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9話 妹ちゃん、天才を翻弄する

 打ち合わせ当日の日曜日がやってきた。打ち合わせは午後の予定だったので、起きてすぐに習慣にしている朝コーヒーを飲むと、梓の部屋をノックする。

 しばらくして部屋から出てきた寝ぼけ眼の残念美少女、梓の準備ができると、俺達は松本駅へと向かった。

 泉とは駅で集合する予定だった。泉のことなので、なにかをしてくるような気がしてならなかったが、この心配が杞憂のものであることを祈りながら、俺たちは駅前の広場へと足を向けた。



 結論から言おう。なにもないということなんてなかった。


「お兄ちゃん! 烏城(からすじょう)さんって男って言ったよね! ねえ!? 彩ちゃんに言っちゃうぞ!」


 泉は、俺に断りもなく、あの入試のときの女装姿でやってきていた。唯一違うところといえば、服装が中学の制服から、都会女子感あふれるおしゃれな普段着になっているところだろう。

 控えめなレースが程よいお嬢様感を出していてぶっちゃけテレビに映っているような芸能人よりもキレイな気がする。それはそれで実物を見れば別の感想になるのかもしれないけど、地方都市育ちじゃそんなものをお目にする機会もない。


「こんにちは、えーっと梓さんでしたっけ? いつもお兄さんと仲良くさせて頂いています。泉楓(いずみかえで)といいます」


 泉は、中身が男だと微塵も感じさせぬ清楚オーラを醸し出しながら普段の落ち着いた口調からは考えられないような口調で梓に挨拶する。


「うぉーッ、彩ちゃんがお嫁にくる予定だったのにこれも捨てがたいよう」


 梓は鼻血を出すような勢いでそうのたまう。


「梓、俺は別に嘘ついてないからな……」


 興奮している梓にそう言って嗜める。


「嘘だよ! こんな可愛い男の子がいるわけないんだよ!」


 梓は泉が男だということを頑として認めない。俺は、仕方なしに泉にネタバレするように勧める。


「泉、梓が本当に鼻血を出しそうだから、そろそろネタバレしてやってくれ」


 俺がそう言うと、泉はふふと笑みを浮かべると言った。


「すまないね、梓くん。僕、実は男なんだ。これは女装さ」


 泉は、さっきまでのキャラ作りを放棄して普段のキャラに戻る。


「理系女装男子、ハスキーボイスキタコレ!」


 梓はネタバレの興奮でついに鼻の血管が切れたのか、顔を真赤にしながらポタポタと鼻血を垂らしだした。


「お、おい! 梓、大丈夫か?」


 すぐにリュックからティッシュを取り出して梓の鼻に当てる。


「お“お”に“い”ぢ“あ”ん“」


 梓はせっかくの可愛い顔を台無しにして、為すがままになっている。


「お前、本当に来年、女子高生になれるのか?」


 そう言って鼻をつまむ力を強めると、梓はティッシュを奪い取りながら言った。


「ふふん、わだし。見た目は良いから、何をしてもドジっ子キャラとして好意的に受け止められるはずだよ」


 この歳でそれに気づくとはすごい。しかし、重大な問題があるのでそのことを突っ込んでやった。


「それが通用するのはピチピチの女子高生までだと思うぞ。大人になったらただの痛いやつだ」


 そう指摘すると、梓は胸を張って言う。


「私、可愛いから高校在学中に将来稼ぎそうな男を捕まえちゃうもんね!」


「そうか、お前の行けるような高校にそんな条件の男がいるといいな」


 そうやって現実を指摘すると、梓はすぐに、泉の袖を握った。


「どうですか? 泉さん。私見た目はいいと思いますよ!」


 迫られた泉は視線をあちこちにやりながらたどたどしく答える。


「僕は、君みたいなお子ちゃまには興味ない」


 なにこれ面白い。おバカな妹が天才な泉を翻弄している。


「うーん、それにしては随分体を硬くしてますね」


 梓はそう言うと、ぎゅっと体を密着させた。


「ひゃ、やめろ」


 泉はそう言って、梓から逃れようとする。


「おりゃ」


 梓は攻勢とばかりにすぐにまた体を密着させる。そろそろ泉がノックダウンしそうだと判断した俺は梓を止めにはいる。


「梓、そろそろやめてあげて」


 しかし、遅かった。


「あ、お兄ちゃん。泉さんが」


 妹の言葉に泉を見ると、泉は顔を真っ赤にさせながら、ついに鼻血をぽたぽたと垂らし始めた。


「お前ら揃って鼻血垂らすなよ」


 少なくとも見た目上は最高級に可愛い女の子二人が体を密着させながら、鼻血を垂らすというなんともアブノーマルな魅力のある光景に先程から駅を利用する客がチラチラと視線を向けていた。


「美人は3日で飽きるというけど、これを見る限りそうは思えん」


 俺はそういいながら、泉にポケットティッシュを手渡した。


「ポケットティッシュ買わないとな」


 俺は新宿行の特急あずさに乗る前に、売店でティッシュを買う羽目になった。

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