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99話 その頃

「泉さん、傑が辞めるってどういうこと?」


 あの遊園地の一件以降、傑と顔を合わせる機会もないまま、傑がメタガラスを脱退して移籍したという情報を聞いた私は当に青天の霹靂といったように衝撃を受けた。

 そして、居ても立っても居られなかった私はすぐにメタガラスの事務所であるプレハブ小屋にやってきていた。

 そこには既にメタガラスのメンバーが詰めかけており、私の言葉に泉さんの言葉を待っていた。


「僕が許可した」


 泉はそうなんとも感情の読めない声音でそう言うと、パンと手を叩いた。


「さあ、僕たちは僕たちのできることをすることだよ」


「ねえ? 本当にそれでいいの?」


 私が思わずそう尋ねると、泉はそれがどうしたとでも言うように顔を傾けると言う。


「去る者は追わずだよ。僕はいつだってそうだ。それが僕の信念だからね」


 その言葉に私が感情の高ぶりにまかせて声を上げようとすると、先に怒りに任せるような声が響いた。


「お前、自分がいなくなった時は、傑に追いかけてもらっておいて傑がいなくなったときは素知らぬ顔でいられるんだな」


 大塚ちゃんが目に涙を貯めてそう言うのを見ていると、私の中の怒りの感情が急速にしぼんでいくのが感じられた。


「いいわ。私は私で傑にかけあってみる。泉さんは泉さんで勝手にすればいいと思う」


 私がそう言って、部屋をあとにしようとすると、私の袖口を掴んで大塚ちゃんが見上げていた。


「私も彩ちゃんの手伝いをする」


 そして、大塚ちゃんと泉さんとの方を交互に見て、迷う素振りを見せていた早苗さんも私の方へと向かってきた。


「私は、彩ちゃんと一緒に行動するっすけど、メタガラスはチームなんすから、ちゃんと話合ったほうがいいと思うっすよ」


 早苗さんはそう言いながらも私達の方へと動いた。


「彩さん、拙者はやっぱり泉どのを放っておけないです。得られた情報は逐次報告を入れるので」


 田所くんがそう申し訳無さそうに言うので、私はフォローするように口を開いた。


「私たちは仲間なんだから、そんな申し訳無さそうにしないで、ちょっとアプローチの仕方が違うだけだから」


 私はそうは言いながらも納得はできない泉さんの態度を思い出して、努めて泉さんの方を見ないようにした。


「いなくなるなら、それはそれで良いんじゃないですかね。私はいつでもいつまでも泉さんの味方ですから」


 エイヴェリーさんはそう言って、既に近かった泉さんとの距離をさらに一歩縮めた。

 泉さんはそれに呼応するように一歩離れてはいたが。


「ねえ? 楓は本当にこんなでいいの?」


 翼さんがそう泉さんに尋ねると、泉さんはなんともなさげに言った。


「僕は、」


 泉はそこで言葉を引っ込めると、先の言葉を話さなかった。

 私はもういいと、プレハブ小屋をあとにしようと出口を目指した。そして、扉近くで今まで一度も口を開かず話し合いを見ていたあずちゃんの前で止まった。


「あずちゃんはどうする?」


 私がそう聞くと、あずちゃんはちょっと迷うように泉さんと私を見ると、小さな声で言った。


「やっぱりみんながいいと思う」


 その言葉には私ではなく大塚ちゃんが答えた。


「あんなに人情味のないやつとは無理」


 その大塚ちゃんの言葉にあずちゃんはとても悲しげな顔を浮かべると、先にプレハブ小屋をあとにした大塚ちゃんの後を追った。

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