』

『出たわね陰謀論。さすが兄貴殿の部屋のことを本人より良く知ってる女』

『そんなに褒めたって何もでませんよw ユマって子がすごい策士に思えてきました。兄さん、協力するのはいいですけど、気をつけてくださいね』

『わかた。ま、ユマとも話して詳しい情報を得ないとどうにもならないよな』


『このこと、妹さんには内緒にするんですか?』

『いや、口止めした上で話すわ。あいつは信用できるヤツだからな。ユマのことを大事に思ってるのも伝わってるし』

『そうですか。妹さん、きっと喜びますよ』

『秘密を守れない、口の軽い男と思われたりしないかな』

『思うわけないじゃないですか。こんな秘密同盟があったなんて知ったら私だったら泣いてしまいますよ』

『マジか。でもな、今後妹には内緒にしなければならないこと、秘密にしたいことってのがたくさん出てくると思うんだ。好きな相手だからって、何から何まで共有していいわけじゃないだろ? 俺の考え、おかしいやろか?』

『そう思うのは仕方ないです。妹さんに言えないことは全部私が聞いてあげますよ』

『頼もしいな。お前と知り合えてよかった。改めて今後ともよろしくお願いします』

『こちらこそ』

『今日は目まぐるしくいろんなことが起こったよ。さすがに疲れたからもう寝るわ』

『はい、ゆっくり休んでください』

『おやすみ』



寝ようかと思ったらライムの着信音。マユからと思われる。いつものようにシャベルを閉じてライムを立ち上げる。やはりマユからだった。


『タケト君、今日は本当にありがとう。私のためにケガまでさせてしまってごめんなさい』

『俺をケガさせたのは間男だろ。おじさんにも言ったけど、俺のケガのことでお前が悩むのはやめてほしい』


 そう返したんだが既読もつかずもちろん返事もなかった。家族会議とかかもしれないし、舞と喋ってるのかもしれない。明日にしよう。


 とっとと退院できますように。


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