11 朗報! 俺氏、舞の誘惑に一発で撃沈
朝。
昨晩はあんまり眠れなかった。キスを思い出すと罪悪感だけじゃなく、その、性的興奮がね。
寝入りが悪かったから、ちょっと起きるのが遅くなった。登校には差しさわりはないけどな。制服を着て下に下りる。まずは洗面室で顔を洗う。
「タケト君、おはよ~」
洗面室で歯を磨いてると、マユが声をかけてきた。振り返るとマユは夏用のセーラー服姿で通り過ぎた。昨夜お泊り会だったから今日はウチから登校するわけだね。
歯磨きの最中だった俺が挨拶を返せないことも気にせずマユは玄関から外に出て行った。
口の中を水でゆすいでいる時に今度は舞が通りがかった。
「おはよ」
同じく夏のセーラー服姿。長い黒髪をポニーテールにまとめてうなじが涼しげだ。ドキッとしたのはかわいいからじゃない。いや、超絶かわいいけど。
「おう、おはよ」
「今日からお父さん出張だって」
「そうなん?」
「帰ってくるのは来週月曜日」
「ふーん」
がんばって下さい、お父ちゃん!って感じ。
「お母さんは夜勤」
「そうだな」
それはわかってる。食事当番は舞。
「何が食べたい?」
ん? 今日リクエストOKなん? いつもはオカンが献立決めるから意外。
食いたいもん食えるのか。ならば……
「肉! ニンニク肉!」
焼肉にニンニクスライスを載せた究極無双のおかず、それがニンニク肉。
「却下」
涼しい顔で否決された。明日も平日なので仕方ないか。
「ハンバーグ!」
「却下」
ハンバーグもダメなんか。メンド臭いのかな。エビフライとかトンカツも却下されるやろな……
「トンテキ! 豚肉をフライパンで焼くだけ!」
「却・下」
いきなりネクタイを掴まれた。そのまま顔を引き寄せ唇を合わせてきた。
「!!!……っ」
俺、一発で目が覚めた。いや、覚めてたけどびっくりした。
舞はゆっくり唇を離した。
「ま。舞……?」
「……唇って、万人不同終生不変の魔力があるんでしょ?」
「お、おう……?」
口唇紋のことか? あれって結構有名な話なんか?
「……私からキスしたんだよ? これでも罪の意識は消えない?」
なんかこう、全てを見透かすような瞳でじっと見つめてくる。
「でも俺がその、舌を入れてさ……」
「リクエストは? ヒントはもう全部出てるんだけど」
胸の動悸が高まる。これって、舞も俺のこと好きってことだよな? 誤解の余地あるか?
ぐっ、……勇気、勇気、勇気……!
「……お前」
「……私がなに?」
却下じゃなかった! 否定しなかった! 拒絶しなかった!
「……お前がほしい」
「……うん」
ネクタイを引っ張る力が緩み、俺は解放された。
言った! 言ってしまった!
玄関ドアのハンドルに手がかかる音がした。扉が少し開いてマユの声がする。
「舞、まだ?」
「今行く」
短く答えると靴を履いてさっさと出て行った。
残された俺は胸をかきむしるように押さえて「はぁっ、はぁっ」と呼吸を整えるのに必死だった。
そうだ、マイ。マイに報告!
スマホを取り出しシャベルを立ち上げると新着DMが来ていた。俺の相談に対するマイの返事だった。
『妹さんの方からキスしてきたのになんで兄さんが罪悪感に苦しむんですか? 謝らなくていいって妹さんが言ってるなら謝る必要ないですよ。罪悪感を持つことは妹さんを信じられないってことです。違いますか?』
妹からキスしてきたなんて俺は書いてないんだが、誤解しとるみたいだ。いや、今となってはどうでもいいことやん?
食べたいものは何かと聞かれて「お前を食べたい」って答えてOK出たんだぞ? これってそういう意味だろ?
マイにDMを送る。
『緊急、緊急! さっき妹にキスされた。今晩両親不在で妹が食事当番。晩飯の話をしていたらいきなりキスされてリクエストを聞かれたんだ。もうこれ誤解の余地ないやん? だから『お前』って答えたんだ。そしてOK返事だった。これってそういうことだよな? 俺がアイツを押し倒しても襲ってもOKってことだよな? 合ってるよな? 忙しいとは思うが俺の人生最大の岐路やと思う。頼む、軍師的な意見をくれ!』
送った、送ったった! 返事頼むぞ、マイ!




